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好きの反対
しおりを挟むとある高校、とある教室。
今日もつまらない授業が終わり、学生達はこちらがメインと言わんばかりに、思い思いの部活動へ足を運ぶ。
そんな中に一人、一際この時間を嫌っているものがいた。
それというのも、この学校の副会長に任命された東という男。
生徒会室に入るや否や、大きなため息をつくのが最近の彼の日課である。
「……また寝てるし。って、ちょっと!……まだコレ終わってないの……朝頼んどいたじゃん。」
決して彼は生徒会が嫌なわけではない。ただ彼が嫌なのは、生徒会室に入るといつもソファで寝転がっている相手が気にくわないのだ。
「あぁアズマ君。しょうがないじゃないですか……眠くて眠くて……」
「ったく、会長なんだからもっと時間を有効活用して仕事してよ!」
嫌いな相手、時乗生徒会長。
仕事はしないし動こうともしない。いつもいつも時間はあるのに寝ているばかりの人。何故この人が生徒会長に選ばれたのか、皆目理解が出来なかった。
頭が良いのは知ってる。顔が良いのもわかる。おまけに家柄も良いときた。
だが、それだけで生徒会長を選ぶこの学校の生徒達はどうかと思うよ。
それに、それだけじゃないんだ。俺が会長が嫌いな理由。それは……
「アズマ君、それは君の考え方でしょう……?
私は有効活用して、眠っていたんです。人によって、時間の有効活用とは仕事を早く終わらせる事でもあれば、1秒でも多く眠る事でもあるのです。つまり、蓼食う虫も好き好き、十人十色ですよ。」
「はぁぁ、まーた屁理屈言って………」
そう、こういうところが合わない。ウザい。
「安心してください、いつかはやります。」
「いつかって……。いっつもそう言って結局やるの俺じゃん。」
「それは、私のいつかよりも、君のいつもの方が早いからですよ。……でも、感謝はもちろんしていますよ、ありがとうアズマ君。来週、いつものお礼に作ったおやつ。持ってきますね。」
おやつ……。
会長の作るおやつ美味しいからまぁ……楽しみかも……って!
この人は!!すぐおやつ渡せば良いと思ってるんだから…!!
「おやつで釣ろうとしないでよ!……まぁ、くれるんなら…もらうけどさ。
……あんたのそーゆーとこ、俺嫌いだからね。」
「あれま…。私のこと嫌いなのですか?」
嫌い、という言葉に反応したのかやっとこさ会長は体を起こし、正しくソファに座り直した。この際だからはっきり言わせてもらおう。
「ものすっごく。だいきらい。」
よし、言った。なんか会長の方を向けないけれど、ちゃんと言ったんだ。
「そうですか。その嫌いとはどういう意味で?」
「え?」
ど、どういう意味で…とは、どういう意味で…?
飛んだ返しに咄嗟に会長の顔を見ると、いつも通りの食えない笑顔を浮かべてこちらを見ていた。
「アズマ君に質問です。君にとって好きの反対とは?」
「え?え?何急に、怖いんだけど……。」
いーからいーから、と手をヒラヒラさせる。
「好きの反対って……そりゃあ、嫌いでしょ?」
「本当に?」
「本当って………え、何が。」
あ、この流れは……。
また、いつものアレか……。
「いいえ、ただ私と君と、考え方が違うみたいでして。
……もう少しだけ考えて見て下さい。好きの反対は本当に嫌いなのか、否か。」
宿題です、来週にまた同じ質問しますね。と、にこやかに言うと、やることもやらんとまた時乗会長はソファに寝転がった。こういう意味のわからない話と共に俺に宿題を出すのは日常茶飯事なのだ。
宿題俺に出してる暇あるなら、自分の山積みの課題を終わらせてほしい…。
*****
………と会長に言われて早くも1週間がたとうとしている。
今日の夕方、生徒会室に入るまでが宿題の提出期限である。
けれど俺は未だにあの質問の意図がわからない。好きの反対は嫌いだと思うし、何より会長のことも嫌い。大っ嫌い。
「あー…行きたくないなぁ生徒会。」
渋りながら廊下をゆっくり歩く。と。
「あ、あの、東先輩っ!!」
「ん?」
「す、少しお時間よろしいでしょうか。」
高校生には、青春イベントが多く取り揃えているもので。
いつ何時後輩の女子生徒に呼び止められるとも分からない。
「あの、先輩のこと、入学した時から好きで……。
ホラあの、その日に私校内で迷子になって…それを先輩が助けてくれて……覚えて、ませんか…?」
入学式の日……。あの日は祝辞の紙忘れていった会長を探した記憶しかない……。
ま、結局会長は丸暗記してて問題無かったけど。俺はめっちゃ焦って探してたのに、会長は凛として、会長らしく皆の前に立っていた。
「………。ごめん、覚えてないなぁ。」
そうだ、あの時から会長のこと嫌いになったんだっけ。
みんなの前ではあんなにカッコイイのに、生徒会室では………
俺の前では、いつもの会長で……。
「そ、うですか。ですよね……。
……あの!もし、今東先輩に付き合ってる人とか、好きな人がいないなら、考えて、貰えませんか…?」
「付き合ってる人……好きな人………すき、な、人……?」
好きな人。そのワードに頭の中で浮上した人物は、全くの真逆の立ち位置に存在しているはずの人。
……あれ?なんで、あの人が……。この世界の中で、一番嫌いなのに。なんで、あんたの顔が…。
「……あぁ、そう。なるほど。」
わかってしまった。宿題の答えが。
「ごめん。付き合ってる人も、好きな人もいないけど、ものすっごく、愛おしいくらい嫌いな人がいるんだよね。」
*****
「おや、今日は遅かったですね。何か用事でも?」
「い、いや。ちょっと、ね。
あんたこそ、珍しいじゃん。ソファじゃなくて椅子に座ってるの。」
「いやだなぁ、私のいつかやる、が今だっただけです。それにこれは私の仕事。私がやらねばでしょう?」
「それ……いつもの会長にも申し送りしといてもらっていいですか。」
生徒会室に、夕焼けの赤が舞う。
椅子をぎしりと鳴らし、会長はこちらを真っ直ぐに見つめ、俺に問いかける。
「……さて、アズマ君。私もやることやってますから、君もやる事は当然、やってきてくれたと思います。先週の、宿題について。」
「うん、まぁ……。」
「それは良かった。では、宿題の提出を求めます。
君にとって、好きの反対とは?」
俺にとっての、好きの、反対。
それは……
「嫌い……
じゃ、ないかもしれない。」
なんとも歯切れの悪い言い方になってしまい、俺自身も不服だけど、会長も不服らしい。
でも、コレが俺の答えだから、しょーがないよね。
「かもしれない、とは、君らしくもない曖昧な表現ですね。」
「う、うるさいな。これでも考えた方だよ。」
「ふむ……まぁ、良しとしましょう。」
会長はそれだけ言って椅子を立ち、夕焼けの赤色へ身を投じた。赤の似合う男って……やっぱりムカつく。
「……なにその言い方、ちゃんと考えたって!」
「……私は、案外好きと嫌いとは、紙一重であると思うのです。同じようにその人の事を考え、同じようにその人を目で追ってしまう。
その人の話になれば反応してしまうし、嫌いな人は?と聞かれれば、その人の事がすぐに浮かんでくる。
アズマくんは、そう思いませんでした?」
「……。」
俺もそう、思った……かもしれない。けど、それを口に出すつもりは、ないよ。
だってそんなの、そんなの………。
「さてさて、好きの反対が嫌いじゃないかもしれないという答えに辿り着き、私の持論を聞いたアズマくんに、今週も宿題を差し上げます。」
「え?」
「アズマ君に質問です。
私の事は、どれくらいお嫌いですか?」
「ーーーーーーーーっ!!!!??」
「来週、また同じ質問しますね。」
そう言って会長は微笑むと、顔を真っ赤にしてる俺を他所にまた、いつもどおりソファに寝転がるのだった。
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