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第二章「ひとりといっぴきのリスタート」
明日の話をしよう
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「それで?今日は何を売るんスか??」
「うん。まぁ、見ててよ。」
ノース君の言葉に、俺はニヤッと笑った。
ネルが「それをやるなら我はあっちに行っている……」と言ってふわふわ飛んでいった。
ちゃんと風上に逃げてる辺りが流石だなぁ、ネストルさん。
俺は不思議がるノース君を前に、おかしな平鍋に砂糖を入れ、少しだけ水を入れた。
そしてコンロに火をかけ、熱し始める。
辺りに甘い匂いが立ち込め、歩いていた人の何人かが立ち止まった。
「??飴っすか??」
「ん~、成分は同じだけど、ちょっと違うよ。」
沸騰する砂糖に比べ、大きすぎる鍋というのも不思議みたいで、ノース君が覗き込む。
「さて!お立ち会い!!」
「うわっ!!びっくりした!!」
俺は初めて蜜水を売った日のように声を張り上げた。
あの日と同じくびっくりするノース君に笑いかける。
「さてさて!皆様はノービリス家から新たな商品が販売されたのはご存じですか?!」
「あぁ、なんか泡の出る粉だったかな??」
「そうなんス!!水に溶かすと弱いスキューマにもなるッス!!」
「本当かい?!」
「そう!!その泡の出る魔法の粉!!水に溶かすだけでなく、火を加えるとよりたくさんの泡を出します!!ケーキを作る際、ほんのちょっと混ぜただけで!ビックリするほど膨らむ!それがウップル重曹です!!」
ここで少し、重曹の宣伝もしておく。
特に俺に儲けはないが、別にそんな事はどうでもいいのだ。
「そうらしいけど、粉から泡が出るって、今ひとつ、よくわからないんだよなぁ。」
足を止めてくれた人たちはそんな風に答えてくれた。
よしよし、凄く順調だ。
俺はニヤリと笑う。
「そうでしょう!そうでしょう!!粉から泡が出るなんて信じられませんよね?!」
「え?!コーバーさん?!」
突然、重曹を否定し始めたのでノース君がびっくりしている。
そんな彼に、俺はニッコリと笑う。
砂糖もそろそろ頃合いだ。
「そんな訳で!!その目でご覧下さい!!ここにありますのが!その!ウップル重曹でございます!!」
ジャジャーンとはいかないが、俺は容器にあけけてあった重曹を皆に見せる。
ほ~??と半信半疑の声が上がった。
まぁ、粉だけ見たらなんだかわからないもんな。
だがここで粉の事で問答している時間はない。
俺は何個か用意してあった小さなスリ棒を濡らした。
「さて!!ここからは瞬き厳禁!!しっかりその目でご覧下さい!!この小さなスリ棒に、この粉をちょいとつけまして~この沸騰して飴状になった砂糖を~練ります!!死ぬ気で練ります!!」
俺は鍋を火から卸してスリ棒で混ぜだす。
ここは本当にコレの肝なので、俺は一心不乱に飴をスリ棒で練り続けた。
死ぬ気でまんべんなく30回混ぜる!!
この割合と時間を、確実に成功させられるようアルバの森でめちゃくちゃ練習してきたんだ。
そのせいではじめは大喜びしていたネストルさんも「もう甘い匂いはかぎたくない」と言い出したのだ。
混ぜ終わってスリ棒を離すと、飴がムクムクムクッと膨らみ始める。
ノース君が真っ先に声を上げた。
「何で?!飴がめちゃくちゃ膨らんでるッス!!」
他の見ていた人も、おおっ!!と声を上げ、のぞき込んでくる。
膨らみ終わって落ち着いたところを見計らい、少しだけ鍋をまた火にかけてくっついている面をとかして剥がしやすくする。
コンっと衝撃を与えれば、するりと外れて皿の上に乗った。
皆が興味津々と言った感じでそれを見つめている。
「どうです?!スリ棒にちょっとつけただけなのに、こんなに膨らむんですよ?!見てください!!この膨張力!!硬い飴でさえ!!こんなふうに膨らませてしまう威力があるのです!!」
おおっと歓声が上がる。
俺は高々とそれを…カルメ焼きを皆に見えるように掲げた。
視線を一点に集める、カルメ焼き。
「どうです?!凄いでしょう?!ウップル重曹!!」
「凄いッス!!こんな事も出来るなんて!!びっくりッス!!何でこんな事ができるんスか?!」
「水に融かしただけでは、そこまで泡は出ないんだけど、熱を加えると、よりたくさんの泡を出すんだよ。むしろ熱を加えて使う時は力が強すぎるから、加減しないと難しいけど、見た事もないものが出来上がるだろ?!画期的な新素材なんだよ~!!」
「凄い…凄いッス……重曹、凄いッス……。」
見ていた人達も、その効力に驚きを隠せずにいる。
まぁ、重曹の宣伝はこのくらいにしよう。
色々話しているうちに、カルメ焼きも冷めてきた頃合いだし。
「と、まぁ、重曹の話はこれぐらいにして……。ノース君、これ、食べてみたくない?!」
「いいんスか?!ぜひ!食べたいッス!!」
俺は笑って、カルメ焼きを皿の上で割った。
ボロボロ崩れやすいので、大きめの欠片を古紙に包んで渡した。
「はい、どうぞ。」
「わ~!ありがとうございます!!嬉しいっす!!」
ノース君がカルメ焼きにかじりついた。
その様子をにこにこと見守る。
約束通り、最初にノース君に食べてもらえて良かった。
「!!」
バリバリとかじり、ノース君が目を輝かせる。
それを周囲の人が羨ましそうに眺めている。
「飴じゃない!!何だコレ?!何だコレ?!凄い!!サクサクする!!こんな食べ物!食べたことないッス!!」
興奮して大声で喜ぶノース君。
ありがとう、やっぱり俺の露店はノース君がいないと始まらないよ。
こんなデモンストレーションの神、他にいない。
喜び極まって、ノース君はぴょんぴょん飛び跳ねてる。
なんかよくわからないけど可愛い……。
そして周りの人も、その演技ではない全身全霊による喜びの表現に引きつけられ、皿に残っているカルメ焼きの欠片をチラチラとチラ見している。
ふふふっ、ここが押しどころだ。
ノース君とは違い、腹に魂胆を隠したキラッキラの営業スマイルで俺は言った。
「良ければ一欠片、どうぞ??」
俺は残りを小さな欠片にして、見ていた人達に差し出した。
皆、固まる。
そして一瞬の戸惑いの後、われもわれもと手が伸びて、かけらは一瞬でなくなった。
「ふぉっ?!何だ?!この食感は?!」
「本当だ!!飴だったのにサクサクしている!!」
「あの飴が……こんなふうに泡立つなんて……。」
ふふふっ、いい反応だ。
そしてちょっとしか食べれなかった分、もっと食べたいという思いは強いはずだ。
俺はここぞとばかりに森で作ってきたカルメ焼き(古紙包み)を一番大きなリュックから取り出し始める。
「もしよろしければ、作っておいた分がございますので~。」
「おお!!一ついくらだね?!」
「そうですねぇ~、材料が砂糖でもありますので、5ローグ……。」
「5ローグ……。」
5ローグと言われ、ちょっと勢いが弱まる。
それも見越してだ。
確かに普通に砂糖を買っていたら、5ローグラインだ。
だが俺はノービリス家から仕入れ値で買わせてもらえているから、もっと安くできるのだ。
「ですが!」
そこで俺は声を上げ張り上げる。
一度しゅんとした勢いに拍車をかける。
「ノービリス家、ウップル重曹販売記念としまして!!4ローグでお売り致します~っ!!」
一度高く言って下げる。
欲しいかもと思っている人達にはお得感がついてくる。
しかも……。
「あ!!商業許可所の皆に、コーバーさんの新商品買ってきてくれって言われてるんで、10個下さい!!」
そこでノース君が全く悪気なく大量注文した。
本当、神。
ノース君、デモンストレーションの神。
それに慌てた他の客が声を出す。
「まだあるよな?!3つ欲しいんだが?!」
「俺は2つでいい!!」
「ありがとうございます!!」
そんな訳で、販売が順調にスタートする。
前回同様、ノース君が作り置きの分の販売を手伝ってくれた。
俺はその間、どんどん新しいカルメ焼きを作っていく。
いつの間にか戻ってきたネルが、ノース君と協力して作ってある分と蜜水を売りながら、冷めたカルメ焼きを古紙に包んでくれる。
俺のカルメ焼き効果と甘い匂い、そして販売を手伝うネルが可愛いと多くの人が足を止めてくれる。
招き猫ならぬ招きネル状態である。
「ごめん!!ノース君!!今日はそこまで人が集まらないと思っててんだけど、予想以上に人が来てる!!」
「大丈夫ッスよ~。コーバーさんが来たっておじさんが販売許可所に教えに来てくれたら、皆が「新商品を買ってくるまで帰ってこなくていいから」って送り出してくれたんで~。それにきっとまた、俺がいるかいないかなんて忘れてるッス……。」
今、考えると、前回のノース君が帰ってこなかった事を気づかなかったと言ったのは、商業許可所の皆さんの優しさだったのだと思う。
ちょっと項垂れるノース君を可哀想に思いながら、本当にいい人たちに出会えたなぁと思った。
「それに俺、コーバーさんのお手伝い、楽しいッス!!見た事のないものがいつも出てきてびっくりするし、同じ様にびっくりする人を見てるの、楽しいッス!!」
「はいはい、わかったから手を動かせ、ヴォーグル。」
だんだん手際を覚えたネルが、いつの間にかノース君に指示を出して動かしている。
ちょっと面白い。
「……ネルちゃんは感動薄いッスね……。」
「これが上手くできるようになるまでの練習と、作り置きを作るのをずっと森で見てきたのだぞ??我は……。流石に見慣れた。」
「なるほど、美人も3日で飽きるみたいな奴ッスね??」
「なんかちょっと違う気もするが、それで合っている気もする……。」
ネルとノース君の微妙に噛み合っているのかいないのかわからない会話を聞きながら、俺は笑ってしまう。
あぁ、こんなもふもふが並んでもふもふ販売してるのに…予想以上にお客さんが来ていてモフる事も出来ない……。
「ちょっと!ユゥーキッ!!これはどういう事ですの?!」
そんなもふもふの可愛い様子を堪能していたら、思わぬ声が響いた。
ノース君は少しだけビクッとし、ネルは警戒心あらわに少し体を膨らませる。
顔を向けるとモエさんが警護を引き連れツカツカこちらに歩いてきた。
「あ、モエさん。お久しぶりです。」
「……久しぶりね、ユゥーキ。お元気かしら??」
ちょっと怒ったようにこちらに来たが、挨拶すると急に扇子で口元を隠し、目を反らせてそう言った。
女の子の反応って、今ひとつよくわからない。
「お陰様で商売も順調です。」
「はっ!!そうですわ!!これは何ですの?!ユゥーキ?!」
「カルメ焼きですけど??」
「貴方が何か売っている影響で!重曹の売上が急に上がって問い合わせが増えたのですが?!コレのせいですの?!」
「あぁ!!重曹の売上も増えましたか?!それは良かったです!!」
俺はにこにこと笑ってそう言った。
確かにノービリス家は広告に力を入れていたけれど、実際に重曹を使って見せたりする宣伝はしてなかったみたいだしな??
「お役に立てたなら良かったです。」
「それはありがたいのです……ありがたいのですけれども!!」
「けれども??」
「そういう事をして下さるなら!どうして私に一声かけて下さらないのです?!ユゥーキ?!」
「え??だって俺はせっかく砂糖と重曹が手に入ったからカルメ焼きを売ろうと思っただけなので、モエさんやノービリス家にご報告する事でもないと思ったのですが……え?!まずかったですか?!」
商品に特許料をつけないでもらっているから、使っても別に報告とかしなくていいもんだと思っていたけど、違っていたのか?!
俺はびっくりして目を丸くした。
「そういう業務的な事ではなくてですわね!!」
「業務的な事ではなくて??」
「~~~っ!もうよろしいですわっ!!」
モエさんはそう言うと、ツンッと向きを変えて行ってしまう。
何だろう……よくわからないけど怒らせてしまったみたいだ……。
女の子って難しい……。
モエさんが行ってしまってからお付の人がカルメ焼きを買いに来て、慌てながら言葉少なく帰って行った。
「うわぁ……俺も結構鈍い方なんスですけど……うわぁ……。」
「みなまで言うな、ウォーグル。コーバーはこういう男だ……。」
何故かノース君にはひかれ、ネルにはため息をつかれた。
何だ?俺、なんか悪いことした??
よくわからなくて首をひねる。
早くから始めた事もあり、おやつ時ぐらいになると流石に砂糖も切れてきてしまったので、店じまいする事にする。
CLOSEの看板を立て、ノース君と言うか商業許可所の皆さんの分のカルメ焼きを焼く。
「はい、これ。まだ熱いから気をつけて。」
「今日の売上はついでに報告しとくッス。コーバーさんは中期契約になったから、一回一回払いに来なくてもいいッスけど、どうします??」
「いや、後で行くよ。それでそっちが終わったら、フセルに夕飯食べに行こうよ。ギムギムさん達も誘って。」
「了解っす!!伝えとくッス!!」
「ノース君の分は奢るよ。今日のお礼って事で。」
「それはいいッスよ!その代わり、次の新商品の時も呼んで下さいッス!!」
ノース君が焼きたてのカルメ焼きを持って、商業許可所に帰っていく。
それを見送り、片付けを済ませる。
「さて、遅くなったけどネル。軽く何か食べようか??」
「そう来ると思ってだな?!周辺の露店を調べておいたぞ??」
「……美味しそうなものはありましたか??ネル。」
それまでと少し口調を変え、ネルに…ネストルさんに話しかける。
手を伸ばすと、スルッとネルが腕に収まる。
顔を見合わせ、笑った。
「新しい今の街は好きですか??ネル??」
「そうだな。悪くない。」
「楽しいですか??」
「そうだな……しばらく飽きる事はなさそうだ。」
今の街に、今の生活に、ネストルさんが満足しているようで俺は良かったと思った。
それよりあっちに〇〇の露店があってだな?!と話し始めたネルの話を聞きながら、露店市の中を歩く。
初めてこの市の中を歩いた時の妙な孤独感は、今の俺にはもうなかった。
【第二章 完】
「うん。まぁ、見ててよ。」
ノース君の言葉に、俺はニヤッと笑った。
ネルが「それをやるなら我はあっちに行っている……」と言ってふわふわ飛んでいった。
ちゃんと風上に逃げてる辺りが流石だなぁ、ネストルさん。
俺は不思議がるノース君を前に、おかしな平鍋に砂糖を入れ、少しだけ水を入れた。
そしてコンロに火をかけ、熱し始める。
辺りに甘い匂いが立ち込め、歩いていた人の何人かが立ち止まった。
「??飴っすか??」
「ん~、成分は同じだけど、ちょっと違うよ。」
沸騰する砂糖に比べ、大きすぎる鍋というのも不思議みたいで、ノース君が覗き込む。
「さて!お立ち会い!!」
「うわっ!!びっくりした!!」
俺は初めて蜜水を売った日のように声を張り上げた。
あの日と同じくびっくりするノース君に笑いかける。
「さてさて!皆様はノービリス家から新たな商品が販売されたのはご存じですか?!」
「あぁ、なんか泡の出る粉だったかな??」
「そうなんス!!水に溶かすと弱いスキューマにもなるッス!!」
「本当かい?!」
「そう!!その泡の出る魔法の粉!!水に溶かすだけでなく、火を加えるとよりたくさんの泡を出します!!ケーキを作る際、ほんのちょっと混ぜただけで!ビックリするほど膨らむ!それがウップル重曹です!!」
ここで少し、重曹の宣伝もしておく。
特に俺に儲けはないが、別にそんな事はどうでもいいのだ。
「そうらしいけど、粉から泡が出るって、今ひとつ、よくわからないんだよなぁ。」
足を止めてくれた人たちはそんな風に答えてくれた。
よしよし、凄く順調だ。
俺はニヤリと笑う。
「そうでしょう!そうでしょう!!粉から泡が出るなんて信じられませんよね?!」
「え?!コーバーさん?!」
突然、重曹を否定し始めたのでノース君がびっくりしている。
そんな彼に、俺はニッコリと笑う。
砂糖もそろそろ頃合いだ。
「そんな訳で!!その目でご覧下さい!!ここにありますのが!その!ウップル重曹でございます!!」
ジャジャーンとはいかないが、俺は容器にあけけてあった重曹を皆に見せる。
ほ~??と半信半疑の声が上がった。
まぁ、粉だけ見たらなんだかわからないもんな。
だがここで粉の事で問答している時間はない。
俺は何個か用意してあった小さなスリ棒を濡らした。
「さて!!ここからは瞬き厳禁!!しっかりその目でご覧下さい!!この小さなスリ棒に、この粉をちょいとつけまして~この沸騰して飴状になった砂糖を~練ります!!死ぬ気で練ります!!」
俺は鍋を火から卸してスリ棒で混ぜだす。
ここは本当にコレの肝なので、俺は一心不乱に飴をスリ棒で練り続けた。
死ぬ気でまんべんなく30回混ぜる!!
この割合と時間を、確実に成功させられるようアルバの森でめちゃくちゃ練習してきたんだ。
そのせいではじめは大喜びしていたネストルさんも「もう甘い匂いはかぎたくない」と言い出したのだ。
混ぜ終わってスリ棒を離すと、飴がムクムクムクッと膨らみ始める。
ノース君が真っ先に声を上げた。
「何で?!飴がめちゃくちゃ膨らんでるッス!!」
他の見ていた人も、おおっ!!と声を上げ、のぞき込んでくる。
膨らみ終わって落ち着いたところを見計らい、少しだけ鍋をまた火にかけてくっついている面をとかして剥がしやすくする。
コンっと衝撃を与えれば、するりと外れて皿の上に乗った。
皆が興味津々と言った感じでそれを見つめている。
「どうです?!スリ棒にちょっとつけただけなのに、こんなに膨らむんですよ?!見てください!!この膨張力!!硬い飴でさえ!!こんなふうに膨らませてしまう威力があるのです!!」
おおっと歓声が上がる。
俺は高々とそれを…カルメ焼きを皆に見えるように掲げた。
視線を一点に集める、カルメ焼き。
「どうです?!凄いでしょう?!ウップル重曹!!」
「凄いッス!!こんな事も出来るなんて!!びっくりッス!!何でこんな事ができるんスか?!」
「水に融かしただけでは、そこまで泡は出ないんだけど、熱を加えると、よりたくさんの泡を出すんだよ。むしろ熱を加えて使う時は力が強すぎるから、加減しないと難しいけど、見た事もないものが出来上がるだろ?!画期的な新素材なんだよ~!!」
「凄い…凄いッス……重曹、凄いッス……。」
見ていた人達も、その効力に驚きを隠せずにいる。
まぁ、重曹の宣伝はこのくらいにしよう。
色々話しているうちに、カルメ焼きも冷めてきた頃合いだし。
「と、まぁ、重曹の話はこれぐらいにして……。ノース君、これ、食べてみたくない?!」
「いいんスか?!ぜひ!食べたいッス!!」
俺は笑って、カルメ焼きを皿の上で割った。
ボロボロ崩れやすいので、大きめの欠片を古紙に包んで渡した。
「はい、どうぞ。」
「わ~!ありがとうございます!!嬉しいっす!!」
ノース君がカルメ焼きにかじりついた。
その様子をにこにこと見守る。
約束通り、最初にノース君に食べてもらえて良かった。
「!!」
バリバリとかじり、ノース君が目を輝かせる。
それを周囲の人が羨ましそうに眺めている。
「飴じゃない!!何だコレ?!何だコレ?!凄い!!サクサクする!!こんな食べ物!食べたことないッス!!」
興奮して大声で喜ぶノース君。
ありがとう、やっぱり俺の露店はノース君がいないと始まらないよ。
こんなデモンストレーションの神、他にいない。
喜び極まって、ノース君はぴょんぴょん飛び跳ねてる。
なんかよくわからないけど可愛い……。
そして周りの人も、その演技ではない全身全霊による喜びの表現に引きつけられ、皿に残っているカルメ焼きの欠片をチラチラとチラ見している。
ふふふっ、ここが押しどころだ。
ノース君とは違い、腹に魂胆を隠したキラッキラの営業スマイルで俺は言った。
「良ければ一欠片、どうぞ??」
俺は残りを小さな欠片にして、見ていた人達に差し出した。
皆、固まる。
そして一瞬の戸惑いの後、われもわれもと手が伸びて、かけらは一瞬でなくなった。
「ふぉっ?!何だ?!この食感は?!」
「本当だ!!飴だったのにサクサクしている!!」
「あの飴が……こんなふうに泡立つなんて……。」
ふふふっ、いい反応だ。
そしてちょっとしか食べれなかった分、もっと食べたいという思いは強いはずだ。
俺はここぞとばかりに森で作ってきたカルメ焼き(古紙包み)を一番大きなリュックから取り出し始める。
「もしよろしければ、作っておいた分がございますので~。」
「おお!!一ついくらだね?!」
「そうですねぇ~、材料が砂糖でもありますので、5ローグ……。」
「5ローグ……。」
5ローグと言われ、ちょっと勢いが弱まる。
それも見越してだ。
確かに普通に砂糖を買っていたら、5ローグラインだ。
だが俺はノービリス家から仕入れ値で買わせてもらえているから、もっと安くできるのだ。
「ですが!」
そこで俺は声を上げ張り上げる。
一度しゅんとした勢いに拍車をかける。
「ノービリス家、ウップル重曹販売記念としまして!!4ローグでお売り致します~っ!!」
一度高く言って下げる。
欲しいかもと思っている人達にはお得感がついてくる。
しかも……。
「あ!!商業許可所の皆に、コーバーさんの新商品買ってきてくれって言われてるんで、10個下さい!!」
そこでノース君が全く悪気なく大量注文した。
本当、神。
ノース君、デモンストレーションの神。
それに慌てた他の客が声を出す。
「まだあるよな?!3つ欲しいんだが?!」
「俺は2つでいい!!」
「ありがとうございます!!」
そんな訳で、販売が順調にスタートする。
前回同様、ノース君が作り置きの分の販売を手伝ってくれた。
俺はその間、どんどん新しいカルメ焼きを作っていく。
いつの間にか戻ってきたネルが、ノース君と協力して作ってある分と蜜水を売りながら、冷めたカルメ焼きを古紙に包んでくれる。
俺のカルメ焼き効果と甘い匂い、そして販売を手伝うネルが可愛いと多くの人が足を止めてくれる。
招き猫ならぬ招きネル状態である。
「ごめん!!ノース君!!今日はそこまで人が集まらないと思っててんだけど、予想以上に人が来てる!!」
「大丈夫ッスよ~。コーバーさんが来たっておじさんが販売許可所に教えに来てくれたら、皆が「新商品を買ってくるまで帰ってこなくていいから」って送り出してくれたんで~。それにきっとまた、俺がいるかいないかなんて忘れてるッス……。」
今、考えると、前回のノース君が帰ってこなかった事を気づかなかったと言ったのは、商業許可所の皆さんの優しさだったのだと思う。
ちょっと項垂れるノース君を可哀想に思いながら、本当にいい人たちに出会えたなぁと思った。
「それに俺、コーバーさんのお手伝い、楽しいッス!!見た事のないものがいつも出てきてびっくりするし、同じ様にびっくりする人を見てるの、楽しいッス!!」
「はいはい、わかったから手を動かせ、ヴォーグル。」
だんだん手際を覚えたネルが、いつの間にかノース君に指示を出して動かしている。
ちょっと面白い。
「……ネルちゃんは感動薄いッスね……。」
「これが上手くできるようになるまでの練習と、作り置きを作るのをずっと森で見てきたのだぞ??我は……。流石に見慣れた。」
「なるほど、美人も3日で飽きるみたいな奴ッスね??」
「なんかちょっと違う気もするが、それで合っている気もする……。」
ネルとノース君の微妙に噛み合っているのかいないのかわからない会話を聞きながら、俺は笑ってしまう。
あぁ、こんなもふもふが並んでもふもふ販売してるのに…予想以上にお客さんが来ていてモフる事も出来ない……。
「ちょっと!ユゥーキッ!!これはどういう事ですの?!」
そんなもふもふの可愛い様子を堪能していたら、思わぬ声が響いた。
ノース君は少しだけビクッとし、ネルは警戒心あらわに少し体を膨らませる。
顔を向けるとモエさんが警護を引き連れツカツカこちらに歩いてきた。
「あ、モエさん。お久しぶりです。」
「……久しぶりね、ユゥーキ。お元気かしら??」
ちょっと怒ったようにこちらに来たが、挨拶すると急に扇子で口元を隠し、目を反らせてそう言った。
女の子の反応って、今ひとつよくわからない。
「お陰様で商売も順調です。」
「はっ!!そうですわ!!これは何ですの?!ユゥーキ?!」
「カルメ焼きですけど??」
「貴方が何か売っている影響で!重曹の売上が急に上がって問い合わせが増えたのですが?!コレのせいですの?!」
「あぁ!!重曹の売上も増えましたか?!それは良かったです!!」
俺はにこにこと笑ってそう言った。
確かにノービリス家は広告に力を入れていたけれど、実際に重曹を使って見せたりする宣伝はしてなかったみたいだしな??
「お役に立てたなら良かったです。」
「それはありがたいのです……ありがたいのですけれども!!」
「けれども??」
「そういう事をして下さるなら!どうして私に一声かけて下さらないのです?!ユゥーキ?!」
「え??だって俺はせっかく砂糖と重曹が手に入ったからカルメ焼きを売ろうと思っただけなので、モエさんやノービリス家にご報告する事でもないと思ったのですが……え?!まずかったですか?!」
商品に特許料をつけないでもらっているから、使っても別に報告とかしなくていいもんだと思っていたけど、違っていたのか?!
俺はびっくりして目を丸くした。
「そういう業務的な事ではなくてですわね!!」
「業務的な事ではなくて??」
「~~~っ!もうよろしいですわっ!!」
モエさんはそう言うと、ツンッと向きを変えて行ってしまう。
何だろう……よくわからないけど怒らせてしまったみたいだ……。
女の子って難しい……。
モエさんが行ってしまってからお付の人がカルメ焼きを買いに来て、慌てながら言葉少なく帰って行った。
「うわぁ……俺も結構鈍い方なんスですけど……うわぁ……。」
「みなまで言うな、ウォーグル。コーバーはこういう男だ……。」
何故かノース君にはひかれ、ネルにはため息をつかれた。
何だ?俺、なんか悪いことした??
よくわからなくて首をひねる。
早くから始めた事もあり、おやつ時ぐらいになると流石に砂糖も切れてきてしまったので、店じまいする事にする。
CLOSEの看板を立て、ノース君と言うか商業許可所の皆さんの分のカルメ焼きを焼く。
「はい、これ。まだ熱いから気をつけて。」
「今日の売上はついでに報告しとくッス。コーバーさんは中期契約になったから、一回一回払いに来なくてもいいッスけど、どうします??」
「いや、後で行くよ。それでそっちが終わったら、フセルに夕飯食べに行こうよ。ギムギムさん達も誘って。」
「了解っす!!伝えとくッス!!」
「ノース君の分は奢るよ。今日のお礼って事で。」
「それはいいッスよ!その代わり、次の新商品の時も呼んで下さいッス!!」
ノース君が焼きたてのカルメ焼きを持って、商業許可所に帰っていく。
それを見送り、片付けを済ませる。
「さて、遅くなったけどネル。軽く何か食べようか??」
「そう来ると思ってだな?!周辺の露店を調べておいたぞ??」
「……美味しそうなものはありましたか??ネル。」
それまでと少し口調を変え、ネルに…ネストルさんに話しかける。
手を伸ばすと、スルッとネルが腕に収まる。
顔を見合わせ、笑った。
「新しい今の街は好きですか??ネル??」
「そうだな。悪くない。」
「楽しいですか??」
「そうだな……しばらく飽きる事はなさそうだ。」
今の街に、今の生活に、ネストルさんが満足しているようで俺は良かったと思った。
それよりあっちに〇〇の露店があってだな?!と話し始めたネルの話を聞きながら、露店市の中を歩く。
初めてこの市の中を歩いた時の妙な孤独感は、今の俺にはもうなかった。
【第二章 完】
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