異世界に落っこちたので、ひとまず露店をする事にした。

ねぎ(ポン酢)

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第一章・第二章のおまけ(感謝御礼)

初雪(X'masっぽいif的小話)

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落ちてしまった異世界はとても不思議なところだ。

まず、季節がない。

いや、なくもないのだが、自分が知っている季節とは違う。
まぁ異世界なのだから当然と言えば当然だし、俺がいた日本は四季と言う4つの季節を持つ特殊な国だったが、世界を広く見れば季節がほぼない国や雨季と乾季の2つぐらいの国など様々だった。
それを思えば、異世界で異国のここが自分の認識している季節とはかけ離れているのは当然の事だろう。

「……コーバー?どうした??ぼーっとして??」

住まいになっている洞窟の入り口付近。
外が見たいと言った俺に付き合ってそこに寝そべっているネストルさんが聞いてきた。

「いや、何か原理が面白いなぁと思って。」

「原理??」

「俺が元いた世界では地上に水があって、太陽って言うアミナスみたいな光る星の熱なんかでそれがどんどん蒸発して、上空に上がると冷えて小さな氷の粒になって、それが集まると雲になるんです。で、雲の中でその氷同士がくっつき合って、くっつきあった事で重くなって雨や雪として地上に降ってくるんですよ。」

「ふむふむ。そうやって循環しておる訳だな??」

俺の話をネストルさんは興味深げに聞いていた。
違う世界の話なのに、少し話しただけでだいたいの全体像を理解できるネストルさんの博学っぷりは凄い事だと思う。
ラッチャルさんがネストルさんの事を「力でなく知識でマクモになったルアッハ」と表現していたが、何となくわかる気がした。

「ふむ、面白いな。こことは逆だ。」

「そうなんですよね~。聞いた時は驚きました。」

この世界では天に水がある。
雨は降るのだがこの原理もおかしくて、アミナスが引力みたいなもので抱えている水が増えすぎると、振るい落とすように雨が降る。
この場合は、スコールや大雨、長雨などになる事が多い。
その他、大気中の水分が多すぎて天水に帰る前に雨になってしまう場合がある。
これは結構頻繁に起こる現象で、霧雨やパラパラ雨なんかで、ごく短時間で終わってしまう。

そして地上に降った雨は蒸発し大気に戻る。
大気に戻った水蒸気は雲になったりしながら重くなり、重くなる事で天水に引き寄せられ、気層から水気層、重水気層へと上り、天水に帰っていく。

だから原理的に俺は、ここでは雪なんか振らないのかと思っていた。
でもいきなり寒くなった今日、それが降った。

俺は軽く身震いをして寄りかかっているネストルさんの毛皮に深く埋もれ込む。
う~、暖かい~。
そしてもふもふだ~幸せだなぁ~。

「元の世界では、地上が暖かければ降ってくる間に溶けて雨になり、寒ければ溶けずにそのまま雪として降る。」

「ふむ?」

「だから、ここの雪は……雪というより細氷、ダイヤモンドダストに近い気がするんですよね~。」

そう言って外を眺める。
そう、俺はこの世界に来て初めて雪が降るのを見た。
朝起きて外を見た時、季節もあまり変わらないように見えるこの世界にも雪が降るのかととても驚いた。
ネストルさんに聞いたら、年に3回、一年の切り替わりの為に大気の水蒸気が凍って雪が降るのだそうだ。

「ダイヤモンドダースト??」

「……おお、これはほぼ一発で言えましたね?!」

「ダイヤモンドとは、あの鉱石のダイヤモンドであろう?」

「ああ、そうか。この世界にある物だから意味チェンジと言葉チェンジが起こって普通に話せてる感じですね~。」

ネストルさんが俺に施した細工のお陰で、今回は部分的に言葉が通じたようだ。
深く考えると怖くなるので、この件に関しては深く考えては駄目だ。
俺は現実逃避する様に、ネストルさんの毛をもふもふした。

「ダーストは何だ??」

「ダーストじゃなくて、ダスト。塵の事です。」

「ほぅ……なるほどなるほど!ダイヤモンドの削りカスと言ったところか!ふふっ、たしかにそう見えなくもない……。」

ネストルさんは感心したように笑って雪に目を向けた。
それはキラキラと光っていてとても綺麗だ。

とはいえ細氷は雪の一種ではあるけれど、原理的にはちょっと違うものなんだよなぁ~。
俺はネストルさんの毛をモフりながらそう思った。
足元が寒くなってきたので、ネストルさんの前足が畳まれている隙間に足を突っ込む。
ネストルさんも慣れたもので、俺の足が痛くないように程よい隙間を開けてくれた。
俺が寒がってないか確認する為なのか、顔を俺の方に寄せてきたので鼻先を掻いてあげる。
気持ちよくもあるが少しこそばいのか、プシュッとクシャミみたいに鼻を鳴らした。
こんな怖いモンスター顔ではあるが、可愛いなぁと思う。

「雪の一種ではあるんですが、ダイヤモンドダストは空気中の水分が凍った物で雪とはちょっと原理が違うものなんですよ。」

「どう違うのだ??」

「雪は雲の中で細かい氷の粒子がくっつき合う事でできます。その際、結晶を作るんです。」

「結晶を?」

「はい。大きいものだと肉眼でその結晶を見る事ができます。とても綺麗ですよ?細氷…ダイヤモンドダストは地上から蒸発した水分が空気中で凍った物で、上空で氷の微粒子が結合した雪の結晶より小さな氷の塊なんです。」

「……なるほど??」

ネストルさんはわかったようなわからないような顔をした。
まぁ元の世界の話で原理も違うのだから、そこにいなかったネストルさんに全てを完全に教える事は難しいので仕方がない。

俺は手を伸ばして、この世界の雪に触れた。
上手くしたら氷の大きさを観察できるんじゃないかと思ったが、服の上についた雪もすぐに溶けてしまい、その大きさを確認する事はできなかった。

「う~ん、何か観察方法を考えないとなぁ~。次はいつ降るんでしたっけ??」

「10日前後ぐらいであろうなぁ。」

「そうですか~。」

10日ぐらいだと、黒い板とルーペを用意するぐらいが限界だろうなぁと思う。

この世界に、元の世界のような季節はない。
だが季節みたいなものはある。

それがこの雪だったりする。

これはここで言う一年の終わりを告げるものだ。
一応、この世界にも一年みたいな概念があり、それを区切る目安がこの雪になる。

地域的特性もあるが、このアルバの森のある地域周辺は、ほぼ年中無休でだいたい一定の過ごしやすい気候を保っている。
そんな住みやすい環境だった為、この地の覇権は狙われやすく、過去、大地が広がった事によりニーツになった際に争いが起き、ネストルさんがマクモになって守る事になったと言う経緯がある。

だが、だからといって完全に季節的なものがない訳ではない。
この雪が降る1ヶ月ほど前には数日霜が降りた。
その1ヶ月ほど前には、雨が殆どなくからっ風が吹く時期があった。
からっ風が吹いてから霜が降りるまでの間、森はどことなく秋っぽくなったし、霜が降りてからはとても静かになった。
木々や森に住まうクエル達やルアッハ達の中に、冬支度のような事をするものがあったからだ。
ネストルさんはそれを見て、一年の終わりがきたのだと言った。

話を聞いてみたところ、この辺りはさほど季節のようなものはないが、一年というかサイクルとして、雪が降って1度全てに休眠を促す様だった。
からっ風が吹くのはその合図で、木々たちにその準備を始めさせる。
霜によって物理的に刺激を与え、雪によって休眠につかせる。
そうやって休眠を取ることによってまた一年、活動を活性化させるのだそうだ。

「これが……始まりの雪…ですか……。」

ちらちらと舞う雪を眺め、俺は呟いた。
この世界に来てこんなに冷え込んだ日は初めてで、俺はネストルさんにひっつきまくる。
一応、防寒用の外套もおばあちゃんの古着屋で買ってあるが、出歩く訳でもないのでネストルさんにひっついてやり過ごす。

雪は、3回降る。

1度目が今日の始まりの雪。
積もる訳ではないが、大気が凍りつく。
その刺激によって休眠をする者たちはその前段階に入る。

2度目が区切りの雪。
これが本格的に降る雪だ。
ネストルさんが言うには、始まりの雪の10日後辺りに降るようだ。
これは積もって大地を白く染める。
休眠に入る植物やクエル、ルアッハはこれによって眠りに入る。

3度目が光の雪。
とても晴れた気持ちのいい日に、ゆるゆるっと1日中降るらしい。
これが薄っすら降る事で雪を追加し休眠の持続を促すのだが、3度目が降った1ヶ月後には「浄化の雨」と言う暖かな雨が降り、残っている雪を全て溶かす事で休眠していたものに目覚めの合図を送り、その後の「目覚めの嵐」の後、新しい季節が始まるのだそうだ。

「なんか、クリスマスと大晦日って感じですかねぇ~。」

始まりの雪と区切りの雪の事を考え俺は言った。
ネストルさんと二人でなんちゃってハロウィンごっこをした日から考えても、だいたいそんな頃合いだった。

手が冷えてきたので擦り合わせ、腕を組むように脇に押し込む。
今度街に行ったら、おばあちゃんの店に手袋がないか見てこよう。
他にもマフラーとか厚手の靴下とか。
雪が降るとは聞いていたが、いきなりここまで冷えるとは思わなかった。
ここの季節は季節というより、一年の切り替えのために物理的刺激を与える為のものの様なので、じわじわ切り替わるというより、ぽんっといきなりその日に霜が降りたり雪が降ったりするみたいだ。
だからここまで寒いのは雪が降る日だけの様なのだが、無いよりはあるにこした事はない。

「……キリッシマシュ?と…オミソカ??」

「ブッ!!……お、お味噌か!!ではなくて大晦日!!一年の終わりです!年末年始って言えば良いのかな??……クリスマスは宗教的なものでもあるので…なんて言えば良いんですかねぇ~?」

相変わらず面白い発音になって帰ってきたので、思わず笑った。
お味噌か……大晦日……たしかに似てるけど……www
う~ん、味噌汁が恋しくなる……。
こんな寒い日は豚汁食べたいなぁ~。
味噌と言われ、少しだけ日本が恋しくなった。
この世界が好きだし、ここで生きていくと決めたし、どのみち帰れるあてはない。
味噌汁はなくとも、ここにはネストルさんがいる。
どちらか選べと言うなら、俺はネストルさんがいい。
味噌は…どうにか作れるかもしれないしね。

「宗教的な…とは、この前のトイクオーリトーみたいなものか??」

「トリック・オア・トリートと言うか、ハロウィンですね。」

「ハーロイン。」

「うん、惜しい。でもまあ、そんな感じです。」

「今度のそれは何をするんだ??」

この世界にはないハロウィンと言うイベントにネストルさんは思いの外興味を持ったようで、クリスマスについても聞いてきた。

「ええと……本当はある神様…いや聖人?の誕生を祝う日らしいのですが……一般的にはサンタクロースと言う赤い服に白い髭のおじいさんが、夜中家々を回って子供達が寝ている間にプレゼントを配る日というか……。」

「何だと?!老人が真夜中に一人で?!それは一つの街の子供、全てにか?!」

「一つの街どころか、全世界の子供全てにですよ。」

「一人で?!老人が一人でそれを全て行うのか?!」

驚いたネストルさんが体を起こしたので、俺はもふもふの暖かい毛から追い出されてしまう。
待ってください!寒いです!!今日は勘弁してください!!
俺は急いてネストルさんにひっつき直した。
あぁ、暖かい……。

「……そう言われているというか、子供の夢を壊さない為に、そう言うことになっていると言うか……。実際は、まぁ…サンタクロースはおじいさんに限らず、お父さんお母さんからおじいちゃんおばあちゃん…恋人だったり…知ってる人から知らない人まで数多の数いると言う感じですね~。」

「……何だ、驚いた……。一人の老人がどれだけの事を一晩で成せるのかと驚愕したではないか……。」

「ふふっ、すみません。つまり、サンタクロースと言うのは、誰かを想う全ての人の心の中に存在しているおじいさんという感じですかね~。」

「なるほど、それは素敵な老人だな。」

俺の言葉からだいたいの予想はできたのだろう。
ネストルさんは穏やかに笑ってまたゆったりと寝そべった。
俺はすぐにお腹の辺りの毛に潜り込んで、一番暖かくてふわふわなベストポジションをキープする。

暖かくてゆったりとした時間。
キラキラと雪が舞うのを眺めながらそれを満喫する。

「……ネストルさんは…何か欲しいものはありますか……?」

ふと、そう聞いた。
聞きながら、何かとても切ない気分になった。

俺はネストルさんにたくさんのものを与えてもらった。
でも何も返せていないのだ。
そして自分に返せるものなどない事がとても寂しかった。

ネストルさんは俺の顔を少しだけ眺めた後、眠るように顔を地面について目を閉じた。

「……今は特にない。」

「今は……??」

「昔はあった気がする……。いつも何か欠けているようで、何か欲しかった気がする……。でも、今は無い。」

ネストルさんはそう言うと顔を起こし、腹の毛に埋まっている俺に近づけた。
押しつぶさないように気を使いながら、鼻先をグリグリ押し付けてくる。

胸の中がふわっと暖かさで満たされた。
その想いに泣きそうになる。

それを誤魔化す為に、俺は鼻先をできる限り思いっきり撫でくりまわした。
小さなネルではないので、思い切り甘やかして上げる事ができなくてちょっと残念に思う。

「……コーバーは何か欲しいものはあるのか??」

「俺も特にないですねぇ~。これ以上のものを欲しがったら、罰が当たりますよ~。」

「ふ~ん??」

俺は渾身の返事をしたつもりだったが、ネストルさんは不思議そうに首を捻って顔を離した。
ん??どういう事だ??
え??まさかと思うけど……?!

「あれ?!もしかしてわかってない感じですか?!」

「……正直言うと、よくわからん??」

「えええぇぇ~っ?!」

この流れでわからないってどういう事だ?!
自分は俺にああいう返事をしたというのに?!

ネストルさんは本当によくわからないのか、一生懸命考えているようだった。
もしかしたら俺へのあの返答も、単にそう思っているからそのまま口にそれを出しただけなのかもしれない。

そういえばラッチャルさんが、ネストルさんは俺が思っているよりずっと幼いルアッハだと言っていたっけ??

確かに物凄く博識で思慮深いネストルさんだが、たまにびっくりするくらい幼い感じの時がある。
それは影子のネルの姿になって一緒にいる時、凄く出るのだが、大きな状態でそれが出るとギャップが凄くて混乱する。

「……ふふふっ。」

「何故笑うのだ?!コーバー?!」

「いや~、大きいネストルさんもすこぶる可愛いなぁ~と思って~。」

「可愛い?!この姿の我がか?!」

「可愛いですよ??少なくとも俺には。」

俺にそう言われ、プシュ~と音でもしそうなほど赤くなり、ネストルさんは両手に顔を埋めてごめん寝の体制に入った。


マ・ジ・か…っ!!


そんな!大きなネストルさんがごめん寝するなんて!!
なんて贅沢な!!
これこそ最も贅沢なクリスマスプレゼントじゃないか!!

俺は興奮のあまり、ネストルさんの毛の中から飛び出すと、そのありがたいお姿をありとあらゆる角度から堪能した。

あ~!!世が世なら!!
このありがたいお姿をカメラに連射してこの世に残すのに!!
自分の目と記憶だけしかないなんて!!

「うう…眼福、眼福……。生きてて良かった……。ありがたや、ありがたや……。」

感涙してとうとう拝みだした俺を、妙な気配に慄きながら顔をあげたネストルさんが怪訝そうに見ている。

「……コーバーは……たまによくわからなくなって……怖い……。」

「ええ、ええ。何とでも言ってください……。」

大きなネストルさんに怖がられる俺って何なんだろう……。

しかし興奮が収まってくると途端に寒くなる。
俺は大慌てでネストルさんにひっついた。
ネストルさんも仕方なさそうに俺を包み込んでくれる。

初雪。

始まりの雪。
この世界の一年の終わりを知らせる宝石の欠片。

この世界で初めての雪を、俺とネストルさんはしばらく一緒に眺めていたのだった。
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