人形の館〜隠された真実〜

しらゆき

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第二章

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 可愛らしい人形がディスプレイに並んだ「人形の館」と看板が掲げられている店舗はほどほどに人通りの多い駅近くにある。椎菜は、下調べをする前に一度だけ顔を出していた。前情報がない完全な客としての視点で一度見て見たかったのだ。
「……いらっしゃいませ……あら、またのご来店、ありがとうございます」
 椎菜の顔を見るなり柔らかい笑みを浮かべた女性、城島詩音に椎菜は驚いたように目を見張った。椎菜がここにきたのは一週間以上前のことで、まさか客の一人である椎菜を覚えているとは思ってもみなかった。
「え?」
「一度来ていただいていますよね」
「……覚えているんですか?」
「ええ、人形を作るのに、人間に限らず様々なものを観察するのは必須なんです。だからなのか、一度見た人の顔はよく覚えているんです」
「……驚いた……私も職業柄観察眼には自信があるんですけど……さすがにそこまでは……」
 言いつつ、軽く店内を見回す。可愛らしい木彫りの人形やら置物が飾ってある。全てが店主である詩音が作った一点ものだと聞いている。その店内はちょうどいいことに、今は椎菜以外の客はいないようだった。
「お客様も接客を?」
「いえ……フリーでライターをやっています」
 椎菜は詩音に見せるために持ってきていたLAYの雑誌と名刺を彼女に差し出す。
「え!LAYのシーナ?」
 名刺を目にして詩音が驚いたように目を見張る。
「あ、よかった……ご存知ですか?」
「もちろん。毎回読ませていただいています。……うちを記事にしていただけるんですか?」
「そのつもりで、取材に来ています。ご協力お願いいたします」
 椎菜がペコリと頭を下げると詩音がパッと目を輝かせた。
「ありがとうございます。私、シーナさんの大ファンなんです。シーナさんに書いてもらえて嬉しいです」
 キラキラとした視線を向けられ、椎菜は驚いたように目を見張った。シーナを知ってくれている人は相応に多いが、ここまで真っ直ぐな好意を向けられることはあまりなかった。ライターにいい感情を持たない人は多い。粗探しをするライターや適当なことを乗せる人も多い。椎菜は絶対に嘘は書かないと決めているので、そういう目で見られるのはいい迷惑だ。
 椎菜は口元に笑みを浮かべながら詩音を観察する。その態度に嘘は見えないが、流れるように嘘をつく人間が多い中、表の顔をそのまま信じるわけにはいかない。
「ありがとうございます。そう言っていただけましたら、助かります。……どこかで取材のお時間を取らせていただけますか? できれば人形の製作過程も見せていただきたいのですが……」
「それでは、明日はいかがでしょうか? 明日はちょうど製作日となっておりますので」
「ここの開店日が一日置きとなっているのは、製作日の関係ですか?」
「ええ、接客しながらデザインは描けますが、製作は難しいので」
「たしかに、これだけのものを作るのに、片手間、というわけのはいきませんね。アルバイトは雇わないんですか?」
「私の作った子が、どんな人に買われるのか、見たいんです。だから、アルバイトは雇うつもりはありません」
 きっぱりとした言葉に椎菜はクスリ、と笑みをこぼした。今の彼女のその表情だけでどれだけ真剣に作品と向き合っているのかわかる。椎菜はそんな彼らを見るのが好きだった。
「本当に大切なんですね。だから、こんなに暖かい作品が作れるんですね。……取材は明日にしますが、いくつか購入していっていいですか?」
「もちろんです。どんなものをお探しですか?」
「この雰囲気に合うもの、ってありますか?」
 椎菜は「星屑荘」の入り口から全体を撮影した写真を詩音に見せた。
「わぁ、可愛いですね。ご自宅……ではないですよね?」
「一応お店です……と言っても、趣味の延長なので気分次第で休みだったりするんですけど……ウッドハウスなのでここの雰囲気と合いそうな気がして……」
 困ったように笑う椎菜に詩音が優しく笑う。
「それなら、いくつか見せますよ。お店にあるのもですけど……じつは並べていないものも結構あるんですよ」
「レイアウトも随分と凝っているんですね」
 統一感のある作品。今の季節にあった装飾品。売りものもそうだが、売り物以外のものもみんな詩音の手作りなのかもしれない。
「ええ、実はここにあるものすべて、私の手作りなんです」
「……すべて? 人形以外も?」
「はい、売っているものは人形だけですが、机とか棚もみんな手作りです」
 言われた言葉に椎菜は驚いたように目を瞬いた。このお店そのものが詩音の作った宝箱のように見えた。まるでここは、椎菜にとっての星屑荘だ。
 こんな幸せに満ちた笑顔を、この場所を椎菜の記事が打ち砕くことになる。チクリ、と感じる嫌な予感を椎菜は見なかったことにした。それは、椎菜が藍堂秦であるために身につけた処世術だった。心を凍らせないと、こんな仕事はできない。椎菜はまるで、自分が詩音が作った人形になったような気分になった。
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