闇医者と魔法少女

鍵谷 雷

文字の大きさ
1 / 1

闇医者と魔法少女

しおりを挟む
 私の名前はブラッドオレンジ。しがない闇医者さ。医学生時代、白衣に血が付着することが多かったのと、オレンジジュースをよく飲んでいたことから誰かがつけた渾名だ。だが、馴染んできたため、そのまま使わせてもらっている。
 さて、闇医者と言うとブラックジャックを思い浮かべる人が多いと思うけど、彼との共通点は非合法に治療することかな。違う点は目立つ傷がないこと、人情味溢れる話がないこと、助手がいないこと、魔法少女の知り合いがいることだね。
 こう述べれば、ほとんど全ての人が魔法少女について気になると思う。名前はマジカル☆ブラックベリー。本当の名前は不明。変身前の姿、国籍、人種も不明。ただ魔法少女という点は信じざるをえない程色々と見せてもらった。

 彼女と出会ったのは三年前。とある国の治安の悪い都市を根城にするマフィアに呼ばれた時のことだ。そのマフィアは敵対するマフィアと一触即発状態だったがボスが病に倒れてしまった。内密かつ迅速に治療したいと依頼されたわけだ。勿論手術は成功した。金も貰ってあとは帰るだけだったんだが翌日マフィアは壊滅した。それをやったのがブラックベリーだ。
 魔法少女と聞いて怪人や怪獣が出てくると思ったかい。そういった奴らとも戦うことはあるが、彼女はそれ以上に人間と戦っている。
 彼女は私の監視のためについていたマフィアを殺しに来たんだ。外出の時はホテルの両隣の部屋にコールしてからという決まりだった。けれどコールしても一向に出る気配がないからドアをノックしたら彼女が出たというわけさ。裏稼業で食ってる身だから色んな人を見てきた。けれどブラックベリーはその誰とも違う雰囲気を持っていた。
 ちなみに先程から魔法少女と綴っているから派手で可愛らしい衣装を想像しているだろう。
「はじめまして、ミス・オレンジ。私はマジカル☆ブラックベリー」
 丁寧に挨拶をした彼女は黒いロングコートを着てサングラスをかけていた。魔法少女というよりは殺し屋かセレブだ。
「さあ、入って。それとも貴女の部屋にお邪魔してもいい?」
「殺したの?」部屋の中で横たわっている男たちを見ながら私が問う。
「ええ」とあっさり答える。
 その割には血が一切見当たらない。医者としては生死を気にすべきところだろう。生憎、闇医者の私には殺害方法の方が断然興味がある。
「死体を横にお茶を飲む趣味はないね。こっちへ来なよ」
 ブラックベリーに対する恐怖心はあったが、殺すつもりならとっくに殺しているだろう。そう思うと彼女の意向に沿わない行動をする方が危ないと思い自室に招いた。
「じゃあ片付けるからちょっと待ってて」
 死体に指を向けると元々誰もいなかったかのように消え失せた。そんなことが可能ならこの部屋で良かったと思ったよ。反対側の隣にいた男たちは既に処理しているらしい。
 部屋に戻ってすぐにコーヒーか紅茶のどちらがいいかを聞いた。どちらでもいいと言うので紅茶を入れてやる。
 彼女はロングコートを脱いだ。なるほど、腕や脚など肌の露出が多いゴスロリ調の衣装だ。あえて例えるならキュアブラックのようだ。これなら魔法少女と言われて納得できる……とはまだ言い難い。などと思っていると顔を近づけてきた。
「美しいわ。やっぱりヴィオラ博士の娘さんね」
 裏は圧倒的な男社会だ。女は舐められるし値踏みされる。この仕事を始める時、護身用の武器を持ち歩くことにした。そして女として見られないように野暮ったい眼鏡をかけ、髪はぼさぼさに、白衣はわざと皺を残す。女としての魅力に泥を塗るようにした。だから前者はつまらないお世辞だ。それより後者が気になる。
「ヴィオラ博士って誰だい?」
「私の恋人だった人」
 馬鹿言わないでくれ。どうみても二十歳にも満たないこの少女が母の恋人だったって?
「そんな人知らないね」
「お母さまのこと嫌い?」
「どこで知ったのさ」
「私がその気になればわからないことはないわ」
 どこの権力者だ。それも魔法だというのか。そもそも何をしに来た。母に関する内容だと思うとどんな話題も聞きたくない。
「帰ってくれ!」
 自分でも驚くくらい声を荒げていた。顔を上げるとブラックベリーは表情一つ変えていなかった。
「…………また来るわ」
 そう言ってその場から消える。彼女が座っていたところには小さなメモに電話番号とメールアドレスが書かれていた。寝る前につけたテレビでは依頼主であるマフィアとその敵対するマフィア壊滅のニュースが報じられていた。
 翌日、出国の前に空港で電話をかけてみる。彼女は五秒で出た。
「電話してくれると思ってたわ」
「飛行機に乗るまで二十分ある。手短に話してもらうよ」
「それじゃ時間が足りないわ。でもとりあえず昨日の冗談については謝罪させて。ヴィオラ博士とはいい友人だった。ただ私の片想いだっただけ。貴女のお父さまと貴女を大事に思って揺らがなかった」
 それは本当だと思った。いや、今思い出すと本当だと信じたかっただけかもしれない。そして三日後に会うと約束をして電話を切った。

 約束の場所は某国にある私の隠れ家の一つだ。ここは絶対に裏の人間が駆け込んでくることのない家である。人払いの魔法をかけるからどこでもいいとか言っていたがイマイチ信用ならないじゃないか。それはそれとして、ブラックベリーは約束の時間一分前に玄関に現れた。なぜいきなりそんな場所に出てくるか聞くと「誰かが出入りしているの見られたくないんじゃないの? もちろん認識阻害魔法もかけてあるわよ」と返ってきた。もう言葉も出ないよ。
「まず魔法少女って証拠を見せた方が良いかしら」
「もう十分見せてもらったよ」
「お手を拝借」
 私の手をいきなり握った。どこかの遺跡のような場所にいた。眼前には十メートルはありそうな熊のような怪物がこちらに向かってきている。地震のような衝撃が体を震わせて逃げなければと脳が発する。けれどブラックベリーは私の手をさらに強く握る。
「ちゃんと見ててね」
 ブラックベリーはもう片方の手のひらを怪物に向けた。すると怪物の腹に穴が開いた。少し遅れて体がのけぞり、緑の体液が噴き出す。
「さよなら」
 指を鳴らすと頭、両腕、両足が体内の爆弾でも爆発したかのように弾け飛ぶ。それを見た私はその場にしゃがみこむ。職業柄生死には多く関わってきたし、自分の死も覚悟しながら生きてきたつもりだった。久しぶりに残虐とかグロテスクという単語を思い知らされた気がする。
「どうだった? 魔法少女と信じてもらえたかしら」
「信じないと言ったらさっきの怪物みたいにされるのかい」
「視覚的に訴えるため派手に倒したけれど、いつもはもっと綺麗にやるわ」
 左腕についた体液をどこからか出したハンカチで拭きながら言った。
「十分信じさせられたから続けて。あと出来れば家に戻してほしいな」
 するとブラックベリーは私の手を握った。風景は一瞬で見慣れた家になった。ハッとなってコーヒーを入れようとした時には彼女はもうソファに腰掛けていた。
「まず私とヴィオラ博士の関係から話すわね」
 普通の医師として働きながら闇医者としても活動していた。研究資金の確保のためだという。親子で同じような悪いことをしていたとは知らなかった。私は母のような立派な理由は持ち合わせていないが。
「ちょっとミスして危ない目にあったところを助けてくれたの。しばらく彼女の妹として匿ってもらったわ」
 先程の光景を見せられた直後だと、この女が怪我するところなんて考えられなかった。が、顔には出さない。
「私は魔法少女のことを話して想いを告げた。けれど彼女には恋人がいた。言わずもがな貴女のお父さまよ」
 そして彼女は母のところから去ったという。その後、どこそこで何を食べただの、どういう話をしただのという他者からすればどうでもいい思い出話がぽつりぽつりと出てくるだけだったため、それを遮る。
「魔法少女というのはどういうものなんだい? 君は見た目以上に長生きなようだけれど」
「魔法少女は世界を悪者から守る存在よ。界獣、さっきの怪物から人間同士のいざこざまで色々な対応をさせられてるわ。魔法少女の引退は二つあって、ある一定の年齢を迎えるか死ぬかなのよ。ある一定年齢というのは通常二十歳未満なんだけれど、加齢とともに魔力の低下が起きるの。それが一定量を下回ると魔法少女として活動できなくなる」
 ブラックベリーはコーヒーに口をつけて一息つく。
「ここまでは魔法少女について、ここからは私個人について話すわ。私は十八歳、魔法少女の多くは引退する年齢ね。けれど私は魔力の低下がまだ起きていなかった。そこへ不老という因果な呪いがかけられたの。つまり貴女の生まれるずっと前から十八歳のままで魔法少女として活動させられ続けているってわけね。おかしなことに魔力は高まる一方だし」
 悲惨な人生だったのだろう。けれど私はそれを安易に同情できるほど優しくはない。力には義務や役目が付きまとう。その点では私も同じような境遇にあるのかもしれないが、曲がりなりにも命を救ってきた私とは対極のような存在だ。しかし、不当に他の命を奪う可能性のある命を救う私と、それらを殺すことで結果的に他者の命を守っている彼女ではどちらが素晴らしいのだろうか。
「これについて同情してもらおうとしたわけじゃないわ。ただ、次の話をするにあたって理解して」
 またコーヒーに口をつける。つられて私も口にした。
「私の呪いが解けるまで貴女に協力してもらいたいの。それまで貴女の命は絶対に守るわ。悪い取引じゃないでしょう?」
 突拍子のない申し出に困惑しながらも一つ一つ確認しようと思考を働かせた。
「君のボディーガードとしての腕は疑う余地はないけれど、私に何が与えられるのかな。医学とアウトローな人間との人脈が魔法や呪いに役に立つかい」
「立つわ。どこにも属さず裏を渡り歩きながらも、一人も殺していない人間は貴女以外には知らないわ」
「殺したことなら沢山あるさ」
「手の施しようのない状況で死んでしまったのを殺したとは言わないのよ」
 母のことを知っているくらいだ。私の過去まで調べ上げているのだろう。最善を尽くしても助けられなかったというケースはある。真っ当に生きていた頃には上司や同僚から慰められても、遺族から殺したと言われれば多少なりと殺したと思ってしまう。裏に身を置いてからのそういうケースではどう立ち回りどう言い訳をするかをまず考えなければいけない。そうやって心を殺すように仕事をしてきた。今更そのような慰めなど意味はない。それでも
「母は、どれくらい失敗した?」そう聞かずにはいられなかった。
「具体的な数字は知らない。ただ、看取った全員の名前を紙に書いて金庫に保管しているとも言ってたわね」
「……ふふっ、ははははは!」
 大声を出して笑うなんて久しぶりだ。怖いもの知らずのように見えるブラックベリーもこれには驚いていた。
「何がおかしいのかしら」
「母が医者としても人としてもそこまで優秀だったとは。普通はそんなことをしていたら金庫がいくらあっても足りないよ」
 軽い口調で皮肉を言い切った。深呼吸をして真剣な顔になる。
「この通り、私は母にまったく似ていないし母の代わりにはなれない。期待を裏切ってしまって悪いね」
「素晴らしいわ。ヴィオラ博士の息女と聞いてやってきたけどとんだ逸材ね。今日から私は貴女のボディーガードよ」
 嫌われようと取った行動は裏目に出たようだ。
「好きにしなよ」

 彼女は毎日私の前に現れた。ご丁寧に仕事の邪魔にならないタイミングを見計らってやってくる。一、二時間ほど雑談をするとどこかへと去る。最初はなんとかってお菓子が美味しかっただの、こんな敵を倒しただのと一方的に話しているのをほとんど聞き流すような感じだった。一ヶ月で私が折れてしまいついにこちらから話を振ってしまった。
「君はどこに住んでいるんだい?」
 気になることが山ほどある中で一番初めに聞くことがそれかよと今になってみると思う。
「ナイショ」
 その後もいくつか質問したが冒頭で書いた通り本名、変身前の姿、国籍、人種ははぐらかされた。わざとらしくため息をつく。
「結局何も話したくないということだね」
「まだ聞いてないことが沢山あるじゃない。折角私に興味を持ってくれたんだから教えてあげる。好きな食べ物はチョコレート。音楽はなんでも聴くけど、よく聴くのはクラシックかしらね。スポーツは苦手よ。恋人はいないわ」
「情報が乱立しすぎているよ。けれどチョコレートくらいなら用意してあげてもいい」
「あら、ありがと。言ってみるものね」
 ミルク、ビター、ホワイト、どれも好んで食べていた。しかし、名前に反してイチゴやラズベリーなどの果物が入ったチョコレートは苦手らしい。そう言った彼女に質問をした。
「君以外に魔法少女はいないのかい? それこそストロベリーとかラズベリーとか」
「今はいないわ」
「戦死、それとも以前言っていた引退したということかな。じゃあ敵は君一人で対処しているのか? それなら私なんかに構わないでくれ」
 久しぶりに突き放そうとしてみた。飄々と流されるかと思っていたが反応は違った。
「……厄介なら来るのはやめるわ」
 彼女は俯きながら呟いた。それは普通の十八歳の女の子が恋人に振られたかのような表情に見えた。
「そうだね」
 その時の私にはそれしか言えなかった。彼女はどこかへ消えてしまう。それから彼女は私の前に現れなかった。
 寝る前にふと考える。私の対応は母が彼女にしたものと同じなのではないか。これまで恋をして愛を拒否したり愛する人を失うことを沢山してきて、呪いというやつが解けるまで繰り返していくのかもしれない。私だったらある程度の所でそういった感情を切り捨てているだろう。本当に人間が好きで守るために戦っていると思うと尊敬の念すら覚えた。

 そのやり取りから三週間後、大きな仕事が入っていた。小さな島国の偉い人の手術だ。その国の住人は誰でもその人を知っている。珍しく裏の人間ではないがそれでも気は抜けない。なんでもその国の医者では手に負えないが、多忙のため他国に渡ることもできないとのことだ。しかし、少しでもその国の事情を知っていればそれだけではないことを察することができる。緊張状態にある近隣の国と周辺を根城にしている海賊の問題で手一杯なのだ。その人が一週間も留守にするとそこを狙われる。そんな状況だから渡航、入院、精密検査、手術、術後の経過観察と真面目に手順を踏んでいるわけにいかなかった。そしてどこにも属しておらず口が堅いと有名らしい私がご指名をいただいたわけだ。
 空港につくと黒服の男女が高級そうな車に案内してくれた。車内の窓は全てカーテンで隠されている。それなのに目隠しをされた。体感で二十分くらい乗っていると、途中で車を降ろされて手を引かれた。別の車に乗り換えたようだ。そこから体感十分くらい経つと車から降ろされて目隠しを外された。到着したらしい。ちなみに依頼人の名誉のために説明しておくと、これら一連の行為はあくまで秘匿性を高めるためであって、黒服の態度はとても丁寧なものだった。女性を同行させ私の身体に触れる際は全て彼女がやってくれたことからもそれは伺えた。
 そこは地下室のようだった。依頼人はすぐにやってきた。挨拶もそこそこに仕事の話に入る。事前に手術方法やそのリスクは説明しているが再度簡単に説明する。同意書にサインしてもらって手術開始だ。三時間後、手術が終わったことを外で待っている黒服に伝えると男の方がどこかへ連絡を取った。女の方は私を労う言葉をかけてくれ、休憩室のようなところで食事をさせてくれた。食べ終わったところで仮眠を取る。本当ならぐっすりと眠りたいところだが、容体の変化に対応しなければいけないので手術後はわざと寝苦しくして眠る。この時は固いソファとこもった空気がその役割を果たす。時計を確認すると十二時だった。日付が変わる前には寝たいと思っているが今回ばかりは仕方がなかったと思いながら目を閉じる。
 ノック音で目を覚ますとまだ一時だった。
「ドクター・オレンジ! 大変です!」
 こちらの返事を待たずにドアを開けて黒服が数人が入ってくる。
「どうしたんだい」
「襲撃です!」
 外では正体不明の組織と銃撃戦が繰り広げられているらしい。依頼人を避難させたいから一緒に来てほしいとのことだ。勿論同行する。地下からエレベーターに乗って駐車場に出ると、おあつらえ向きに救急車が用意されている。眠ったままの依頼人を乗せて私も乗り込もうとしたところで黒服の一人が大きな声を上げる。
「トラックがくるぞ!」
 全員駆け足で乗り込み救急車は出発した。依頼人を見ていたので外の様子は見ていなかったが、どうやらトラックはこちらに衝突させるつもりだったらしい。救急車の運転手のドライブテクニックの方が上手かったようで衝突は避けられた。その後銃声が聞こえる。車に当たってはいないようだが、それでも恐ろしいものだ。
 まだ麻酔が残っているだろうに、依頼人が目を覚ます。余程乗り心地が悪かったのだろう。それでも彼は冷静に努め、黒服に状況を説明させる。そして私に手術のことを聞いた。上手くいったがまだ安心は出来ないと正直に説明しておいた。
 車の後方に何発か銃弾が当たりだしてもうダメだと思った時、運転手が何か叫んだ。それはよく聞き取れなかったが前方に巨大な何かが現れたのがチラッと目に入った。急カーブでそれを避ける。降車すると十メートルはあろうかという黒い巨人が立ちはだかっていた。巨人は追ってきたトラックを叩き潰す。続けて救急車も叩き潰される。
「もう少しで基地だ。なんとしても逃げるぞ!」
 依頼人が出した大声で全員我に返り走り始める。不幸中の幸い、巨人は見た目通りの鈍足だった。それでも転倒した黒服の一人が掴まれて握り潰される。私の眼前に飛び散った血が降ってくる。もう足が動かなくなってきた。なるほど私は死ぬのだろう。つまらない人生だったが最期だけはダイナミックなようだ。死んだら預金は寄付されるよう手配してある。関わってきたのは裏の人間ばかりだが、訃報を聞いて悲しんでくれる人はいるだろうか。などとつまらないことを考えてしまう。いよいよ手が迫ってくる。


「死ぬのはまだ早いわよ」


 その声に驚き、勢いよく前のめりに転ぶ。手のひらを擦りむいて痛い。痛みがあるということは死んでいないということだろう。そんな情けない姿を晒した私に手を差し伸べてくれたのはブラックベリーだ。
「立てる?」
「大丈夫」
 血まみれの手を人に預けたくなかったため一人で立ち上がる。巨人は石像にでもされたかのように動かない。
「良かった」
 彼女が安堵の表情を見せる。そこまで私のことを思ってくれたとは意外だ。
「なあ……」不意に声が出た。
「ごめん、ちょっと待っててね」
 そう遮られると彼女は巨人に手をかざす。すると動き出す。私は既に微塵も恐くなくなっていた。
「マジカル☆ブラックシュート!」
 かざしたままの手から黒い光線が放たれる。巨人は花火のように爆発した。それでも私たちは火傷どころか爆風すら感じなかった。
「恐らく必要もない技名を叫ぶ意味とはなんだい」
「ギャラリーへのサービスよ」
「……まあ助かったよ、ありがとう」
「お安い御用よ」
 そう言うとどこかへ去ってしまった。
 助かった依頼主や黒服は私に説明を求める。しかし、知らぬ存ぜぬを突き通すしかない。どうやら私が助けられた時、巨人だけでなく時間が止まっていたらしく彼女との会話は聞かれていなかった。つまり、助けた一般人に声をかけただけのように見られたわけだ。しばらくして軍からの応援が到着し、私たちは屋内で治療と食事を提供された。

 二日後、依頼主から報酬を受け取り空港に向かう。もう少し経過観察を行うべきなのだろうが、こちらとしては一つの場所に長居したくないし、あちらも闇医者との接触が露呈したくはない。そういう大人の事情で二日の弾丸出張手術となった。飛行機に乗り込むと隣にロングコートを着て帽子を深々と被り眠っている人がいた。暑いだろうに変わった人だと思いながら気にしないフリで荷を降ろす。
「お仕事お疲れ様」
「そんな気がしたよ」
「分かっていて無視したなんて酷いわ」
「わざわざ助けに来たんだ。私に言いたいことがあるんじゃないかと思った」
「それは貴女の方じゃない? 何か言いかけたのを遮ってしまったわよね」
 私は黙り込んでしまう。あの時言おうとしたことは覚えている。しかし、今言うべきはそれではないなと思った。
「君の提案に乗ろう。私を死ぬまでこき使うといいさ」
 彼女は何を言うわけでもなく私に抱き着いた。そして背景はどこかで見たホテルになっている。
「貴女が泊まる予定だったホテルよ。飛行機でここまで来る時間を私が貰うわ」
 つまり、移動の手間を省いてやったから付き合えというわけだ。図々しいにも程があるが、飛行機は苦手なので実はありがたかった。それでも思い上がらせたくないから口には出さない。
 そして彼女のされるがまま一日を過ごした。覚えていることと言えばバスローブを脱いだ時の彼女の裸が彫像のように美しかったことと、その華奢な体から想像もつかない激しい攻めだけだ。翌朝、目が覚めるとベッドからいなくなっていた。コーヒーを入れようとした時に机の上に書き置きが目に入る。

『楽しかったわ。貴女の魔法少女より』

 というわけだ。変な話だろう? まるでしばらく会えない風に書いておいて、三日後には現れたからね。
 言えるのは、彼女が私に愛想を尽かさない限り一緒にいるだろうということだ。一緒にといってもべったりではない所が心地よい。ただ、こちらが寝ている間に入りこんでいつの間にか隣で寝ているのはやめてほしい。
 最後に、これは推測だけど、彼女はいつでも解呪が可能な状況にあるんじゃないかと思う。もしくは反対に解呪不可能であることを知ってしまっているか。何故かと聞かれたら医者の勘だと答えるしかないけれどね。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...