冥界区役所事務官の理不尽研修は回避不可能 〜甘んじて受けたら五つの傷を負わされた〜

田古みゆう

文字の大きさ
47 / 92
3.がとーしょこら色の思い出

p.47

しおりを挟む
 この場所が現実ではないと、頭では理解しているつもりだったが心が受け入れていなかったのだろうか。現世とこの不思議な空間を混同して見ていた僕は、慌てて相槌を打つ。

「ずいぶん熱心にお話をされていましたね~。あの天使さんは、古森さんにとって特別な方なのですか~?」
「ん? ……まぁ、幼馴染だからね」

 小鬼の言葉に、僕はポリポリと頬を掻く。途中から饒舌になっていたことは自分でも自覚がある分、しっかりと指摘をされるとなんだか恥ずかしかった。

「それだけですか~?」
「な、なにが?」

 足をプラプラとさせながら、含み笑いを顔に張り付けた小鬼が僕を覗き込む。僕はそのニヤニヤとした視線から逃れるように、明後日の方へ視線を彷徨わせた。

「まさか、古森さんが恋愛マスターだとは知りませんでした」

 耳を疑う発言に、僕は逃れた視線を勢いよく戻す。

「はぁ? 何言ってんの?」
「あれ~。違うんですか~? 天使さんにいろいろとご指南されていたようなので、僕はてっきりマスターなのかと」
「ちがっ……」

 一体、僕の何を見ていたら恋愛マスターなどという発想に繋がるのやら。

 小鬼の言葉に、ガックリと肩を落とす。

「人と関わることを避けていた僕に、恋愛経験なんてあるわけないだろ」
「しかし先ほど、天使さんにアレコレとご指導されていたではありませんか?」

 僕の脱力した否定の言葉に、小鬼はキョトン顔で返す。

「あれは、現世で咲と保が付き合っていることを知っていたから、話せただけのことさ。チェリーの僕には恋愛スキルなんて皆無……」

 自分で言っていて虚しくなる。

 僕は、想いを寄せた人にさえ自分の気持ちを伝えることもできなかった、臆病者だ。ただ、うじうじと爪先を見つめていただけ。そんな僕が恋愛指南とは、思い出すと何とも滑稽な話に思えた。

 僕のどんよりとした空気を感じ取ったのか、隣で小鬼がオロオロとし始める。

「あ、あの~。古森さん? じょ、冗談ですよ~?」

 珍しく小鬼が小声になっている。僕も小さく頷く。

「ん。わかってる」

 そう返事をしてみたものの、僕の気持ちはなかなか浮上しない。隣に座る小鬼からは心配そうな視線を投げられているのがわかる。

 暫くの間、僕たちの間には沈黙だけが流れていた。

 やがて、元気印の小鬼には似つかわしくない遠慮がちな声で、小鬼が口を開いた。

「あの、古森さん~?」
「ん?」
「あの天使さん、……あのお嬢さんに、古森さんのお気持ちを伝えなくてもいいのですか~?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...