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第二章「ひとりといっぴきのリスタート」
反撃
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「では次に、本日お見せしました、更に青くなるものをお作りします。」
俺はもう一度、自分のコップで蜜水を作り、そこに生姜を刻んで混ぜる。
「生姜ですか……なるほど。」
その香りだけで、タリーさんはすぐに気がつく。
俺はニコッと笑って答え、そして木箱を取り出す。
「……あれですわ。」
モエさんが扇子で口元を隠しながら、小声でタリーさんにそう告げた。
その目が睨むように木箱を見つめている。
流石ノービリス家の次期跡取り、その気はないにしろ圧が凄い。
緊迫した雰囲気に、俺の手も少し震えた。
しかし、あまりにモエさんの眼光が鋭いので、ノース君が怯えて心なし小さくなって俺の方に寄ってくる。
うぅ…可愛い…モフってあげたい……。
雷を怖がるわんこのようなその反応に、ピリついた場の中、癒やしをもらう。
やはりノース君を連れてきた俺の判断は間違っていなかった。
「お嬢様が本日、私をお呼びになったのは、この粉の件ですね?」
少し気持ちに余裕ができて、俺は少し挑発的な事を言ってしまった。
しかし的を得ていた事は確かだ。
モエさんの目元が一瞬だけピクリと動いた。
それにニッコリ笑いかけると、観念したように息を吐き出した。
「……どうやら隠していても仕方ないようですわね。単刀直入に申し上げますわ。その粉は何ですの?!ユゥーキ?!」
「魔法の粉でございます。」
それに対し俺は笑ってそう答えた。
タリーさんがおやおやと微笑み、ピクリとモエさんのこめかみが動く。
ちょっと苛立たせてしまったようだ。
「冗談を言っていると思われましたら申し訳ございません。でもそこまで冗談でもないんです。この粉をそういう商品名で売る商売もあった様なので。」
「ふ~ん、商品名ですのね?」
「はい。魔法の粉と呼ばれるものは世界にはたくさんあります。塩やスパイスもそう呼ばれる事があるように、この粉もそう呼ばれる事がございます。」
俺の説明に、モエさんは少し落ち着いてくれた。
ギンギンに光っていた眼光が和らぐ。
俺はそこで少し間を取り、紙に包まれたその粉をモエさんとタリーさんに広げてみせた。
「種も仕掛けもない、ただの白い粉でございます。」
「ユゥーキ、私をからかっていますの?!」
「いえ、私は本気です。」
モエさんはちょっと怒ったようにそう言った。
しかしタリーさんは違った。
「……失礼ながら、その粉を少し頂いても?」
「どれくらいですか?」
「一摘みで構いません。」
「それぐらいなら大丈夫です。どうぞ。」
タリーさんは俺が見せた粉から少しだけ摘み、テーブルに置いた。
そしてそこに水を数滴たらした。
なるほど。
粉を混ぜるという所から、粉自体に青色の成分があるんじゃないかと思ったのか。
確かに粉の状態では白にしか見えなくても、水に溶かせば青みを出すものもあるだろう。
だが重曹に水を垂らしても青くはならない。
青くするのが粉ではないとわかったのか、タリーさんは考え込んでいる。
そして指についていたものをぺろりと舐めた。
途端、渋い顔をする俺は急いで水を汲んで差し出した。
「毒ではありませんが、少量で効果を発揮するものです。直接口に入れられるのは私はおすすめできません。お味もその様な感じですので……。」
「……失礼しました。どうぞお続け下さい。」
「ありがとうございます。では続けます。」
すぐに水が渡せて良かった。
重曹を直接舐めるのはあまり良いとは言えない。
だがダンディズムのお手本の様なタリーさんが、顔を顰めて咽たのは申し訳ないがちょっと可愛かった。
そんな事を思いながら俺は粉を蜜水の中に入れる。
その途端、ブワッとまではいかないが泡が発生した。
白く濁りながらも色がさっきよりも青まる。
それをかき混ぜ、落ち着くのを待った。
そして綺麗なグラスに、その微かに泡立った紺色の蜜水を移した。
「こちらが微炭酸のさらに青くした蜜水でございます。」
そしてスッと、モエさんとタリーさんの前に差し出す。
モエさんは表情を固くしたままタリーさんに目配せをし、タリーさんは頷くとグラスに手を伸ばした。
「拝見いたします。」
さっきの蜜水の時とは違う緊張感。
ギムギムさんとリーフスティーさんは黙って見守り、ノース君はちょっと緊張でガチガチしている。
タリーさんはしげしげと角度を変えて、グラスの中身を見つめる。
そして匂いを嗅いだりして、一口飲んだ。
どうやら、カフェバーのマスターであるタリーさんにもあまり馴染みがないらしい。
「………これは…確かに不思議なものですね……。」
「恐れ入ります。」
「味はお嬢様の仰る通り、もう少し改良できるかと思いますが……恐らくこれは、入れるものを選ぶのですね?コーバー様?」
「はい。柑橘類などを入れてしまうと、青みがなくなります。」
「それで生姜ですか……。香りや爽やかさを考えて、とても良いと思います。……ただ、もう少しアクセントが欲しいですね。軽くとはいえスキューマでもありますし……塩などは如何でしょう?」
「まだ試してませんが、塩でしたら色味には影響を与えません。直接入れる、もしくはグラスの縁に塩を飾ってもいいかもしれません。」
「ふふっ、なるほど。そう言った見せ方もよろしいかと思います。」
先程の事を考えてカクテル風の発想をしてみたら、タリーさんは楽しそうに笑ってくれた。
そしてもう一度、じっくりとグラスを見つめる。
「……花の蜜の中に、酸味と合わせると色を変えるものがある事は存じておりました。しかし赤くするという話はあっても青くするという話は聞いた事がありません。正直、この目で見るまでお嬢様の見間違いか、失礼ながら何かで色をつけられているのだと思っていました。」
「私も青くする方法は凄く頭を悩ませたんです。何しろ食品の中に、酸性のものはあってもアルカリ性のものはないですからね。」
「ほほう……そしてその答えがそちらの『魔法の粉』という訳ですね?」
「はい。これは重曹と呼ばれるものです。」
俺はあっさり白状した。
その瞬間、ノース君とモエさんが信じられないといった顔で俺をガン見してきた。
まぁ、ここでこの切り札をあっさり見せるとは普通は思わないよね。
しかし大人達は冷静だった。
タリーさんもギムギムさんも、穏やかに微笑んでる。
「重曹……ですか。」
「それは何ですの?!ユゥーキ!!」
「はい、見ての通り水に混ぜると泡を…二酸化炭素を発生させます。熱を加えると更に強く二酸化炭素を放出します。」
「ほう……。」
「化学名、炭酸水素ナトリウム。水や熱に反応し、二酸化炭素を放出します。それによって水を微炭酸に変えたり、重い小麦の生地を焼く事により膨らます事が可能です。」
ドドン、とばかりに粉の正体を明かす。
さぁ、ここから反撃と行こうじゃないか。
俺はにっこりと笑った。
モエさんは何故、俺が切り札である重曹の正体を明かしたのか判断に迷い口を閉ざし、タリーさんは顎に手をやり深々と考えている。
「……不確かですが聞いた事があります。どこかの国で、パンを焼く際にイースト菌以外に白い鉱石の粉を混ぜる場所があると……。その粉を入れるとより良くパンが膨らむとの事でしたが……コーバー様のこの粉は、もしやそれですか?」
「マスターが言われているのは、モゴル地方のローナの事でしょう。」
ここでギムギムさんが打ち合わせ通りに口添えしてくれる。
俺が言っても重みはないが、商業許可所の職員で遠くの商品にも知識があるギムギムさんが話す事で、それが実際の事だと重みを持たせる事ができる。
「そう、確かローナと言う物だったかと。」
「これはローナではありませんが、恐らくそれと同成分の物です。」
タリーさんがローナ、天然重曹を知っていた事で話の真実味は更に深まる。
聞いていたモエさんが、「モゴル地方……」と呟いて顔を顰めた。
ギムギムさんが言うにはモゴル地方はかなり遠い。
恐らくモエさんは輸入できないかと思ったが、距離的にそれがあまり効率的ではなく、実現には少々難しいと考えたのだろう。
「……ユゥーキ、この粉は一体どういう鉱物なの?」
「ん~、恐ろしく大雑把な言い方をすると、塩の仲間です。」
「なるほど。それでにがりのような味がしたのですね?」
「はい。にがりも成分は異なりますが同じ塩の仲間でアルカリ性ですから。そしてこれは水に融かした場合は弱アルカリ性になるのでそこまで苦味は感じませんが、加熱した場合は強アルカリ性を示すので苦味が強く出ます。食品に入れて害はありませんが、その辺を考えて使いませんと美味しくなくなります。」
モエさんは難しい顔をして俺を睨んでいる。
いや多分、睨んでいる訳ではないのだろう。
考え込みながら俺の話を真剣に聞いているだけだ。
ただそれが眼力と大商人のオーラが凄いもんだから、皆、脅されてると感じてしまうのだろう。
これだけの優れた才能があるのに、損だよなぁと思う。
俺は続けた。
「また料理以外にも重曹を使って油汚れを取る方法など様々な用途があり、その為、重曹は「魔法の粉」と呼ばれる事があるのです。ただアルカリ性のものですから、ものによっては相性が悪く、万能という訳ではありませんけれども。」
俺がそう言うと、モエさんは更に険しい顔をして考え込んでしまった。
モエさんは俺の話が嘘ではないと確信している。
それを過信しない為に、タリーさんの目からも確かめさせている。
だから重曹の話が嘘ではないとわかっている。
モエさんは俺の特許云々は買い取らないにしても、「重曹」というこの魔法の粉に、商人として大きな可能性を感じているのだ。
だから俺に特許の利用料を払う形であっても、そこに自分の商売を絡めてきたいのだと思う。
本当によく俺が露店でちょっと水に溶かして見せただけだと言うのに、ここまで色々な可能性を考えたなと思う。
天性の才能なのか、大商人一族の英才教育の賜物なのかわからないが、本当に凄い人だ。
だから俺もモエさんを信じてみようと思った。
この街の大商人の未来の3代目。
その優れた目と行動力、その手腕にかける。
「……と、色々話しましたが、実はこの粉、作れると言ったらいかが致しますか?お嬢様?」
モエさんは俺の言葉に目を見張った。
その驚いたような双眸を真っ直ぐに見つめる。
さぁ、どう出る?!
モエさん…いや、ノービリス家の次期総取?!
少し張り詰めた静寂の中、俺とモエさんはただじっと相手の目を見ていた。
俺はもう一度、自分のコップで蜜水を作り、そこに生姜を刻んで混ぜる。
「生姜ですか……なるほど。」
その香りだけで、タリーさんはすぐに気がつく。
俺はニコッと笑って答え、そして木箱を取り出す。
「……あれですわ。」
モエさんが扇子で口元を隠しながら、小声でタリーさんにそう告げた。
その目が睨むように木箱を見つめている。
流石ノービリス家の次期跡取り、その気はないにしろ圧が凄い。
緊迫した雰囲気に、俺の手も少し震えた。
しかし、あまりにモエさんの眼光が鋭いので、ノース君が怯えて心なし小さくなって俺の方に寄ってくる。
うぅ…可愛い…モフってあげたい……。
雷を怖がるわんこのようなその反応に、ピリついた場の中、癒やしをもらう。
やはりノース君を連れてきた俺の判断は間違っていなかった。
「お嬢様が本日、私をお呼びになったのは、この粉の件ですね?」
少し気持ちに余裕ができて、俺は少し挑発的な事を言ってしまった。
しかし的を得ていた事は確かだ。
モエさんの目元が一瞬だけピクリと動いた。
それにニッコリ笑いかけると、観念したように息を吐き出した。
「……どうやら隠していても仕方ないようですわね。単刀直入に申し上げますわ。その粉は何ですの?!ユゥーキ?!」
「魔法の粉でございます。」
それに対し俺は笑ってそう答えた。
タリーさんがおやおやと微笑み、ピクリとモエさんのこめかみが動く。
ちょっと苛立たせてしまったようだ。
「冗談を言っていると思われましたら申し訳ございません。でもそこまで冗談でもないんです。この粉をそういう商品名で売る商売もあった様なので。」
「ふ~ん、商品名ですのね?」
「はい。魔法の粉と呼ばれるものは世界にはたくさんあります。塩やスパイスもそう呼ばれる事があるように、この粉もそう呼ばれる事がございます。」
俺の説明に、モエさんは少し落ち着いてくれた。
ギンギンに光っていた眼光が和らぐ。
俺はそこで少し間を取り、紙に包まれたその粉をモエさんとタリーさんに広げてみせた。
「種も仕掛けもない、ただの白い粉でございます。」
「ユゥーキ、私をからかっていますの?!」
「いえ、私は本気です。」
モエさんはちょっと怒ったようにそう言った。
しかしタリーさんは違った。
「……失礼ながら、その粉を少し頂いても?」
「どれくらいですか?」
「一摘みで構いません。」
「それぐらいなら大丈夫です。どうぞ。」
タリーさんは俺が見せた粉から少しだけ摘み、テーブルに置いた。
そしてそこに水を数滴たらした。
なるほど。
粉を混ぜるという所から、粉自体に青色の成分があるんじゃないかと思ったのか。
確かに粉の状態では白にしか見えなくても、水に溶かせば青みを出すものもあるだろう。
だが重曹に水を垂らしても青くはならない。
青くするのが粉ではないとわかったのか、タリーさんは考え込んでいる。
そして指についていたものをぺろりと舐めた。
途端、渋い顔をする俺は急いで水を汲んで差し出した。
「毒ではありませんが、少量で効果を発揮するものです。直接口に入れられるのは私はおすすめできません。お味もその様な感じですので……。」
「……失礼しました。どうぞお続け下さい。」
「ありがとうございます。では続けます。」
すぐに水が渡せて良かった。
重曹を直接舐めるのはあまり良いとは言えない。
だがダンディズムのお手本の様なタリーさんが、顔を顰めて咽たのは申し訳ないがちょっと可愛かった。
そんな事を思いながら俺は粉を蜜水の中に入れる。
その途端、ブワッとまではいかないが泡が発生した。
白く濁りながらも色がさっきよりも青まる。
それをかき混ぜ、落ち着くのを待った。
そして綺麗なグラスに、その微かに泡立った紺色の蜜水を移した。
「こちらが微炭酸のさらに青くした蜜水でございます。」
そしてスッと、モエさんとタリーさんの前に差し出す。
モエさんは表情を固くしたままタリーさんに目配せをし、タリーさんは頷くとグラスに手を伸ばした。
「拝見いたします。」
さっきの蜜水の時とは違う緊張感。
ギムギムさんとリーフスティーさんは黙って見守り、ノース君はちょっと緊張でガチガチしている。
タリーさんはしげしげと角度を変えて、グラスの中身を見つめる。
そして匂いを嗅いだりして、一口飲んだ。
どうやら、カフェバーのマスターであるタリーさんにもあまり馴染みがないらしい。
「………これは…確かに不思議なものですね……。」
「恐れ入ります。」
「味はお嬢様の仰る通り、もう少し改良できるかと思いますが……恐らくこれは、入れるものを選ぶのですね?コーバー様?」
「はい。柑橘類などを入れてしまうと、青みがなくなります。」
「それで生姜ですか……。香りや爽やかさを考えて、とても良いと思います。……ただ、もう少しアクセントが欲しいですね。軽くとはいえスキューマでもありますし……塩などは如何でしょう?」
「まだ試してませんが、塩でしたら色味には影響を与えません。直接入れる、もしくはグラスの縁に塩を飾ってもいいかもしれません。」
「ふふっ、なるほど。そう言った見せ方もよろしいかと思います。」
先程の事を考えてカクテル風の発想をしてみたら、タリーさんは楽しそうに笑ってくれた。
そしてもう一度、じっくりとグラスを見つめる。
「……花の蜜の中に、酸味と合わせると色を変えるものがある事は存じておりました。しかし赤くするという話はあっても青くするという話は聞いた事がありません。正直、この目で見るまでお嬢様の見間違いか、失礼ながら何かで色をつけられているのだと思っていました。」
「私も青くする方法は凄く頭を悩ませたんです。何しろ食品の中に、酸性のものはあってもアルカリ性のものはないですからね。」
「ほほう……そしてその答えがそちらの『魔法の粉』という訳ですね?」
「はい。これは重曹と呼ばれるものです。」
俺はあっさり白状した。
その瞬間、ノース君とモエさんが信じられないといった顔で俺をガン見してきた。
まぁ、ここでこの切り札をあっさり見せるとは普通は思わないよね。
しかし大人達は冷静だった。
タリーさんもギムギムさんも、穏やかに微笑んでる。
「重曹……ですか。」
「それは何ですの?!ユゥーキ!!」
「はい、見ての通り水に混ぜると泡を…二酸化炭素を発生させます。熱を加えると更に強く二酸化炭素を放出します。」
「ほう……。」
「化学名、炭酸水素ナトリウム。水や熱に反応し、二酸化炭素を放出します。それによって水を微炭酸に変えたり、重い小麦の生地を焼く事により膨らます事が可能です。」
ドドン、とばかりに粉の正体を明かす。
さぁ、ここから反撃と行こうじゃないか。
俺はにっこりと笑った。
モエさんは何故、俺が切り札である重曹の正体を明かしたのか判断に迷い口を閉ざし、タリーさんは顎に手をやり深々と考えている。
「……不確かですが聞いた事があります。どこかの国で、パンを焼く際にイースト菌以外に白い鉱石の粉を混ぜる場所があると……。その粉を入れるとより良くパンが膨らむとの事でしたが……コーバー様のこの粉は、もしやそれですか?」
「マスターが言われているのは、モゴル地方のローナの事でしょう。」
ここでギムギムさんが打ち合わせ通りに口添えしてくれる。
俺が言っても重みはないが、商業許可所の職員で遠くの商品にも知識があるギムギムさんが話す事で、それが実際の事だと重みを持たせる事ができる。
「そう、確かローナと言う物だったかと。」
「これはローナではありませんが、恐らくそれと同成分の物です。」
タリーさんがローナ、天然重曹を知っていた事で話の真実味は更に深まる。
聞いていたモエさんが、「モゴル地方……」と呟いて顔を顰めた。
ギムギムさんが言うにはモゴル地方はかなり遠い。
恐らくモエさんは輸入できないかと思ったが、距離的にそれがあまり効率的ではなく、実現には少々難しいと考えたのだろう。
「……ユゥーキ、この粉は一体どういう鉱物なの?」
「ん~、恐ろしく大雑把な言い方をすると、塩の仲間です。」
「なるほど。それでにがりのような味がしたのですね?」
「はい。にがりも成分は異なりますが同じ塩の仲間でアルカリ性ですから。そしてこれは水に融かした場合は弱アルカリ性になるのでそこまで苦味は感じませんが、加熱した場合は強アルカリ性を示すので苦味が強く出ます。食品に入れて害はありませんが、その辺を考えて使いませんと美味しくなくなります。」
モエさんは難しい顔をして俺を睨んでいる。
いや多分、睨んでいる訳ではないのだろう。
考え込みながら俺の話を真剣に聞いているだけだ。
ただそれが眼力と大商人のオーラが凄いもんだから、皆、脅されてると感じてしまうのだろう。
これだけの優れた才能があるのに、損だよなぁと思う。
俺は続けた。
「また料理以外にも重曹を使って油汚れを取る方法など様々な用途があり、その為、重曹は「魔法の粉」と呼ばれる事があるのです。ただアルカリ性のものですから、ものによっては相性が悪く、万能という訳ではありませんけれども。」
俺がそう言うと、モエさんは更に険しい顔をして考え込んでしまった。
モエさんは俺の話が嘘ではないと確信している。
それを過信しない為に、タリーさんの目からも確かめさせている。
だから重曹の話が嘘ではないとわかっている。
モエさんは俺の特許云々は買い取らないにしても、「重曹」というこの魔法の粉に、商人として大きな可能性を感じているのだ。
だから俺に特許の利用料を払う形であっても、そこに自分の商売を絡めてきたいのだと思う。
本当によく俺が露店でちょっと水に溶かして見せただけだと言うのに、ここまで色々な可能性を考えたなと思う。
天性の才能なのか、大商人一族の英才教育の賜物なのかわからないが、本当に凄い人だ。
だから俺もモエさんを信じてみようと思った。
この街の大商人の未来の3代目。
その優れた目と行動力、その手腕にかける。
「……と、色々話しましたが、実はこの粉、作れると言ったらいかが致しますか?お嬢様?」
モエさんは俺の言葉に目を見張った。
その驚いたような双眸を真っ直ぐに見つめる。
さぁ、どう出る?!
モエさん…いや、ノービリス家の次期総取?!
少し張り詰めた静寂の中、俺とモエさんはただじっと相手の目を見ていた。
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