冥界区役所事務官の理不尽研修は回避不可能 〜甘んじて受けたら五つの傷を負わされた〜

田古みゆう

文字の大きさ
79 / 92
5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと

p.79

しおりを挟む
「これが五芒星と言うものなのですか?」
「そうだ。通常では、このような短期間で得られるものではない。地獄にいる者たちは皆、何年、何十年、何百年掛かっても、得られる焼印は、一つか、二つが良いところだろう。今回の研修を行う上でも、地獄の役人たちは、そなたが得られる焼印の数は、せいぜいそのくらいだろうと踏んでいた筈だ」

 僕は言葉もなくただ黙って傷を見つめる。ただの合否スタンプかと思いきや、どうやら重要スタンプだったようだ。

 無言の反応でも、事務官には話が僕に伝わっているのがわかるらしく、淡々と話は続いていく。

「そして、そなたは地獄の思惑を遥かに上回る、四つの認証印を得て研修を終わらせたわけだが、四つの傷では意味を為さない。まぁ、何百年かの地獄の苦行の中で、最後の焼印を得られる可能性も無きにしも非ず、ではあるが」

 そこまで話すと事務官は、一度言葉を切る。そして、そばにあった椅子を引き寄せると、スッと座り長い足を組む。

 そんな一連の動作が、なんだかとても様になっていて思わず視線が釘付けになった。

「古森、聞いておるか?」

 またしても、呆けた状態になっていた僕に、辛辣な事務官の声が刺さる。

「ああ、はい。聞いています」

 事務官小野は一つ頷くと、話を続けた。

「先程も少し言ったが、四度目の研修を終えた時点で、そなたの処遇は等活地獄行きとほぼ決まっていた。しかしその時、小鬼が進言してきたのだ」
「小鬼が?」
「そう。そなたに、もう一つ認証印を付与してほしいと」

 事務官の言葉に、僕の足元にいる小鬼に目を向ければ、手を口に当てお口チャック状態のまま、小鬼は目をキラキラとさせながら、僕を見上げてきた。

「理由は、先ほど述べた通りだ」
「僕が小鬼に『ありがとう』と言ったことがあるから?」
「そうだ。しかし、その時点で小鬼の進言を受け入れたとして、それでも焼印は四つだ。最終研修をクリアすれば大ごとになるが、クリア出来なければ、全く持って無意味な行為に成りかねん」
「……ですね。何百年か後に僕が最後の認証印を得られるかなんて、分かりませんから」
「しかし、小鬼は分かっておったのだ」
「えっ?」

 小鬼が分かっていたとは、どう言うことだ。まさか小鬼には、予知の力があるのか。

「何百年か後ではなく、そなたが最終研修をクリアすると小鬼は断言した」
「な、なんで……? 小鬼には、予知の力でもあるのですか?」

 僕の質問に事務官は呆れたように鼻を鳴らす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...