クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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それって、まさかお見合い!?(14)

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 由香里は悪戯っぽく笑うと、「内緒だからね」と口に指を当てた。

「うん……。誰にも言わないようにする」

 私が素直に約束すると、由香里は満足そうに微笑んだ。

「まぁ、矢城が付き合ってなくてホッとしたよ」
「なんで寺田が安心するのよ?」
「だって、もし矢城が白谷さんと付き合ってたら、社内の女子から総スカン食らうことになっただろうし。同期としては、心配してたのよ」
「何よ、それ……そんなこと、ないと思うけど」

 由香里に言われて、私は一瞬、ドキッとしてしまった。そんな事はないと口では言いながら、もしかしたらと思ったからだ。由香里は、そんな私に呆れたように肩をすくめる。

「矢城って、意外とそういうことに疎いのね。女子の集団は怖いし、面倒臭いんだから、もっと気をつけなさいよ。……それに」
「それに?」

 私が尋ねると、由香里はニヤリと笑って答えた。

「私はどっちかっていうと、矢城といつも一緒にいる人……あ~、名前なんて言ったっけ?」
「シロ……八木先輩?」
「そう、そう。八木さん。あの人の方が矢城にはお似合いだと前から思ってたからさ」

 由香里の言葉に、私は目を丸くする。

「は? 冗談でしょ?」
「本当よ。だって、あの人といる時、矢城、いつも楽しそうだし」
「それは……まぁ、楽しいけど……。でも、一緒にいるのは、仕事でコンビを組んでいるからだよ」
「そうかなぁ。私から見ると、それだけじゃないように見えるけど」

 由香里は、そう言うと意味ありげに笑った。私は、そんな彼女をジトッと見る。

「何が言いたいの?」
「別にぃ」

 由香里は、私の視線を気にすることなく、荷物をまとめ始める。チラリと時計を見れば間もなく四時になろうとしていた。話をしながらのランチも三時間ほど経った。そろそろ帰ろうということだろう。

 私は、そんな彼女を見ながら、小さくため息をつく。由香里が言ったことにもっと反論したかったけれど、これ以上話をしても分が悪くなるだけのような気がした。

 私も、席から立ち上がると、自分の鞄を手に取る。それから、由香里と一緒に店を出た。

「今日はありがと。楽しかった。また、予定合わせて飲みに行こ」
「うん。お疲れ」

 ショッピングモールに隣接する駅の改札で由香里と手を振り合い別れる。

 今日はずっと恋愛のことを話していたような気がする。結婚か。私はいつのまにかそんな事を考えなくてはいけない歳になっていたのか。少し寂しい気持ちで電車が来るのをぼんやりと待った。
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