灯り火

蓮休

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灯り火

正徳

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 放課後になって詳しい話を聞くために俺と三希みき七水菜なずな先生がいる職員室に向かっていた。
「そう言えば蒼井あおい君は?」
「蒼井は部活見学で水泳部を見に行ってる」
「そうなのか、あのバカは?」
菊一きくいちは教室で女子と話してた」
「よし後でとっ捕まえに行こう」
「うん」
 三希と話ながら廊下を歩いていると黒いフードを被った小柄な女子生徒を見かける。
正徳しょうとく?」
「うん?」
 俺が声をかけると黒いフードを被った小柄な女子生徒がこちらに振り返る。
「なんだー君か」
 そう言って正徳はこちらに近づいてきて片手を上げる。
「やっほー」
 俺も左手を上げて正徳にハイタッチする、三希が俺達のやり取りを不思議そうに見て首を傾げていた。
たけるその人は?」
「こいつは正野しょうの徳子とくこ、略して正徳」
「どもども正徳ですよろしく~」
 正徳が三希に手を差し出す、三希はその手を取って頭を下げる。
「武がいつもお世話になっています」
「うん?お世話してます?」
「三希、急にどうしたの?」
「いや、武がこんなに親しく人と話すのを初めて見たからお世話になっている人かと」
「そうかな、自分で言うのもなんだけど三希や蒼井とも親しく話していると思うけど。ついでに菊一も」
「うーん上手くは言えないけど私達と話す時より武が自分らしいかなと思って」
 そんな三希の言葉に俺が困惑していると。
「まあ君は君だから」
 正徳が俺の目を見つめて話す。
「ところで二人はこれからどこに行くの~?」
「七水菜先生のところだ」
「えっ」
 正徳が怯えた声を出す。
「どうした正徳?」
「ううん何でもないよ~それじゃ私は帰るね~」
「分かったじゃあな正徳」
「うん、天ノ川あまのがわさんもまたね」
「ああ、またな正野さん」
 正徳が手を振りながら俺達とは反対方向に歩いていく、俺と三希も正徳に手を振り返して職員室に向かう。職員室にたどり着いた俺はドアをノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
 職員室の中から男性の声が聞こえ俺はドアを開ける、中には二十人ぐらいの先生がいたが七水菜先生を見つけることは出来なかった。俺はドアの近くにいた男性の先生に話しかける。
「すいません七水菜先生はどちらにいますか?」
「七水菜先生ならさっき急に立ち上がって校庭の方に歩いて行ったよ」
「分かりました。ありがとうございます」
 俺は職員室を出て三希に話しかける。
「まずは菊一と合流しようと思う」
「よし、とっ捕まえにいくぞ武」
「うん」
 俺達は来た道を戻って教室に向かう、教室に近づくにつれて菊一と女子生徒の話し声が聞こえる。
「俺マジ歌うまいから」
「え~本当に」
「マジマジだから一緒にカラオケ行こうぜ」
「でも菊一くん放課後、先生に呼ばれてなかった?」
「大丈夫大丈夫、あんなもん無視しておけば良いから」
 菊一がその言葉を言った瞬間、背後から強烈な殺気を感じて後ろを見れば三希が鬼の形相で菊一を睨んでいた。
「どこのカラオケ店に行こうか?」
「あの菊一くん」
「そんなに怯えなくても俺は紳士だから、女性を第一に考えて行動するから」
「へえ~それじゃ私は女性扱いではないと」
 菊一の背後にいる三希が地獄の底から響くように話しかける。
「えっ」
「ごめん菊一くん私帰るね」
 女子生徒は三希に怯えながら足早に教室から出ていく、教室に残ったのは俺と鬼の形相の三希と冷や汗を流す菊一だけになる。
「菊一行こう」
「お、応」
「後で殺す」
 三人で並んで校庭に向かう。
「天ノ川さんさっきのは場の流れといいますか」
「大丈夫だ分かってる」
「あ、良かっ」
「お前が女好き糞野郎で剣術バカなのは分かってるから」
「いや違いますよ!!なんですかそのあだ名!?」
「女子とカラオケに行こうとしてた」
「あっ」
「武の右腕を折った」
「あ、自分女好き糞野郎の剣術バカです」
 俺は三希と菊一のやり取りを聞きながら、疑問に思ったことを菊一に聞く。
「菊一、三希に決闘挑まなくて良いの?ボロカス言われてるけど」
「実は俺女性が苦手で女性に対して攻撃できない」
「それは紳士だな」
「ただのヘタレだろ」
「まあ、俺が小さい頃に聞いたじじいの話が印象的でさ」
「それって菊一正宗まさむねさんの話?」
「応、昔じじいがある女性をからかったことがあってなその時じじは高校生で相手は小学生だったらしい、じじいの友人の妹の護衛らしくて初めて会った時にじじいが『ちび』と言ったらナイフが十本飛んできた、じじいは竹刀でナイフを弾いたが相手はじじいに近づいてナイフで切りかかってきた。結局その場はじじいが相手のナイフが無くなるまで捌き続けて峰打ちで勝ったんだが、問題はその後、毎日ナイフがじじいに向けて飛んでくるようになった」
「えっ」
「じじいが寝ていようがトイレにいようが関係なく何処にいようとナイフが飛んできた。まあ、そのおかげでじじいは殺気を感じ取れるようになったけど、その時の事を語ったじじいの『絶対に女性はからかうな』という言葉が忘れられなくて俺はそれ以来、女性に攻撃できない」
「なるほどな」
「だからこそ高校では苦手な女性を克服して彼女を作るんだ!!」
「頑張れ菊一」
「応、ありがとう」
 そんな中、菊一が話している間ずっと無言だった三希が呟く。
千鶴ちづるみたいだ」
「侍女さん?」
「ああ、千鶴もナイフを使うから」
「その千鶴さんというのは?」
「三希の侍女さんだよ」
「へーちなみにその方は今どこに?」
「私の住んでいる家にいる」
「良かった天ノ川さんの家にいるのか」
 胸をなでおろす菊一を見ながら下駄箱で靴を履き替えて校庭に出る。
「あ!借家かりや君!!」
「あれ?蒼井は水泳部の見学だったんじゃ」
「うんもう終わったから借家君達を探してた」
「そうなのか」
「みんなもう集まってるね」
 後ろから七水菜先生の声がして振り返ると。
「うぅー」
 七水菜先生に首根っこを掴まれた正徳が引きずられていた。
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