推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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近くて遠いお隣さん(3)

 成瀬さんはそう言って、私の姿をじっと見つめた。その視線がいつもよりも熱い気がして、私はなんだかそわそわしてしまう。

 言葉が出てこない私に代わって、蓮が成瀬さんの肩をポンと叩きながら口を開いた。

「開演前に女口説くとか余裕だな、陽」

 驚いた顔を見せる成瀬さんに、蓮はニヤリと笑う。成瀬さんはなんだかバツが悪そうに笑い返している。

 自分の心臓が早鐘のように鳴り響いているのがわかる。顔が熱い。なんだか頭がくらくらする。

 私の様子など気にも留めず、話続ける二人を私はただ見つめるしかない。すると、蓮が思い出したように成瀬さんに注意をした。

「ってか、お前さぁ。関係者用を渡したんなら、ちゃんと説明してやれよ。千紘、何にも分かってなかったぞ。ちょうど居合わせたから俺が連れてきてやったけど」
「え?」

 成瀬さんは不思議そうな表情を浮かべた。蓮はそれを呆れたように見返す。

「もしかして、お前も分かってなかったのか?」
「招待したい人がいるからって、事務所に石川さんのチケットを用意してもらったけど……」
「あのなぁ~。千紘が持ってるのは関係者用のチケット。楽屋にだって入れるし、関係者席で観ることになるんだぞ。そう言うことは事前に言っておいてやれよ」

 やはり私のチケットは一般用ではなかったらしい。成瀬さんが慌てて私に向き直った。そして、少し恥ずかしそうに口を開く。

「俺、人を招待するの初めてで、チケットの違いとかわかってなかった。ごめん。関係者席だから少し窮屈な思いをさせちゃうかもしれないけど、いいかな?」

 私は、成瀬さんの言葉に少し驚いた。

 初めてなの? 私が?

 しばらく成瀬さんの顔を見つめていた私は、我に返ると慌ててぶんぶんと首を縦に振った。

 大丈夫だと意思を伝えたのに、成瀬さんはしゅんとしてしまった。不安顔が思わず母性をくすぐる。

 いつもは飄々としているのに、案外心配性だよね。

 胸の奥がきゅんとする。思わず緩んでしまいそうな頰を引き締めながら、私は今度は大きく頷いた。

「気にしないでください。私、大人しく観劇しますから」

 すると、蓮がおかしそうに笑い出した。

「大人しく観るってなんだよ、千紘? お前、いつもは騒がしいのか? あぁ、前に会った時も初対面なのに結構ガツンと来たもんな」

 ククッと笑いながら、蓮が私を見る。私は思わず言葉に詰まった。

「違……」

 違うと言いたかった。だけど、確かにあの時は、なりふり構わず蓮に活を入れていた気もする。
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