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予兆
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工場だったメインフロアを抜け、事務所などがあるスペースの階段を上がると、そこでも軽く一戦する事になった。
「これって、一階一階毎に戦闘になるパターン?」
「さぁ?どうでしょう?」
またも散らばった虫の死骸を集める院瀬見。傑は部屋の中に何か痕跡がないか調べる。
いくつかの業務デスクが放置されたフロアは、これと言って何もなさそうだった。引き出しを開けてみると、異国の文字で書かれた飲食店のチラシが入っていた。おそらく、立ち退く際にチラシなんて意味がないので気にせず置いていったのだろう。傑はそれを手に院瀬見に近づき、見せた。
「……なるほど?」
「確定はできないけどな。」
院瀬見はそれを暫く眺め何も他にない事を確認すると、小さく折り畳んでビニールに入れた。そしてタタタンと何度かリズムよくつま先で床を叩いた。
スルスルと小さな蜘蛛が降りてくる。院瀬見はそれを手に乗せ、採取した蟲のビニール等と共に埃っぽいデスクの上に置いた。
「……え?置いてくのか?」
「椿が回収してくれます。」
「へぇ~。」
そうか、あれはモールス信号だ。先程、院瀬見が靴で床を鳴らした音を思い返し、傑は理解した。
傑の見ている前で、小さな蜘蛛がそれらを糸でぐるぐる巻にしている。気づけばそれは一匹ではなく、数匹に増えていた。
「……椿の子供、どれぐらいいんの?今回?」
「さあ?風祭の育てたすねこすりをたらふく食らっておりましたし、蜘蛛の巣は龍脈の気で満たされていますし、いくらでも出せるんじゃないですかね?」
「いくらでも……。」
その言葉を聞き、傑はゾッとする。別に蜘蛛が苦手という訳ではないが、そんなにいると思うと椿には申し訳ないが気持ち悪い。
早く仕事を終えて帰りたい……。そんな事を考えながら、さらに上に行こうと傑は階段を登りかけた。
「勝手に進むな!!小僧!!」
「え?」
院瀬見の声に驚いて振り向いた時だった。上から何かが傑めがけて襲い掛かってきた。
「っ!!」
パチンッ!と小さな光が弾け、それの速度が緩む。その隙に傑はサブマシンガンを構え撃ち続けた。
「上だ!!」
院瀬見の声が飛ぶ。確かに弾はヒットしていたが、それはすぐ様天井に張り付き、ガザガサガサッと移動する。
……速い!!
傑のサブマシンガンではそれが追いきれない。院瀬見も発砲するが相手は止まらなかった。そしてシュッと素早く、階段の天井からそれが伸ばす何かが傑の首に巻き付く。
「グッ!!」
しかし、散々、院瀬見に死なない方法を体に教えこまれた傑。反射的にすぐそれを太腿に固定してあったサバイバルナイフで引き千切る。迷わず階段を後ろ向きに落ち、ドサッと院瀬見に抱えられた。
「愚か者!!気を抜くな!!」
「あ、うん。ちょっと死ぬかと思った……。」
突然の恐怖におかしくなった傑の思考は情緒を狂わせ、ニヤッと笑ってしまった。院瀬見の怒鳴り声すら今は嬉しい。そんな傑は呆れ顔の院瀬見に思いっきり頭を殴られる。
「……何、これ……??……髪……?!」
「悪霊の女の髪とは鉄板だな……。」
首の周りと抵抗してそれを掴んだ手に絡む、無数の黒い糸の束。それが人の髪の毛だと気づき、傑は声にならない悲鳴を上げてそれを自分から少しでも剥がそうともがいた。それをまた院瀬見に殴られる。
「この程度で狼狽えるな、ガキが!」
今度は小僧からガキに格下げである。しかしそんな事を言っても気持ち悪いものは気持ち悪い。おとなしくしながらも、自分に絡みつく髪を少しでも落とそうとバタバタ払う。
院瀬見の方は飽きれて口も聞かず、さり気なくその髪の毛を回収しながら階段を睨んだ。
「……居なくなった?!」
「これ以上、来るなという警告だ。でなければ殺されていたぞ……。」
「……マジ?」
「気づかなかっただろうが?腐っても五百雀のお前が……。つまり、あの悪鬼はお前より強い。この程度で済んだのは、お前に鳳凰の加護があったからに過ぎないぞ。クソガキが……。」
ため息まじりに院瀬見にそう言われ、傑は自分の着ているブレザーを見た。どことなくキラキラ輝いているように見える。
そうか、あの時襲い掛かってくる髪の勢いが弱まったのは、母の鳳凰、凪の羽根による加護なのだ。おそらく首に巻き付かれても意識を保てナイフで切る事ができたのも、このブレザーを着ているからだ。
守られている。自分はたくさんの人たちに守られているのだと思った。
傑は息を整える。工場フロア、2階フロアと問題なく戦闘を終えて気が緩んでいた。常に気を張っていなければ死ぬ。それを理屈ではなく理解した。
気を抜くな。 神経を集中しろ。
院瀬見が言うには、あの悪鬼は自分より強い。集中していなければ寝首を掻かれる事になる。消えたという事は上の闇に紛れたのだろう。
どこに居る? 見失えば殺される……。 集中しろ……気配を探せ……。
傑は自分の感覚奥深くまで意識を集中させた。
たった一瞬で死ぬかもしれなかった状況。極度の緊張状態の中分泌されたコルチゾールが血流を活性化させ、脳に覚醒を促す。
「……アレ??」
集中した傑の脳裏に妙な風景が見えた。それに驚き、目をシパシパさせる。
「……どうした?」
「いや、なんか……あれ??……何だ??」
「……小僧??」
院瀬見は傑の様子がおかしい事に気づいた。頭を押さえ、目を瞬かせて驚いている。何か見えているのかと視線の先を見るが、何もない。けれど傑の眼は何かを見ている。
「傑様?」
「……あれ?」
「大丈夫ですか?」
「……う~ん?ちょっと首絞められて酸欠になったのかも??」
「どういう事です?」
「……一瞬、幻覚が見えた。」
そう言われ、院瀬見はガシッと傑の顔を両手で掴んだ。驚く傑。そして目の中を覗き込まれる。
「せっ?!院瀬見?!」
「……傑様、何かお変わりはありませんか?」
「え?!別に?!」
今度は、とん、とばかりに離される。そして院瀬見は傑の脈を見たり色々している。
「え?!何?!」
「………………。」
「院瀬見!」
院瀬見は暫く考えていた。黙ったまま、何も言わない。そして傑に目を向ける。
「……何が見えたと?」
「ええと……幻覚……。」
「何の幻覚です?」
「……………………。」
今度は傑が黙る番だった。そう問われても、視線を反らして黙っている。
「傑様。」
「……だって言ったら殴られる!!」
鬼のような圧。幼い頃から院瀬見に怒られてきた傑は条件反射で口を開く。しかし、言ったら言ったで殴られそうだったので、幻覚については語らない。
「殴りません。とにかく言って下さい。意外と重要な事かもしれません。」
「意外とって……。」
「それで?何が見えるんです?」
傑は困ってしまった。見えたものがちょっと言いにくいのだ。絶対、殴られるし馬鹿にされる。
「傑様……。おい、小僧。私がおとなしく聞いているうちに答えろ。」
「ヒッ!!」
ニッコリと微笑む悪魔。傑は誰よりもこの顔の院瀬見がどれだけ怖いか知っていた。
これは殴られるより怖い目に合わされる……。だから、仕方なく答えた。
「……バーチャル3D映像……。」
「は??」
「だから、バーチャル3D映像。この建物の。」
「……この建物の?」
「そう。ゲームのマッピングを見るみたいに、構造が先で書かれてて、中が透けてて、建物全体が見えてる感じ……。」
そう言われ、院瀬見は暫く黙った。ゲームのし過ぎだとも言いたいが、この建物のという事が気になる。しかもこのタイミングで、そんな幻覚を見るだろうか?
「……どうやったら見えたんです?」
「え??だから、気を抜かないように意識を集中したら……。」
「それ、もう一度、やってみて下さい。」
「良いけどさ……。」
傑は渋々集中した。しかし今度は見えなかった。
「……やっぱり酸欠の幻覚だよ。今は見えない。」
「そうですか……。」
院瀬見は考え込んだ。バーチャル3D映像というのはよくわからないが、院瀬見は傑が己の「特異性」に目覚めつつあるのではないかと思ったのだ。それを傑に伝えるべきか否か……。
「院瀬見??」
「……傑様。もし、それがまた見えたら教えて下さい。」
「あ、うん??」
「はっきりとは言えませんが、傑様はご自分の特異性に目覚めつつあるのではないかと思います。」
院瀬見は結局、伝えておく道を選んだ。この状況で目覚めが始まったのなら、意識していれば、戦闘の間に覚醒できるかもしれないと思ったからだ。
「え?!俺の特異性、バーチャル3D映像?!」
「そこは知りませんよ。見えるのは貴方一人なのですから。ただ、傑様は瞳様の孫です。「見る」力が開花してもおかしくありません。」
「父さんは呼ぶ力なのに?」
「能力は人によりけりですから。」
そう、傑の父親、京は「呼ぶ」能力がある。隠れているモノであっても、父の「呼び声」には逆らえないのだ。
五百雀の特殊能力は、基本、五感と繋がっている。父親の「口から呼び声を出す」、祖母の「他の者よりもよく見える目」。その他にも「聞き取る耳」や、「触れる事で読み取る」など色々あるらしい。
特性を開花させられるのは嬉しい。これで一人前の五百雀として認めてもらえると言える。
とはいえ、バーチャル3D映像として建物が見える事が何の力になるのだろう?傑はちょっとがっかりしてしまった。
「マッピング機能とか……別になくても良くない?!」
建物の構造など、資料から頭に叩き込んでいる。なのに3Dで見えたからと言って、なんだと言うのか……。
「……そうでもないでしょう。」
「え~?!」
「例えば、その見えた映像で、建物は何階構造でしたか?」
「何階って……??……あっ!あった!!」
傑は見えたバーチャル3D映像を思い返し、事務所部分が何階建てだったかを思い起こした。
「あった!!院瀬見!!四階!!」
「……なるほど。やはり「目」の特異性が開花し始めているのでしょう。」
「すげぇ!!なら!開花すれば!隠し部屋とかも見つけられるんだ!俺!!」
「その辺はわかりません。何しろ見えるのは傑様だけですし、開花途中の能力ですから。」
しかし傑には院瀬見の言葉は届いていなかった。
何それ?!凄くない?!俺!! ゲームのマッピング機能より凄いじゃん!
テンション高く浮かれる傑。院瀬見は言うべきではなかったかとため息をつく。そしてその襟首をむんずと掴んで引き寄せ、微笑んだ。
「黙れ、小僧……。さっき気を抜いて死にかけたのを忘れたか?……ん?!」
「……す、すみません……。浮かれすぎました……。」
悪魔の笑みを見て、急に現実に引き戻される傑。院瀬見に凄まれ、ちょっと泣きそうだった。
「これって、一階一階毎に戦闘になるパターン?」
「さぁ?どうでしょう?」
またも散らばった虫の死骸を集める院瀬見。傑は部屋の中に何か痕跡がないか調べる。
いくつかの業務デスクが放置されたフロアは、これと言って何もなさそうだった。引き出しを開けてみると、異国の文字で書かれた飲食店のチラシが入っていた。おそらく、立ち退く際にチラシなんて意味がないので気にせず置いていったのだろう。傑はそれを手に院瀬見に近づき、見せた。
「……なるほど?」
「確定はできないけどな。」
院瀬見はそれを暫く眺め何も他にない事を確認すると、小さく折り畳んでビニールに入れた。そしてタタタンと何度かリズムよくつま先で床を叩いた。
スルスルと小さな蜘蛛が降りてくる。院瀬見はそれを手に乗せ、採取した蟲のビニール等と共に埃っぽいデスクの上に置いた。
「……え?置いてくのか?」
「椿が回収してくれます。」
「へぇ~。」
そうか、あれはモールス信号だ。先程、院瀬見が靴で床を鳴らした音を思い返し、傑は理解した。
傑の見ている前で、小さな蜘蛛がそれらを糸でぐるぐる巻にしている。気づけばそれは一匹ではなく、数匹に増えていた。
「……椿の子供、どれぐらいいんの?今回?」
「さあ?風祭の育てたすねこすりをたらふく食らっておりましたし、蜘蛛の巣は龍脈の気で満たされていますし、いくらでも出せるんじゃないですかね?」
「いくらでも……。」
その言葉を聞き、傑はゾッとする。別に蜘蛛が苦手という訳ではないが、そんなにいると思うと椿には申し訳ないが気持ち悪い。
早く仕事を終えて帰りたい……。そんな事を考えながら、さらに上に行こうと傑は階段を登りかけた。
「勝手に進むな!!小僧!!」
「え?」
院瀬見の声に驚いて振り向いた時だった。上から何かが傑めがけて襲い掛かってきた。
「っ!!」
パチンッ!と小さな光が弾け、それの速度が緩む。その隙に傑はサブマシンガンを構え撃ち続けた。
「上だ!!」
院瀬見の声が飛ぶ。確かに弾はヒットしていたが、それはすぐ様天井に張り付き、ガザガサガサッと移動する。
……速い!!
傑のサブマシンガンではそれが追いきれない。院瀬見も発砲するが相手は止まらなかった。そしてシュッと素早く、階段の天井からそれが伸ばす何かが傑の首に巻き付く。
「グッ!!」
しかし、散々、院瀬見に死なない方法を体に教えこまれた傑。反射的にすぐそれを太腿に固定してあったサバイバルナイフで引き千切る。迷わず階段を後ろ向きに落ち、ドサッと院瀬見に抱えられた。
「愚か者!!気を抜くな!!」
「あ、うん。ちょっと死ぬかと思った……。」
突然の恐怖におかしくなった傑の思考は情緒を狂わせ、ニヤッと笑ってしまった。院瀬見の怒鳴り声すら今は嬉しい。そんな傑は呆れ顔の院瀬見に思いっきり頭を殴られる。
「……何、これ……??……髪……?!」
「悪霊の女の髪とは鉄板だな……。」
首の周りと抵抗してそれを掴んだ手に絡む、無数の黒い糸の束。それが人の髪の毛だと気づき、傑は声にならない悲鳴を上げてそれを自分から少しでも剥がそうともがいた。それをまた院瀬見に殴られる。
「この程度で狼狽えるな、ガキが!」
今度は小僧からガキに格下げである。しかしそんな事を言っても気持ち悪いものは気持ち悪い。おとなしくしながらも、自分に絡みつく髪を少しでも落とそうとバタバタ払う。
院瀬見の方は飽きれて口も聞かず、さり気なくその髪の毛を回収しながら階段を睨んだ。
「……居なくなった?!」
「これ以上、来るなという警告だ。でなければ殺されていたぞ……。」
「……マジ?」
「気づかなかっただろうが?腐っても五百雀のお前が……。つまり、あの悪鬼はお前より強い。この程度で済んだのは、お前に鳳凰の加護があったからに過ぎないぞ。クソガキが……。」
ため息まじりに院瀬見にそう言われ、傑は自分の着ているブレザーを見た。どことなくキラキラ輝いているように見える。
そうか、あの時襲い掛かってくる髪の勢いが弱まったのは、母の鳳凰、凪の羽根による加護なのだ。おそらく首に巻き付かれても意識を保てナイフで切る事ができたのも、このブレザーを着ているからだ。
守られている。自分はたくさんの人たちに守られているのだと思った。
傑は息を整える。工場フロア、2階フロアと問題なく戦闘を終えて気が緩んでいた。常に気を張っていなければ死ぬ。それを理屈ではなく理解した。
気を抜くな。 神経を集中しろ。
院瀬見が言うには、あの悪鬼は自分より強い。集中していなければ寝首を掻かれる事になる。消えたという事は上の闇に紛れたのだろう。
どこに居る? 見失えば殺される……。 集中しろ……気配を探せ……。
傑は自分の感覚奥深くまで意識を集中させた。
たった一瞬で死ぬかもしれなかった状況。極度の緊張状態の中分泌されたコルチゾールが血流を活性化させ、脳に覚醒を促す。
「……アレ??」
集中した傑の脳裏に妙な風景が見えた。それに驚き、目をシパシパさせる。
「……どうした?」
「いや、なんか……あれ??……何だ??」
「……小僧??」
院瀬見は傑の様子がおかしい事に気づいた。頭を押さえ、目を瞬かせて驚いている。何か見えているのかと視線の先を見るが、何もない。けれど傑の眼は何かを見ている。
「傑様?」
「……あれ?」
「大丈夫ですか?」
「……う~ん?ちょっと首絞められて酸欠になったのかも??」
「どういう事です?」
「……一瞬、幻覚が見えた。」
そう言われ、院瀬見はガシッと傑の顔を両手で掴んだ。驚く傑。そして目の中を覗き込まれる。
「せっ?!院瀬見?!」
「……傑様、何かお変わりはありませんか?」
「え?!別に?!」
今度は、とん、とばかりに離される。そして院瀬見は傑の脈を見たり色々している。
「え?!何?!」
「………………。」
「院瀬見!」
院瀬見は暫く考えていた。黙ったまま、何も言わない。そして傑に目を向ける。
「……何が見えたと?」
「ええと……幻覚……。」
「何の幻覚です?」
「……………………。」
今度は傑が黙る番だった。そう問われても、視線を反らして黙っている。
「傑様。」
「……だって言ったら殴られる!!」
鬼のような圧。幼い頃から院瀬見に怒られてきた傑は条件反射で口を開く。しかし、言ったら言ったで殴られそうだったので、幻覚については語らない。
「殴りません。とにかく言って下さい。意外と重要な事かもしれません。」
「意外とって……。」
「それで?何が見えるんです?」
傑は困ってしまった。見えたものがちょっと言いにくいのだ。絶対、殴られるし馬鹿にされる。
「傑様……。おい、小僧。私がおとなしく聞いているうちに答えろ。」
「ヒッ!!」
ニッコリと微笑む悪魔。傑は誰よりもこの顔の院瀬見がどれだけ怖いか知っていた。
これは殴られるより怖い目に合わされる……。だから、仕方なく答えた。
「……バーチャル3D映像……。」
「は??」
「だから、バーチャル3D映像。この建物の。」
「……この建物の?」
「そう。ゲームのマッピングを見るみたいに、構造が先で書かれてて、中が透けてて、建物全体が見えてる感じ……。」
そう言われ、院瀬見は暫く黙った。ゲームのし過ぎだとも言いたいが、この建物のという事が気になる。しかもこのタイミングで、そんな幻覚を見るだろうか?
「……どうやったら見えたんです?」
「え??だから、気を抜かないように意識を集中したら……。」
「それ、もう一度、やってみて下さい。」
「良いけどさ……。」
傑は渋々集中した。しかし今度は見えなかった。
「……やっぱり酸欠の幻覚だよ。今は見えない。」
「そうですか……。」
院瀬見は考え込んだ。バーチャル3D映像というのはよくわからないが、院瀬見は傑が己の「特異性」に目覚めつつあるのではないかと思ったのだ。それを傑に伝えるべきか否か……。
「院瀬見??」
「……傑様。もし、それがまた見えたら教えて下さい。」
「あ、うん??」
「はっきりとは言えませんが、傑様はご自分の特異性に目覚めつつあるのではないかと思います。」
院瀬見は結局、伝えておく道を選んだ。この状況で目覚めが始まったのなら、意識していれば、戦闘の間に覚醒できるかもしれないと思ったからだ。
「え?!俺の特異性、バーチャル3D映像?!」
「そこは知りませんよ。見えるのは貴方一人なのですから。ただ、傑様は瞳様の孫です。「見る」力が開花してもおかしくありません。」
「父さんは呼ぶ力なのに?」
「能力は人によりけりですから。」
そう、傑の父親、京は「呼ぶ」能力がある。隠れているモノであっても、父の「呼び声」には逆らえないのだ。
五百雀の特殊能力は、基本、五感と繋がっている。父親の「口から呼び声を出す」、祖母の「他の者よりもよく見える目」。その他にも「聞き取る耳」や、「触れる事で読み取る」など色々あるらしい。
特性を開花させられるのは嬉しい。これで一人前の五百雀として認めてもらえると言える。
とはいえ、バーチャル3D映像として建物が見える事が何の力になるのだろう?傑はちょっとがっかりしてしまった。
「マッピング機能とか……別になくても良くない?!」
建物の構造など、資料から頭に叩き込んでいる。なのに3Dで見えたからと言って、なんだと言うのか……。
「……そうでもないでしょう。」
「え~?!」
「例えば、その見えた映像で、建物は何階構造でしたか?」
「何階って……??……あっ!あった!!」
傑は見えたバーチャル3D映像を思い返し、事務所部分が何階建てだったかを思い起こした。
「あった!!院瀬見!!四階!!」
「……なるほど。やはり「目」の特異性が開花し始めているのでしょう。」
「すげぇ!!なら!開花すれば!隠し部屋とかも見つけられるんだ!俺!!」
「その辺はわかりません。何しろ見えるのは傑様だけですし、開花途中の能力ですから。」
しかし傑には院瀬見の言葉は届いていなかった。
何それ?!凄くない?!俺!! ゲームのマッピング機能より凄いじゃん!
テンション高く浮かれる傑。院瀬見は言うべきではなかったかとため息をつく。そしてその襟首をむんずと掴んで引き寄せ、微笑んだ。
「黙れ、小僧……。さっき気を抜いて死にかけたのを忘れたか?……ん?!」
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