デイリーアフターランニング

田古みゆう

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3.花屋の店員 p.2

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 慌てた様子の女性に、私は、敢えて落ち着いた声で問いかけた。

 何をそんなに慌てているのかは知らないが、一緒になって慌てて、運転が疎かになってしまってはいけない。彼女のペースに引き摺られないように、気をつけなくては。

 少しばかり気を引き締めて、ミラー越しに視線を送ると、切羽詰まった様子で、女性は行き先を告げた。

「坂の上の式場まで!」
「ええっ?」

 今日、3度目の行き先に、思わず目を丸くし、振り返ってしまう。

 そんな私に向かって、女性は少し苛立ちを含んだ声音を出す。

「あの、急いでるんですけど、何か?」
「ああ、いえ。失礼しました。では、出発します」

 車はUターンをして、来た道を走り出す。

 後部座席からは、ソワソワとしたオーラが迫ってくる。声を掛けられる雰囲気ではない事が、ミラーに映る女性の様子から察せられた。何かトラブルだろうか。

 その時、女性が抱える紙袋が、カサリと小さな音を立てた。

 ミラーに映るその紙袋には見覚えがある。確か、先程の女子高生も同じ紙袋を手にしていた。

 あの子はこの人の店に寄ってきたのだな。そうだとすると、この人は、あの子を追いかけているのだろうか。もしそうならば、何故だろう。

 妄想を膨らませながら、坂を上り、式場の門を抜ける。入口前で車を停め、ドアを開けると、女性は、慌ただしく車を降りた。

「すぐ戻りますので、ここで待っていてください」

 それだけを言うと、彼女は、式場の中へと駆けて行ってしまった。

 後に残された私は、静かに後部ドアを閉め、車内表示を「予約」に切り替える。

 一人の静かな空間になると、私は、頭の中で妄想の続きを展開させた。

 彼女は慌てて受付へ駆け込むと、事情を説明し、例の女子高生を呼び出してもらう。理由は何だろう。

 荷物の取り違えだろうか。別の客に渡すはずの品を間違えて渡してしまった。手にしていた紙袋が正しい物で、彼女は、平謝りで品物を交換して戻ってくる。

 そうだとすれば、戻ってきた時には、安堵と緊迫感で、車を降りた時よりも、きっと、グッタリとしているだろうな。

 そんな事を考えていると、式場から、先程と同じ紙袋を手にした女性が、姿を現した。どことなく、肩を落としているように見える。

 私は、車内表示を切り替え、後部ドアを開けると、運転モードに頭を切り替えた。

「先程の花屋まで戻ってください。申し訳ありませんが、急ぎで」
「分かりました」

 どうやら、彼女の問題はまだ解決していないようだった。
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