櫻木紬のルーティーン

田古みゆう

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 睡魔に負けてから、数時間後。

 玉のような汗をかいて目が覚めた紬は、まだ夢現にいる友人に挨拶もそこそこに、自宅へと急ぎ帰った。

 リビングでは、朝食中の両親が目を丸くして出迎えた。

 外は、眩しい朝日に満ちていたが、寝不足の紬は、一刻も早く心穏やかに眠りたかった。

 紬は、青汁を1杯作って飲み干すと、グラスをすすぎ、両親に向かって言い慣れた就寝の挨拶をする。

おだやかなる1日が過ごせましたのは、
やさしい陽光と二親ふたおやのおかげです。
すこやかなる眠りを迎えられますのは、
ちたる月光と御祖みおやのお力です。
何者なにものにも汚されぬよう
細愛ささらえにて
いつくしみくださいませ」

 紬の切羽詰まった挨拶に、両親も思わず就寝の挨拶を返す。

「穏《おだ》やかなる1日が過ごせましたのは、
やさしい陽光と御身の賜物です。
すこやかなる眠りを迎えられますよう
ちたる月光と御祖みおやに祈りましょう」

 紬は、両親の言葉を聞くや、一目散に自室へと戻り、窓の外の眩しい空を見上げる。そして、目を瞑り、心の中でもう一度あの就寝の挨拶を繰り返す。

 そして急いで自身のベッドへと潜り込む。呪文のようにあの言葉を心の中で繰り返していると、次第に心が凪いでいき、紬は、いつしかふわふわとした心地よい眠りへと誘われていった。

 再び紬が目を覚ました時、外は間もなく夜の帳が降りようとしていた。

 それほどまでに、深く心地良い眠りにつけたことに、紬は1人安堵した。

 そして、今夜も、いつも通りに過ごす事を、心の中でそっと誓ったのである。





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