クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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真実はすぐそばに(14)

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 私が黙っていると、シロ先輩がポツリと呟く。

「まぁ、俺がシロヤギだったら、一番いいんだけどな」

 シロ先輩は、私を見て、少し困ったような顔をする。どこか寂しげな表情に、私の心はざわついた。

 その時、私の頭にある言葉が浮かんできた。それは、シロヤギさんが私にくれた言葉。そして、シロ先輩が私にくれた言葉。

 無理してもそれは本当の自分じゃないよ。

 私は、シロ先輩の顔を見る。シロ先輩の瞳には、私だけが映っていた。私は、シロ先輩の目をしっかりと見据えた。

 私のために、自分がシロヤギさんである可能性を見出そうとしてくれるシロ先輩。慎重に、そして真剣に。きっと、私の気持ちを傷つけないように、配慮してくれているのだろう。優しい人だから。

「シロ先輩」

 私は、彼の名前を呼ぶ。

「ん?」

 シロ先輩は、不思議そうな顔をした。私は、ゆっくりと言葉を紡ぐ。私の想いを伝えるために。

「無理してもそれは本当の自分じゃないですよね?」

 シロ先輩が驚いた顔をした。私は続ける。自分の声に力がこもっていくのを感じる。

「私は、シロヤギさんの正体は絶対にシロ先輩であってほしいと思っていました。だけど、もうそれを考えるのは辞めます」

 私は、そこで一旦息を吸う。そして、はっきりと言う。これが、今の私の本当の気持ちだ。

「だって、シロ先輩がシロヤギさんであってもなくても、私はシロ先輩のことが大好きですから!」

 シロ先輩は、呆気に取られた様子だった。それから、何か言おうと口を開けて、また閉じた。私は、その様子を見ながら、言葉を続ける。

「もちろん、シロ先輩がシロヤギさんであれば、もっと嬉しいです。嬉しいですけど、でも、だからと言って、シロ先輩がシロヤギさんである必要はなかったんです。私にとってシロ先輩が大切な人であることは変わりません。先輩が無理にシロヤギさんにならなくて良いんです」

 シロ先輩は、何も言わず私を見ていた。

「私は自分の気持ちを押し付けすぎました。ごめんなさい」

 私は、ぺこりと頭を下げた。それから、顔を上げて、シロ先輩の目を見つめる。シロ先輩は、しばらく私を見つめ返していたが、やがてふっと笑う。その顔は、いつもの穏やかなシロ先輩だった。

 その笑顔に、私も思わず笑みがこぼれる。シロ先輩が私に問いかけてきた。

「俺がシロヤギじゃなくて、本当にいいのか?」

 私は、大きく首肯する。

 シロ先輩は、ふーっと大きく息を吐いた。シロ先輩の顔に安堵の色が戻っていた。
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