灯り火

蓮休

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灯り火

六日目

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 4月6日

 目が覚めた俺は井戸に行き、水を汲み上げて顔にかける。
「ぐはぁ!?」
 水のあまりの冷たさに驚きながら俺は服を脱ぎ道着に着替える。片手に竹刀を持ち桜の木の下で竹刀を振っていく、暗かった空が青く澄み太陽が昇るまで俺は竹刀を振り続けていた。
宗司そうじ、朝ごはんできたよ」
 母の声で竹刀を振るのを止めて居間に向かう。
「おはよう宗司」
「応」
 じじいに挨拶を返して座布団に座る、ちゃぶ台の上には炊きたてご飯にさばの味噌煮、きのこの味噌汁が並べられていた。母と父も来て食卓を囲み、手を合わせてから食べ始める。
「「「「いただきます」」」」
「うまい」
「それはよかった」
 俺が料理の感想を言うとじじいが嬉しそうに笑う。
「鯖は梅干しと煮つけていてな」
「応」
「茸は裏の山から取ってきてな」
「応」
 じじいの説明を聞きながら料理を食べ進めていく、朝ごはんを食べ終わり最後に一杯お茶を飲んで手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さま」
 居間から出て部屋で動きやすい私服に着替えて玄関に行くとじじいに呼び止められた。
「宗司、どこか出かけるのか?」
「応」
「ならこれを持っていきなさい」
 じじいから竹刀を手渡される。
「何故?」
「最近はなにかと物騒だからな護身用だ」
「応」
 じじいから受け取った竹刀を腰に差し玄関の扉を開けて外に出た。たける達と待ち合わせしている温泉プールに向かっていると道路の真ん中に茶髪のセミロングの髪でつぶらな瞳の女性が立っていた。
「きみが菊一きくいち宗司君?」
「そうですけど、あなたは?」
「私は使です」
 女性が天使と名乗った瞬間、女性の姿が消え目の前に拳が現れる。俺は頭を動かし拳を躱すが直後に腹を殴り飛ばされ近くの屏に背中から打ちつける。
「ぐはぁ!?」
 肺にあった空気が一気に口から出たが、立ち上がり目の前の悪魔自称天使を睨みつける。
「あんた一体何者だ」
「だから天使と言ってるだろ」
「多分、天使はいきなり人を殴りはしねーよ」
「そうかな?天使とは神の使いだろ、だったらかみに命じられれば殴るんじゃないかな」
「なんだと?」
「つまり私は使、略して使です」
 女性から場を支配する絶対的な威圧感が放たれる、俺は恐怖で冷や汗をかきながらも相手から視線を外さない。
「私からの用件はただ一つ、借家かりや武に関わるな」
「断る!!」
「そっか」
 女性から威圧感が消え悲しげに俯く、そして俺が瞬きをした一瞬に女性の拳が目の前に迫ってきていた。
「ぐはぁ!?」
 女性の右拳が俺の頬を打つ、俺はなんとか耐えて後ろに下がり女性から距離をとろうとするが女性の左拳が俺の腹を打ち、俺はまた殴り飛ばされて屏に背中を打ちつけた。
「ぐはぁ!?」
 俺は竹刀を支えにしながらなんとか立ち上がり女性を見る。
「なんで反撃しなかったの?さっき反撃できたでしょ」
「生憎俺は女性に攻撃できないので」
「なるほど、だったら今から私はだ」
「はあ?」
「私の名前は日影ひかげ萌々もも改め日影萌々、男だ!」
「あ、この人バカだ」
「さあ、かかってこい」
「チッ、殺ってやるよ」
 俺は竹刀を正面に構える。そして俺と萌々太郎の決闘が始まった。
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