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大人になる。
しおりを挟む僕は今酔っている。うん、そう。これはきっと酔っているから。
顔は暑いし動悸がすごいもん。きっとそうだ。
……なにを自分に言い聞かせているんだって?
おーけーおーけー。話を2時間前に遡ってお話ししてあげるよ。
*****
20歳になった今日、生まれた時から一緒にいるユーキがお祝いにとお酒とおつまみを持って家に来てくれた。
……僕はお酒を飲むのはこれが初めてだった。
ほんのりと酸味の効いたフルーツの味。そのあとに消毒液で嗅いだことのあるあの匂いが口に広がった。
「うわっツーンと来た。」
「どう?初めての酒の味は。」
ユーキは20歳になる前から飲んでたから、慣れた手つきで缶を傾けながら微笑んだ。
「大人の味って感じ。格別だね。」
「ははっ、一気に老けたみたいに言うなよ。」
美味しいか美味しくないかはさておき、格別なのは本当だ。だってこうやってお祝いしてくれる人がいて、しかもそれがユーキなんだから。
そうしてしばらく僕達はいつもみたいに他愛ない話で大いに盛り上がった。
………と。
ここまでは良かったのさ。ここまでは。
お酒に超絶強いユーキと違って、どうやら僕はとんでもなく弱かったらしい。アルコール度数3%のフルーツ酒を一缶飲む前に僕は机に伏せていた。
……強かったら良いなーって思ってたのに。
「大丈夫かコータ?凄い顔赤くなってきてるぞ。」
「うぇ?もうそんなになってんだ……。でもまだ飲みたいよ~…」
ユーキは程々にしとけよー、と僕に言いながら、気づいたら3缶目に手をかけていた。しかも顔色ひとつ変えないで。
そんな様子をジッと見てたら、なんだか今までユーキと過ごしてきた思い出が走馬灯のように頭に浮かんできた。
「……ユーキはなんでもそつなくこなすよなぁー昔っから。」
「なんだ藪から棒に。」
「だって昔も今もずっとテスト上位だし、運動もできるし、オマケに顔も良い。」
ユーキは缶をコトン、と机に置きこちらを向いた。そのことに気づかず僕は話を続けた。
「だから僕もユーキの隣に相応しい人になろうと思って頑張って来たんだよ。まぁユーキ程にはなれなかったけどさ。それでもこうやって20歳迎えるまで頑張ってこれたのは紛れもないユーキのおかげなんだよねぇ。
……ありがと、ユーキ。」
お酒が入ってるからか饒舌になった僕は感謝の気持ちが仕切りに溢れてきた。と同時に、身体中の熱が顔に集まってくるのも感じた。
「えへへ、こーゆー時じゃないとこっ恥ずかしくて言えないだろ?感謝したい事は他にも色々あるぞー。
小学校の時、足挫いて歩けなくなった時もユーキがおぶってくれたしー、学芸会の時緊張しすぎてセリフ抜けちゃった時もユーキがカバーしてくれたでしょー。
そーだそーだ、僕が親と喧嘩して家出した時ユーキがこっそり家に泊めてくれたのも嬉しかったんだったなぁ。」
ケタケタと、4畳半の空間に僕のゴキゲンな笑い声だけが響く。
「……ユーキは僕の憧れなんだよねぇ。今までも、そしてこれからも。」
ユーキに言いたいこと全部言ったら、クラァっと身体が後ろに傾いた。
やばいなぁ、こんなになるんだお酒って。
そう思ったけれど、よく考えたら僕が自分で倒れたんじゃ無かった。
僕はユーキに倒されたんだった。
「………ありゃ?」
我に返るとユーキに両腕をがっちりホールドされてるし、ユーキの顔が近い。
というか顔が良い。ひえぇ顔が良い!!
一向に状況が飲み込めてない僕に呆れ顔でユーキが口を開いた。
「あのなぁコータ?そういう不意打ちは良くないと思うんだ。無意識なんだろうけどさ。今のはコータが悪いと思うよ。」
ぐるんぐるんの頭の僕には、ユーキの言ってる意味も今起きている出来事も理解できない。
ユーキはそれだけ言って、獲物を捉えた肉食動物のようにペロリと舌なめずりをして、更に顔を近づけ僕の口を封じた。
ただでさえ酒のせいで脳は酸素を欲しがっているというのに、心臓の音が其処彼処から聞こえてきてどうにかなりそうだ。
酸欠で死にそうだと肩を押し退けて伝えるが、この獣はどうやら僕を窒息死させる気らしい。ピクリともしない。
「んむーーーー!!!」
「………あ。」
渾身の訴えにやっと気づいたのか、僕を解放した後ごめんごめん、と笑いながら言った。
「…あのねコータ。ここまできたからには言っておかなきゃいけない事がある。なんだか順番は逆になってしまったけど。」
息絶え絶えの僕の手を今度は優しく取って、ユーキは続けた。
「俺、ずっとコータのこと好きだったんだよ。コータは俺の事どう思ってる?」
まっすぐこちらを見ているユーキの顔がどんどん滲んで見えてくる。
でもこの赤すぎる顔も、早すぎる鼓動も、酒のせいだ。
うんそう、これはきっと酔っているから。
けれどだとしたらこの感情に説明がつかない。
好きだと言われて自然と上がっている口角と、ユーキとキスした事が嫌じゃないというこの事実。
……もしかしたら僕は今日、とんでもない早さで大人の階段を登ったかもしれない。
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