Aria ~国立能力研究所~

しらゆき

文字の大きさ
12 / 67
第2章 二つ目の事件( 未来 中学生)

3

しおりを挟む
 その日、テレビを見ていた母に聞いてみたが、どうやら「盗作だ!」と審査員が叫んだ直後に画面が切り替わったらしい。NHKとしてもあまり大事にはしたくなまったのだろう。姉はまだほとんど写っていなかったらしいので、知らない人が見た分には姉の事が分かることはないと言っていた。だが、姉は料理学校に通っているのだ。クラスメイトや同じ学校の人には姉だとわかってしまうかもしれない。
 その日、姉は帰ってこなかった。家には、友達の家に泊まると連絡があったらしいが、挙動不審だったと言っていた。
「出来なくても、やれ」
 三波のきつい言葉が脳裏に蘇る。姉の無実を証明するためには、姉を陥れた人間を捕まえる必要がある。だが、そのとっかかりはほぼない。可能性はこれから見るかもしれない夢の世界だけだ。
 でも、強く望んでいるからか、いくら待っても眠気はやってこなかった。
「アロマ、焚こうかな……」
 未来は一年近く前、ほとんど眠れなかった時期があった。夢を見るのが怖くて眠れず、数日に一度倒れるように眠る未来を心配した母がアロマのボトルとディフューザーを購入してきてくれた。アロマは安眠効果があるというラベンダーとオレンジスウィートをブレンドしたものだった。今でもたまに焚いているが、最近はあまり焚いていなかった。睡眠薬だと夢も見れない可能性が高いため今日はこれを試してみる。
 アロマの匂いがゆっくりと部屋の中に充満していき、体がすっきりとするような錯覚を感じた。
* * *
「兄さん、普通、そこまでする?」
 いつもと同じ暗い場面が晴れてくると、未来の目の前に二人の男が映った。どちらも見覚えはないが、一人は三十代中間くらいの男性で、向かい側にいるのは大体二十代後半から三十代前半くらいに見える。どちらも整った顔をしていて、きっと女性にモテるだろうなと、思える。
 これが姉の、奈々子の盗作疑惑に関係のある人間ならいいが……
「彼女は才能がある、だが……まだ、早いよ、ね」
 兄と呼ばれた男が告げた言葉にもう1人の男が小さく息をついた。
「聞きたくないけど……これ、どうするつもり?」
 男が一枚の封筒を差し出す。相応の厚さがあるそれをぱらぱらと男が見てから、机の上に投げ出した。その中身が未来の目に映り、未来は小さく息を呑んだ。それは、姉のレシピだった。中には今日姉が作った料理のレシピも入っている。オリジナルではなくコピーだが確かに姉の物だった。
「勇次、お前これを全部お前の字と絵で描き直してくれ」
「何に使うわけ?」
「一度でも盗作の疑惑が出たら、二度と表に出れないだろう?」
「仮にも彼女、兄さんの生徒じゃなかったっけ?」
「だから、だよ。生徒に負けたままなんて、悔しいだろ」
 クスリ、と笑った顔がどこか狂っているように見える。
* * *
 ぼんやりと目を覚ました未来は、寝ぼけた状態で近くにあるノートを手に取った。この行動はほぼ毎日のようにしているからか、半分寝ぼけていてもさほど問題なく絵と文字を描くことはできる。もっとも絵に関しては確実だが文字はミミズの張ったような文字で自分以外には理解できないだろうが。後で描き直す必要はあるが、目が覚めてしまうとなぜか絵がまともに描けなくなってしまう。
 絵をかき終わる頃には大分目が覚めてきた。そこに文章を付け足していく。
「これ、誰だろう?」
 絵は二人の男が向き合っていて、その中央のテーブルにレシピを置いている場面の他、男二人の顔を鮮明に書き記している。
 年かさの男の方は、姉の事を生徒だと評していた、という事は姉が通うABC料理専門学校の講師なのだろう。
 未来はその状態でPCの電源を付け、ABC料理専門学校のホームページを開く。そこに講師紹介の欄を見つけた。やはり思った通り、専門学校の教師の写真が載っていた。その写真をクリックすると講師の略歴が見れるようになっている。元々料理のコンテストなどに応募したり、審査員として従事したりしている人たちの集まりなのだから、そこから本名も知ることができた。
 写真をざっと眺めていく。恐らく30人程度いて、並び順は経歴順のようだった。上の方にいる講師の方がより良い経歴を持っているらしく、中には海外の料理コンテスト優勝者なんてのもいる。姉が通っている料理専門学校は、かなりレベルが高いのかもしれない。
 目的の写真は中央付近で見つけた。名前は、宮内幸雄みやうちゆきお、年齢は三十五歳。創作料理の専門家として、学校では創作料理の講師をしているらしい。経歴にはNHK創作料理コンテスト優勝等、いくつかのコンテストに出場し、優勝もしくは入賞歴があった。そして今ではたまに審査員として呼ばれる程度の知名度はあるらしい。
 思ったよりもすごい人のようだ。姉に負けているというような口調だったため、講師陣の中でも大した経歴のない人間なのだと思っていたが、審査員を務める事もあるという事は相応の知名度があるはずだ。
 未来は新しいタブを開き『宮内幸雄』の名を打ち込んでみた。いくつかの記事が出来てたが、その記事は約五~六年ほど前の物が主で、現在の記事には「スランプ」の文字が乗っていた。講師として人に料理を教えている宮内自身、最近ではオリジナルの料理の勘案が出来ていないという記事もあった。
 彼自身が納得できる創作料理が作れなかったとしてもこれだけの経歴の人間なのだから目は肥えているだろう。その彼が、姉を教えているうちに、姉の才能に気づいたとしてもおかしくない。自分が決して到達できない才能に。それくらい姉の作る創作料理は質が良く、そして、そのスピードは驚異的なほどだった。それもそうだろう、姉は息をするよりも自然に新しいレシピを考える事が出来るのだ。
 未来は今調べた内容からいくつかを印刷しながら千鶴に連絡を入れた。未来が今できるのはこれくらいしか思いつかない。後は千鶴に任せるしかない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです 魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。 「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」 「ええっ!?」 いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。 「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」 攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...