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第90話 限界を超えて鍛え上げてみた

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 翌日以降も鍛練の日々は続く。
 基本的にはビビと戦う形で技を磨き上げていった。
 風魔術を操る彼女の速さはとても勉強になる。
 職員の雷魔術とはまた違う強みがあった。

 何度も戦って分かったが、正攻法だと俺ではビビの足下にも及ばない。
 まあ、実践する前から予想はしていた。
 根本的な身体能力が違うのだ。
 おまけに魔術的な格差も大きい。
 指輪の充填魔力に頼らざるを得ない俺と、自前の魔力が平均以上のビビでは使える術の幅が異なる。
 まともな打ち合いとなると、俺が徐々に押されて負ける展開ばかりだった。

 ただし、手段を選ばずに戦う場合は結果が逆転する。
 すなわち俺が連続で勝利できるのだ。
 正々堂々とした戦略を捨てた途端、手持ちの策が輝いてくる。
 俺は全属性や薬品による変幻自在な攻撃に加えて、属性の同時発動まで習得した。
 それらを駆使してビビの戦い方を崩し、的確に追い詰めることができる。
 ビビが搦め手に慣れていないのもあるだろう。
 俺達は対照的な戦法を好むのだと改めて分かった。

 数日後、職員が治療術師を連れて戻ってくる。
 残りはこの三人の指導で進めるとのことだった。
 事情を聞いた治療術師は快諾したという。
 わざわざ出向いてくれるなんてありがたい限りである。

 しかし、そこからの鍛練は壮絶を極めた。
 ただでさえ過酷な内容がさらに跳ね上がったのだ。
 おまけに治療術師がいるため、多少の無茶は押し通していく。
 重傷を負っても即座に殴られて完治させられた。
 だから休むこともできず、時間感覚も失って戦い続ける。
 精神的な疲労はビビを癒しにして乗り越えた。

 そして決闘当日がやってきた。
 短い睡眠を取った俺は、無言で起き上がる。
 肉体は疲労を引きずっていない。
 当然だ。
 世界有数の治療術師がいるのだから絶好調に決まっている。

 目覚めた俺に職員が歩み寄ってくる。
 彼女は鞄から何かを取り出して差し出してきた。
 それは無数の鱗を縫い付けた衣服だった。
 受け取ってみるとそれなりに重い。
 裏地に頑丈な革が使われているようだ。

 職員は得意げに説明する。

「雷竜の素材でこしらえた防具っす。専門の職人に頼んで、大急ぎで作ってもらいました。これなら聖騎士の攻撃も防げるでしょう」

「貰っていいのか?」

「これは貸しにしとくっすよ。後で請求書を渡しますから負けないでくださいね」

「……分かった。感謝する」

 何から何まで用意周到な職員である。
 地上に戻ったのは、治療術師を呼ぶだけでなくこの防具を準備していたのだろう。
 当日まで明かさなかったのは、俺を驚かせたかったのだと思われる。

 苛烈な鍛練で防具が壊れたのでちょうどよかった。
 街で調達する手間が省けたどころか、高性能な防具を手に入れてしまった。
 一体どれだけの額を請求されるか分からないが、決闘に勝てるならそれでいい。
 借金だらけの生活も覚悟しよう。
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