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近くて遠いお隣さん(1)
二日という時間はあっという間だった。なぜって、楽しみすぎるからという理由はもちろんそうなのだが、どんな格好で行くべきか、その点でかなり悩んだからだ。正直時間が足りないと思った。
推し事として自発的に行くならここまで服装で悩まなかったはず。だけど、今回はいわゆるご招待。成瀬さんの関係者として行くのだから、それなりの格好をしていく必要がある。
実は、受け取ったチケットが関係者用なのか一般用なのか、私にはわからなかったのだ。
あの時は嬉しさと驚きと、それから……葛藤なんかが入り乱れていた。だから、何も考えずにチケットを受け取ってしまったのだが、冷静に考えると、これはかなりハードルの高い案件だった。
成瀬さんに聞けば即解決できたのだろう。けれど、成瀬さんは初演目前だからか忙しいようで、あれ以来顔を合わせることがなかった。
そんなわけで、結局私は無難なワンピースで行くことにした。手持ちの中で一番清楚っぽいものをチョイスする。
そうして選んだのは光沢のある生地を使った紺地のAラインの膝丈ワンピースだった。首元にはネックレスを付けることにする。薄手の白いロングコートを羽織ると、そこにはシンプルながらも清潔感たっぷりの装いが出来上がる。
鏡に映る自分の姿を確認しながら、私は大きく頷いた。
これなら、何かの拍子に成瀬さんのお知り合いにご挨拶なんてことになっても大丈夫だろう。
私は意気揚々と家を出発した。最寄りの駅から電車を乗り継ぎ、劇場へと向かう。ロビーに足を踏み入れると、そこはもう舞台特有の熱気で満ちていた。たくさんの人がソワソワとした様子で開演を待っている。
ライブとはまた違った雰囲気に、私は少し戸惑う。場慣れしていないのが丸わかりの挙動でキョロキョロと辺りを見回していると、後ろからポンと肩を叩かれた。
驚いて振り返ると、そこには目深に被ったキャップと大きなサングラスを身につけた男の人がいた。ほとんど顔が隠れているが、見間違えるはずがない。
「れ……」
私がその人の名を口にするより早く、彼は人差し指を自身の唇の前でさっと立てる。私は思わず口を手で押さえた。すると、蓮がクスッと笑う。そして、ついて来いというように手招きをする。私は慌てて彼について行った。
人波を巧みに避けながら、蓮はどんどん歩いていく。そして、劇場の裏手に回ったところで足を止めた。そこは関係者以外立入禁止と書かれた札が下がったドアの前だった。
推し事として自発的に行くならここまで服装で悩まなかったはず。だけど、今回はいわゆるご招待。成瀬さんの関係者として行くのだから、それなりの格好をしていく必要がある。
実は、受け取ったチケットが関係者用なのか一般用なのか、私にはわからなかったのだ。
あの時は嬉しさと驚きと、それから……葛藤なんかが入り乱れていた。だから、何も考えずにチケットを受け取ってしまったのだが、冷静に考えると、これはかなりハードルの高い案件だった。
成瀬さんに聞けば即解決できたのだろう。けれど、成瀬さんは初演目前だからか忙しいようで、あれ以来顔を合わせることがなかった。
そんなわけで、結局私は無難なワンピースで行くことにした。手持ちの中で一番清楚っぽいものをチョイスする。
そうして選んだのは光沢のある生地を使った紺地のAラインの膝丈ワンピースだった。首元にはネックレスを付けることにする。薄手の白いロングコートを羽織ると、そこにはシンプルながらも清潔感たっぷりの装いが出来上がる。
鏡に映る自分の姿を確認しながら、私は大きく頷いた。
これなら、何かの拍子に成瀬さんのお知り合いにご挨拶なんてことになっても大丈夫だろう。
私は意気揚々と家を出発した。最寄りの駅から電車を乗り継ぎ、劇場へと向かう。ロビーに足を踏み入れると、そこはもう舞台特有の熱気で満ちていた。たくさんの人がソワソワとした様子で開演を待っている。
ライブとはまた違った雰囲気に、私は少し戸惑う。場慣れしていないのが丸わかりの挙動でキョロキョロと辺りを見回していると、後ろからポンと肩を叩かれた。
驚いて振り返ると、そこには目深に被ったキャップと大きなサングラスを身につけた男の人がいた。ほとんど顔が隠れているが、見間違えるはずがない。
「れ……」
私がその人の名を口にするより早く、彼は人差し指を自身の唇の前でさっと立てる。私は思わず口を手で押さえた。すると、蓮がクスッと笑う。そして、ついて来いというように手招きをする。私は慌てて彼について行った。
人波を巧みに避けながら、蓮はどんどん歩いていく。そして、劇場の裏手に回ったところで足を止めた。そこは関係者以外立入禁止と書かれた札が下がったドアの前だった。
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