落ちてきた数字

田古みゆう

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 大学のランクは意味をなさなくなった。国の方針に従って、突然、学歴社会はスコア社会となった。

 研究によると、超人的能力の開花にはスコアが十万を超える必要があるが、そのラインに達していなくてもスコア保持者であれば、誰でも突出した能力が1つはあるらしい。

 そのスコアを重視するようになった社会は、完全な能力重視社会となり、これまで社会の底辺で燻っていた大卒者以外の者たちが、その能力を見せつけるかの如く台頭してきた。これまでの学歴社会であれば、社会のトップは軒並み大卒者が占め、我が物顔で街中を闊歩することができたが、完全能力重視社会になり、その立場は逆転することになった。

 能力があれば、学歴や財力がなくとも社会のトップを目指せることになった人々は、ある者はこれまでよりも高水準の生活を目指して、またある者は生活レベルを保持するために、スコア強化のための数字確保に躍起になった。

 スコアを上げることで能力は強化される。しかし、能力の上昇率については、誰もが一律ではなく個人の素質と能力の相性も関わっているようだ。

 例えば、マラソン選手を目指す人に向いている素質は、体を動かすことが好きな人や疾走感を求めている人など。これらの素質を持っている人が、筋力増加や肺活量増加といった能力値を上げることができれば、世界屈指のマラソン選手になれるらしい。

 それぞれが個々の素質の特性を知り、それに合った能力を上手く伸ばした結果、人々の中には、個性豊かな人が増え始めた。筋肉ムキムキで畑仕事に精を出す初老男性、料理の能力を伸ばし主婦からシェフになった元奥様、身体を動かすことが好きな者たちはこぞって運動能力を伸ばし、オリンピックを目指す者が増えたとか。ある中卒者などは、人と関わることが好きだったため、コミュニケーションの能力を伸ばした結果、多角的な人材派遣の会社の設立に乗り出し、あっという間に財を成した。

 これまでの生活からは考えられないような転身や躍進が至る所で聞かれるようになった一方、人々がより多くの数字を求め始めたことにより、数字の枯渇問題が浮上。数字の奪い合いによる喧嘩が其処彼処で頻発するようになっていた。学歴社会の頃よりも粗雑な人が増え、殺伐とした社会になってきたころ、研究チームがある発表をし、皆の目の色が変わった。

 間もなく大量の数字が落ちてくるというのだ。予測量としては、空間を埋め尽くすほどの量になるという。
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