冥界区役所事務官の理不尽研修は回避不可能 〜甘んじて受けたら五つの傷を負わされた〜

田古みゆう

文字の大きさ
7 / 92
1.あんず色の世界で

p.7

しおりを挟む
「はい~。では最後になります~。不殺生。生き物を殺したことはありますか~?」
「いいえ」

 地獄行き確定を認識した僕は、もうどうでもよくなって投げやりに答えた。しかし、小鬼からの思いがけない返しに僕は瞬時に苛立った。

「ブ~。違います。古森さんは、殺生したことがあります~」
「はぁ! 何言ってんだよ! 人殺しなんかしたことないわっ!!」

 両手を固く握り締め苛立ちの勢いに任せてベッドの淵から立ち上がった僕の右膝を、小鬼はまるで肩を叩いて宥めるようにポンポンと優しく叩いた。

「落ち着いてください~。五戒の不殺生は、人殺しを意味しているわけではありません~。もちろん人殺しは大罪ですが、古森さんの記録に、殺人歴がないことは確認済みです~」
「じゃ、じゃあ……」

 小鬼の言葉を聞いて、力んでいた両拳が軽く緩む。

「ですが~、不殺生とは殺人だけに限りません。例えば~、古森さんは蚊を叩いて潰したことがありませんか~?」
「それは、もちろんあるさ」
「その行為は、不殺生に該当するのです~」
「な……まさか……」
「本当です~。虫だけでなく、動物の肉を食すことも不殺生を犯すことになります! アウトです~」
「!!」
「つまり~、現世人げんせびとのほとんどが五戒を犯しており、ほとんどの人は地獄へ行くことになるのです~!」

 小鬼の高らかとした宣言に、僕は頭を思いっきり殴られた様な気がして、ヘナヘナとベッドの淵に座り込んだ。もう頭を抱えるしかなかった。

 そんな僕の様子に気づいたのか小鬼は、そっと僕のそばを離れた。しばらくして戻ってくると、手にした小さな白いカップをスッと僕に差し出してきた。

「古森さん、大丈夫ですか~? 色々と混乱されたことでしょう~。コチラをどうぞ~」

 手渡されたカップには、七色に揺らめく液体が一口分注がれていた。

「これは?」
「冥界区限定のリラックス効果の高い飲むサプリです~。効果は保証しますよ~」

 胡散臭い物を見る目で、手の中のカップを眺めていると、小鬼は満面の笑みで煽ってくる。

「さぁさぁ~! グイーッと一気にいっちゃってください~!」
「本当に大丈夫?」
「はい~。死ぬことはありませんよ。もう死んでますから~」

 手の中のカップからは、金木犀から漂うような甘い香りがしている。僕は、その香りに誘われるかのように、警戒していたはずのカップに口をつけると、不思議な液体を一気に飲み干してしまった。

「どうですか~? 甘くて美味しいでしょ~?」
「うん」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...