クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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二日酔いジェラシー(5)

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「ああ、矢城さんとは食堂で一緒にお昼を食べていたんだ」
「昼?」
「そう。さっきメールしたろ。サンドイッチを買ったから、食べれそうなら持って行くって」
「あ、ああ。サンドイッチな……」

 その会話を聞いて、私は思わず呟いていた。

「あ、じゃあさっきメールしてたのは……」
「うん。史郎に」

 白谷吟がニコニコと笑う。その答えを聞き、私は心底感心した。てっきり仕事のメールだと思っていたのだが、まさか、シロ先輩へ連絡していたとは。

「そうだったんですね。白谷先輩は優しいですね」

 私がそう言うと、白谷吟は何故か苦笑した。

「昔から史郎の世話を焼いていたから、習慣だよ」

 そう言って肩をすくめている白谷吟を見て、この二人は本当に仲が良いのだなと思った。その後、白谷吟はシロ先輩にサンドイッチを押し付けると、私に向かって軽く手を振り、自分の部署へと戻って行った。

 残されたのは、私とシロ先輩だけだ。シロ先輩は何か言いたげな様子だったが、結局何も言わずに歩き出した。慌てて後を追う。

 オフィスに戻ると、シロ先輩は自分のデスクに着いた。パソコンの画面に向かうシロ先輩の横顔をじっと見つめてしまう。やはり顔色が良くなっている気がする。良かったと思うと同時に、シロ先輩の仏頂面が気になった。

「シロ先輩。なんでさっきから不機嫌なんですか? せっかく白谷先輩がサンドイッチ届けてくれたのに」

 シロ先輩はちらりとこちらを見る。それから、ぶすりとした顔のままサンドイッチを開封し、食べ始めた。

「別に不機嫌じゃない」

 口をモグモグと動かしながら、ボソリと言葉を発したシロ先輩に思わずツッコむ。

「いや、でも、いつもより眉間にシワ寄ってますけど」
「……そんなことない。気のせいだ」

 シロ先輩は再び視線を画面に向けると、サンドイッチを咥えたままキーボードを叩き始めた。私は首を傾げるしかなかった。

 午後の仕事が始まった。

 相変わらず隣から放たれるイライラオーラのせいで、仕事に集中できない。先ほどから、シロ先輩がちらり、ちらりと私を見ているのを感じる。

 もしかして、私に苛ついているのだろうか。そうだとすれば何故だろう。正直、苛立たせることをした覚えがない。

 そう思ってシロ先輩の方を見ると、彼と私の目が一瞬だけ合った。すると、シロ先輩は小さく舌打ちをした。

 ……だから! どうして私を睨んでるんですか!?

 分からない。全く理由が思いつかない。

 私は意を決して、隣の席の人を見据える。
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