灯り火

蓮休

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灯り火

帰り道

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 校庭を出てから三十分後、俺達はポチを連れて学校に戻ってくる。
「みんなお疲れ様」
 校庭に行くと七水菜なずな先生が手を振って出迎えてくれる、その横では正徳しょうとくが両手で耳を塞いでいた。
「正徳大丈夫か?」
「うん」
 正徳が俺の口の動きを読んで頷く、そんな俺達のやり取りを見ながら七水菜先生が近づく。
借家かりや君、あの男は?」
「男なら」
「アイツならどっか行ったぞ」
「そう」
「あんな奴どうでもいいだろ、それよりポチを見つけたぜ七水菜先生」
 菊一きくいちが話に割って入り、ポチを持ち上げて七水菜先生に見せる。
「みんな本当にありがとう」
 七水菜先生が菊一からポチを受け取り頭を下げる。なぜか七水菜先生はポチに腕を嚙まれていたが。
「フッ、俺達にかかれば迷い犬を見つけるなんて朝飯前だ。これからも何かあれば遠慮なく言ってくれ」
「じゃあ菊一君これから先生と一緒に二人きりでお話しようか」
「応、いいぜ」
 七水菜先生はポチを右手で抱えて噛まれて、左手で菊一の襟首を掴んで引きずっていく。
「ついに俺にも春が来たか、しかし生徒と教師は禁断の関係。俺は一体どうすれば」
 菊一が引きずられながら何かぶつぶつ言っていたが、七水菜先生は気にせず学校に入っていく。しばらくして校内から菊一の断末魔が聞こえた。
「うん?」
 菊一の断末魔で三希が目を覚ます。
「おはよう三希みき
「おはよう?」
 三希が辺りを見渡して俺に背負われていることに気づくと急いで飛び下りる。
「うわあ」
「よいしょー」
 飛び下りた三希がバランスを崩してよろけるのを正徳が支える。
「三希、無理しないー」
「ありがとう正徳」
 そんな二人を見ていると正門前に黒塗りの車が停まり、慌てた様子の侍女さんが降りてくる。
たける様!お嬢様!」
「侍女さん」
「お二人ともご無事でいらっしゃいますか!!」
千鶴ちづるどうしたの?」
「はい、仕事仲間から武様が襲撃を受けたと連絡がありまして、お二人をお迎えに上がりました」
 侍女さんが後部座席のドアを開ける。
「どうぞ、よろしければ皆様もお乗りください」
 三希は正徳の手を取って一緒に乗る、蒼井あおいは迷っていたが俺と目が合い頷き返すと車に乗り込んでいった。
「武様もどうぞお乗りください」
「いえ俺はまだここに残ります」
「なぜですか?」
「友人を待ちたいので」
「わかりました。けれど、くれぐれもお気をつけて、何かあればこちらにご連絡ください私の携帯電話の番号です」
 そう言って侍女さんが電話番号の書かれた紙を俺に手渡す。
「ありがとうございます」
「武、夜ご飯までには帰ってこいよ」
「うん」
 そんなやり取りをして、黒塗りの車は発進した。

「大変な目に遭った」
 七水菜先生の説教が終わり学校を出ると外はもう薄暗くなっていた。正門に近づくと月明りに照らされておぼろげに生徒の姿が見える。
「借家?」
「こんばんは菊一」
「何でまだ学校にいるんだ?」
「菊一を待ってたから」
「マジか」
「うん、一緒に帰ろう」
「応」
 借家と並んで歩く。
「今日はごめんね」
「何がだ?」
「怖い思いをさせてしまって」
「そんな事ないぞ」
「俺はこの世にいない方がいい存在だから、皆に迷惑をかけてしまう」
 そう言った借家はどこか遠い場所を見ているようで、その姿はあまりに儚く消えてしまいそうに感じた。
「それは違うだろ、悪いのは襲ってきた奴らだ」
「けれど、原因は俺にあると思うから」
「だからどうした借家はだ」
「え?」
「借家は俺のライバルだ、俺のライバルが悪い奴のはずがない」
「なんだよそれ」
「この俺、菊一宗司そうじが認めたんだ。借家がなんと言おうと関係ない」
「でも」
「それ以上言うなら、それは借家をライバルと認める俺への侮辱と取るぞ」
 俺は立ち止まって借家を見る。
「綺麗な目だと思うぜ」
「うっ」
 借家が俯いて顔を隠すので、手を借家の腰に置いて持ち上げる。
「やめろ」
「意外と軽いな」
 借家の目を正面から見る、借家は見られるのを嫌がるように目を閉じる。
「大丈夫だ。俺はお前を絶対に傷つけない」
 俺はなにもせず借家を見つめ続ける、次第に借家は目を開ける。そのクリっとした金色の目は暗闇を照らすように光っていた。
「恐くない?」
「全然」
 お互いに見つめ合い無言の時間が流れる。
「降ろして」
「応」
 腕を下げて借家を地面につかせる。
「帰ろうよ
「応、俺ん家寄ってけよ一緒に飯食おうぜ」
「うん!」
 その後、結局武は俺の家に泊まることになったのだが、それはまた別の話。
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