推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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近くて遠いお隣さん(2)

 周りに人の気配がなくなると蓮はキャップとサングラスを外した。

 再びの推しとの対面。蓮は、とてもラフな格好だ。白地に赤と黒のラインが入った長袖のTシャツに黒のパンツ。足元は黒のスニーカー。気取った様子はないのに、そのスタイルでオーラが隠し切れていない気がする。

「千紘も来てたんだ」
「うん。成瀬さんにチケットをもらって。あ、元々来るつもりはしてたんだけど」

 私は慌てて言葉を紡いだ。すると、蓮がおかしそうに笑う。

「そかそか。あの陽がね。ふーん。千紘、ちょっとチケット見せて」

 私はチケットを差し出した。蓮は私の差し出したチケットをまじまじと見つめる。

「はは。やっぱ、そうか。陽のやつ」

 何やら納得した様子で嬉しそうな笑みを浮かべる蓮。

 一体なんだろう?

 不思議に思っていると、蓮がチケットを返してくれた。

「それがあれば、ここ通れるから」

 私はポカンとして蓮を見た。すると、蓮はまたおかしそうに笑う。

 それってどういうことなの?

 そんな私の疑問に答えるように、蓮がドアへと手を伸ばした。少し重そうなドアの向こうには警備の人が立っていた。

「チケット見せればいいから」

 そう言って、蓮はそのまま中へと入っていく。私も慌ててその後に続いた。警備の人は特に何も言うことなく私たちを通してくれた。

 まさか、こんな場所に案内されるなんて。

「こっち」

 蓮は迷うことなくスタスタと慣れた様子で進んでいく。私も遅れないように蓮を追う。廊下は思った以上に静かで、外のざわめきが嘘のようだった。壁には舞台のポスターが何枚も貼られていて、成瀬さんの名前もそこにしっかりと刻まれている。

「蓮、ここって……」

 ようやく声を出すと、蓮は扉の前で立ち止まり振り返った。

「控え室。陽に会うだろ?」
「えっ、でも……迷惑なんじゃ」
「大丈夫。大丈夫。来てるかどうかそわそわする方が、本番にひびくから」

 蓮がおかしそうに笑う。

 そういうものなのか。

 知らない世界に触れたような気がして少しドキドキする。

「陽、入るぞ」

 中から「どうぞ」という声が聞こえた。蓮が扉を開けると、そこには衣装に身を包んだ成瀬さんがいた。

 ライトメイクを施された顔は、いつもより少しだけ鋭く見える。そんな成瀬さんの瞳が私の姿を捉えた瞬間、大きく見開かれた。それからすぐに表情がふわりと緩む。

「石川さん……来てくれたんだ」
「はい。チケットいただきましたから。……開演前にお邪魔でしたか?」
「ううん。すごく嬉しい」
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