好きの反対

apricot

文字の大きさ
1 / 1

好きの反対

しおりを挟む

とある高校、とある教室。
今日もつまらない授業が終わり、学生達はこちらがメインと言わんばかりに、思い思いの部活動へ足を運ぶ。
そんな中に一人、一際この時間を嫌っているものがいた。

それというのも、この学校の副会長に任命されたアズマという男。
生徒会室に入るや否や、大きなため息をつくのが最近の彼の日課である。

「……また寝てるし。って、ちょっと!……まだコレ終わってないの……朝頼んどいたじゃん。」

 決して彼は生徒会が嫌なわけではない。ただ彼が嫌なのは、生徒会室に入るといつもソファで寝転がっている相手が気にくわないのだ。

「あぁアズマ君。しょうがないじゃないですか……眠くて眠くて……」

「ったく、会長なんだからもっと時間を有効活用して仕事してよ!」

嫌いな相手、時乗トキノリ生徒会長。
仕事はしないし動こうともしない。いつもいつも時間はあるのに寝ているばかりの人。何故この人が生徒会長に選ばれたのか、皆目理解が出来なかった。

頭が良いのは知ってる。顔が良いのもわかる。おまけに家柄も良いときた。
だが、それだけで生徒会長を選ぶこの学校の生徒達はどうかと思うよ。

それに、それだけじゃないんだ。俺が会長が嫌いな理由。それは……

「アズマ君、それは君の考え方でしょう……?
私はして、眠っていたんです。人によって、時間の有効活用とは仕事を早く終わらせる事でもあれば、1秒でも多く眠る事でもあるのです。つまり、蓼食う虫も好き好き、十人十色ですよ。」

「はぁぁ、まーた屁理屈言って………」

そう、こういうところが合わない。ウザい。

「安心してください、いつかはやります。」

「いつかって……。いっつもそう言って結局やるの俺じゃん。」

「それは、私のよりも、君のの方が早いからですよ。……でも、感謝はもちろんしていますよ、ありがとうアズマ君。来週、のお礼に作ったおやつ。持ってきますね。」

おやつ……。
会長の作るおやつ美味しいからまぁ……楽しみかも……って!
この人は!!すぐおやつ渡せば良いと思ってるんだから…!!

「おやつで釣ろうとしないでよ!……まぁ、くれるんなら…もらうけどさ。
……あんたのそーゆーとこ、俺嫌いだからね。」

「あれま…。私のこと嫌いなのですか?」

嫌い、という言葉に反応したのかやっとこさ会長は体を起こし、正しくソファに座り直した。この際だからはっきり言わせてもらおう。

「ものすっごく。だいきらい。」

よし、言った。なんか会長の方を向けないけれど、ちゃんと言ったんだ。

「そうですか。その嫌いとはどういう意味で?」

「え?」

ど、どういう意味で…とは、どういう意味で…?
飛んだ返しに咄嗟に会長の顔を見ると、いつも通りの食えない笑顔を浮かべてこちらを見ていた。

「アズマ君に質問です。君にとって好きの反対とは?」

「え?え?何急に、怖いんだけど……。」

いーからいーから、と手をヒラヒラさせる。

「好きの反対って……そりゃあ、嫌いでしょ?」

「本当に?」

「本当って………え、何が。」

あ、この流れは……。
また、いつものアレか……。

「いいえ、ただ私と君と、考え方が違うみたいでして。
……もう少しだけ考えて見て下さい。好きの反対は本当に嫌いなのか、否か。」

宿題です、来週にまた同じ質問しますね。と、にこやかに言うと、やることもやらんとまた時乗会長はソファに寝転がった。こういう意味のわからない話と共に俺に宿題を出すのは日常茶飯事なのだ。
宿題俺に出してる暇あるなら、自分の山積みの課題を終わらせてほしい…。

*****

………と会長に言われて早くも1週間がたとうとしている。
今日の夕方、生徒会室に入るまでが宿題の提出期限である。
けれど俺は未だにあの質問の意図がわからない。好きの反対は嫌いだと思うし、何より会長のことも嫌い。大っ嫌い。

「あー…行きたくないなぁ生徒会。」

渋りながら廊下をゆっくり歩く。と。

「あ、あの、東先輩っ!!」

「ん?」

「す、少しお時間よろしいでしょうか。」

高校生には、青春イベントが多く取り揃えているもので。
いつ何時後輩の女子生徒に呼び止められるとも分からない。

「あの、先輩のこと、入学した時から好きで……。
ホラあの、その日に私校内で迷子になって…それを先輩が助けてくれて……覚えて、ませんか…?」

入学式の日……。あの日は祝辞の紙忘れていった会長を探した記憶しかない……。
ま、結局会長は丸暗記してて問題無かったけど。俺はめっちゃ焦って探してたのに、会長は凛として、会長らしく皆の前に立っていた。

「………。ごめん、覚えてないなぁ。」

そうだ、あの時から会長のこと嫌いになったんだっけ。
みんなの前ではあんなにカッコイイのに、生徒会室では………

俺の前では、いつもの会長で……。

「そ、うですか。ですよね……。
……あの!もし、今東先輩に付き合ってる人とか、好きな人がいないなら、考えて、貰えませんか…?」

「付き合ってる人……好きな人………すき、な、人……?」

好きな人。そのワードに頭の中で浮上した人物は、全くの真逆の立ち位置に存在しているはずの人。

……あれ?なんで、あの人が……。この世界の中で、一番嫌いなのに。なんで、あんたの顔が…。

「……あぁ、そう。なるほど。」

わかってしまった。宿題の答えが。




「ごめん。付き合ってる人も、好きな人もいないけど、ものすっごく、愛おしいくらい嫌いな人がいるんだよね。」




*****



「おや、今日は遅かったですね。何か用事でも?」

「い、いや。ちょっと、ね。
あんたこそ、珍しいじゃん。ソファじゃなくて椅子に座ってるの。」

「いやだなぁ、私のやる、が今だっただけです。それにこれは私の仕事。私がやらねばでしょう?」

「それ……の会長にも申し送りしといてもらっていいですか。」

生徒会室に、夕焼けの赤が舞う。
椅子をぎしりと鳴らし、会長はこちらを真っ直ぐに見つめ、俺に問いかける。

「……さて、アズマ君。私もやることやってますから、君もやる事は当然、やってきてくれたと思います。先週の、宿題について。」

「うん、まぁ……。」

「それは良かった。では、宿題の提出を求めます。
君にとって、好きの反対とは?」

俺にとっての、好きの、反対。
それは……


「嫌い……
じゃ、ないかもしれない。」


なんとも歯切れの悪い言い方になってしまい、俺自身も不服だけど、会長も不服らしい。
でも、コレが俺の答えだから、しょーがないよね。

「かもしれない、とは、君らしくもない曖昧な表現ですね。」

「う、うるさいな。これでも考えた方だよ。」

「ふむ……まぁ、良しとしましょう。」

会長はそれだけ言って椅子を立ち、夕焼けの赤色へ身を投じた。赤の似合う男って……やっぱりムカつく。

「……なにその言い方、ちゃんと考えたって!」

「……私は、案外好きと嫌いとは、紙一重であると思うのです。同じようにその人の事を考え、同じようにその人を目で追ってしまう。
その人の話になれば反応してしまうし、嫌いな人は?と聞かれれば、その人の事がすぐに浮かんでくる。
アズマくんは、そう思いませんでした?」

「……。」

俺もそう、思った……かもしれない。けど、それを口に出すつもりは、ないよ。
だってそんなの、そんなの………。

「さてさて、好きの反対が嫌いじゃないかもしれないという答えに辿り着き、私の持論を聞いたアズマくんに、今週も宿題を差し上げます。」

「え?」

「アズマ君に質問です。
私の事は、どれくらいお嫌いですか?」


「ーーーーーーーーっ!!!!??」


「来週、また同じ質問しますね。」

そう言って会長は微笑むと、顔を真っ赤にしてる俺を他所にまた、いつもどおりソファに寝転がるのだった。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

俺達の関係

すずかけあおい
BL
自分本位な攻め×攻めとの関係に悩む受けです。 〔攻め〕紘一(こういち) 〔受け〕郁也(いくや)

人並みに嫉妬くらいします

米奏よぞら
BL
流されやすい攻め×激重受け 高校時代に学校一のモテ男から告白されて付き合ったはいいものの、交際四年目に彼の束縛の強さに我慢の限界がきてしまった主人公のお話です。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

Memory

yoyo
BL
昔の嫌な記憶が蘇って、恋人の隣でおねしょしてしまう話です

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

処理中です...