冥界区役所事務官の理不尽研修は回避不可能 〜甘んじて受けたら五つの傷を負わされた〜

田古みゆう

文字の大きさ
29 / 92
3.がとーしょこら色の思い出

p.29

しおりを挟む
「あ、ちょっと……」

 事務官と小鬼は姿を消し、僕は一人白い部屋に取り残された。

 いろいろと説明がなさすぎる。僕はぶつぶつと文句を言いながらベッドに寝転ぶ。ベッドは相変わらずフカフカとしていて気持ちが良かった。

 柔らかさに誘われて徐々に目蓋が降りてくる。間も無く睡魔の手中に収まろうかというところで、僕の脳裏を何かがよぎった。不安に駆られて僕は目をパチリと開けた。

 そういえば、明日の僕の誕生日までに今回の研修を終えなければいけないのではなかったか?

 こんなところでゴロゴロとしていて良いのだろうか?

 もし研修が終わらなかったら、僕はどうなるんだっけ?

 気がついてしまうと、疑問と不安が洪水のように押し寄せる。僕は跳ね起きベッドから降りると、意味もなく室内をウロウロとし始めた。

 明日までに研修を終わらせるには……

 どうする……どうすれば……

 僕一人では解決できない難問に頭を抱えていると、ピンポーンと玄関チャイムのような音が室内に鳴り響いた。

 ハッとして顔を上げると、先ほど消えたはずの小鬼と相変わらずスーツをビシッと着こなした事務官小野が、パッと室内に現れた。

「古森さん~、おはようございます~」

 小鬼はペコリと頭を下げて、元気に挨拶をしてきた。

「えっ? お、おはよ……う?」
「なんだ。まだ自我が強すぎて、こちらの世に馴染まぬのか」

 事務官は、ドギマギと朝の挨拶を返す僕を面倒臭そうに見る。

「……あの、もしかして、既に一日経ってたりします?」
「もしかしなくても、その通りだ」

 つい先程この人たちに一人置き去りにされたと思ったのだが、既に翌日になっているらしい。どうやら僕は睡眠を取り損ねたようだ。

 どうも、この世界の時の流れが掴めない。

 時の流れ方について首を捻る僕に構わず、事務官小野は、業務連絡を淡々と行う。

「これより本日の研修を開始する。しかし、私は役所にて諸々の仕事があるため、そなたの研修には立ち会えぬ。本日も、研修中は小鬼に付いてもらう」
「はぁ……」
「それから、昨日のように業務時間外に我らの手を煩わせることの無いよう、くれぐれも気をつけよ」

 僕はチラリと自分の右膝を見た。膝上部に赤黒い傷が一つできている。

 痛みはなかったものの、肉を焼かれる恐怖が蘇り、僕は小さく身震いをした。

「では、役所へ戻る。小鬼、後は任せるぞ」
「はい~。承りました~」

 小鬼に向けて指示を出した事務官小野は、指をパチンと鳴らしターンをして姿を消した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...