1 / 8
1.プロローグ
しおりを挟む
乗客を降ろし、駅のタクシー専用ロータリーに車を停めた私は、いつものように、しばしの休憩タイムを取ることにした。
運転席を降り、窮屈なシートに押し込められていた体を、空に向かってグイッと伸ばすと、それまでノロノロと活動していた細胞たちが、一気に走り出したかのような血の巡りを感じ、その心地良さに一息つく。
その間にも、駅からはたくさんの人が出てきたり、反対に駅へ入って行ったりを繰り返す。そこそこ大きなこの駅は、利用客が途絶えることはない。人が忙しなく行き来している様は、まるで川の流れがあっちへ流れ、こっちへ流れと動いているようで、無意識に目を奪われてしまう。
特に朝と夕方には、速く大きな流れが駅から吐き出され、駅へと飲み込まれて行くのだが、その流れを掻き分け、乱すようにして、毎回数人の人が、その流れの中を走り抜けて行く。
そんな様子を目にすると、あの人は何をそんなに急いでいるのだろうかと、ついつい、妄想を膨らませてしまう。
あの、サラリーマン風の男性は、寝癖が跳ねているから、寝坊をしたのかな。
コーヒーショップのカップを手にしたあの女性は、これからある、早朝会議のために、コーヒーを飲んで気持ちを切り替えてから、会議に臨むんだな。
あそこを走る男子高校生は、いつも、もう少し先で待っている彼女の元へ走っている。今日もそうだろう。
この女性は、ひどく背中を丸めているから、仕事が大変だったのかな。きっと、家のベッドが恋しくて、家路を急いでいるんだな。そんな時こそタクシーに乗ってくれたらいいのに。
あそこのケーキの箱を手にした男性は、きっとこれから、娘さんの誕生日パーティーだな。プレゼントはなんだろう。
人を見ていると、そんなたわいも無い妄想が私の頭の中で繰り広げられる。そうして、束の間の休憩タイムを過ごすのが、仕事中の私の楽しみだったりする。
ふと、乗客を待つ車列へ目を向けると、随分と車列が短くなっていた。
そろそろ業務を再開するかと、もう一度、腰をグイッと押してから、再び狭い運転席へと体を押し込める。
車のエンジンをかけ、ゆっくりと車を進めた。乗車待ちの車列の最後尾へと車を付ける。
私の前には3台の乗客待ちタクシーが停まっているので、私が乗せるのは、4組目のあのシルバーカーを傍らに置いたご婦人だろう。
乗せる乗客の目星をつけ、安全運転をするべく、気持ちを切り替える。次の乗客は、一体どこまで行くのだろうか。
運転席を降り、窮屈なシートに押し込められていた体を、空に向かってグイッと伸ばすと、それまでノロノロと活動していた細胞たちが、一気に走り出したかのような血の巡りを感じ、その心地良さに一息つく。
その間にも、駅からはたくさんの人が出てきたり、反対に駅へ入って行ったりを繰り返す。そこそこ大きなこの駅は、利用客が途絶えることはない。人が忙しなく行き来している様は、まるで川の流れがあっちへ流れ、こっちへ流れと動いているようで、無意識に目を奪われてしまう。
特に朝と夕方には、速く大きな流れが駅から吐き出され、駅へと飲み込まれて行くのだが、その流れを掻き分け、乱すようにして、毎回数人の人が、その流れの中を走り抜けて行く。
そんな様子を目にすると、あの人は何をそんなに急いでいるのだろうかと、ついつい、妄想を膨らませてしまう。
あの、サラリーマン風の男性は、寝癖が跳ねているから、寝坊をしたのかな。
コーヒーショップのカップを手にしたあの女性は、これからある、早朝会議のために、コーヒーを飲んで気持ちを切り替えてから、会議に臨むんだな。
あそこを走る男子高校生は、いつも、もう少し先で待っている彼女の元へ走っている。今日もそうだろう。
この女性は、ひどく背中を丸めているから、仕事が大変だったのかな。きっと、家のベッドが恋しくて、家路を急いでいるんだな。そんな時こそタクシーに乗ってくれたらいいのに。
あそこのケーキの箱を手にした男性は、きっとこれから、娘さんの誕生日パーティーだな。プレゼントはなんだろう。
人を見ていると、そんなたわいも無い妄想が私の頭の中で繰り広げられる。そうして、束の間の休憩タイムを過ごすのが、仕事中の私の楽しみだったりする。
ふと、乗客を待つ車列へ目を向けると、随分と車列が短くなっていた。
そろそろ業務を再開するかと、もう一度、腰をグイッと押してから、再び狭い運転席へと体を押し込める。
車のエンジンをかけ、ゆっくりと車を進めた。乗車待ちの車列の最後尾へと車を付ける。
私の前には3台の乗客待ちタクシーが停まっているので、私が乗せるのは、4組目のあのシルバーカーを傍らに置いたご婦人だろう。
乗せる乗客の目星をつけ、安全運転をするべく、気持ちを切り替える。次の乗客は、一体どこまで行くのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
『☘ 好きだったのよ、あなた……』
設楽理沙
ライト文芸
2025.5.18 改稿しました。
嫌いで別れたわけではなかったふたり……。
数年後、夫だった宏は元妻をクライアントとの仕事を終えたあとで
見つけ、声をかける。
そして数年の時を越えて、その後を互いに語り合うふたり。
お互い幸せにやってるってことは『WinWin』でよかったわよね。
そう元妻の真帆は言うと、店から出て行った。
「真帆、それが……WinWinじゃないんだ」
真帆には届かない呟きを残して宏も店をあとにするのだった。
妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです
藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。
――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。
妹は父の愛人の子。
身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、
彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。
婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、
当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。
一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。
だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。
これは、誰かが罰した物語ではない。
ただ、選んだ道の先にあった現実の話。
覚悟のなかった婚約者が、
自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる