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本章

CASE Ⅳ

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「私…手術室看護師をやってたんです……」
「と言うことは…今は、もう」
「ええ……」
「そうですか。で、今日は何を見ましょうか?」
「あの、実は私オペでミスがあったその責任を取らされて処分になったんです」
「ほお」
「患者さんは一命を取り留めましたが…患者さんのご家族が病院相手に訴訟を起こす、と言われて」
「それで貴方は責任を取らされてクビになったんですね」
「ええ。けど…………」
「ん?」
「けど私、薬の投与ミスなんてしてないんですよっ」
「じゃあ何で貴方が処分されたんですか?」
「……その手術を一緒に担当していた先輩ナースがいるんですけど、その人が私のせいにしたんです」
「証拠はあるんですか?」
「……無いからここに来たんですよっ」
「そうですか…しかし、私の証言のような非科学的な証言は証拠として扱われないと思いますが」
「分かってます…だから貴方に詳しくその時の現場を見てもらって、それを手掛かりにして探そうと思うんです」 
「……分かりました。まあ、私に何かできるならば致しましょう」
「ええ、お願いします」
「因みに具体的にどのような薬を投与ミスしたんですか?」
「実は出血性の患者さんに出血促進剤を投与したそうなんです」
「分かりました。では、私の目を見てください」
「え、はい」
「……手術があったのは4月の15日ですね?」
「…はい、そうでした」
「患者……クランケと言うんですかね?クランケは60代後半の男性ですね」
「ええ」
「……貴方の言う先輩ナースは貴方より背の高い貴方の隣にいる方ですか?」
「そうです」
「手術ミスが起こったというのはどのくらいの時ですか?」 
「えーと、後半ぐらいだったんで手術開始から3時間を過ぎたぐらいです」
「えらく慌ただしいですね」
「ええ、この手術は難易度はそんなにたかくないんですが、器具類が多くて」
「はあ。ん、あっ」
「どうしましたか」
「3時間と42分を過ぎたぐらいで急にもっと慌ただしくなりました」
「あっ、そのすこし前です。たぶん3時間35分ぐらい。その時に先輩が間違って投与してるはずなんです」
「…………貴方はそれが分かれば訴訟を起こす気ですね」
「ええ、それが何か?損害を被ったのですから当たり前です。で、どうなんですか?」
「残念ですが……」
「分かりませんか?」
「いえ、残念ながら医療ミスを起こしたのは……貴方でした」
「……えっ、え、え、え。そんな筈ないじゃないですか。あれは先輩が……」
「貴方も心の中では分かっているんでしょ、それを逃避しているだけで」
「そんな筈ないでしょっ」
「あの人が……あの人が…」
「事実が受け止められませんか?」
「も、もういいですっ。失礼しますっ」



「先生、何であの人には教えたんですか?」
「ん、あの人は、ここで教えられる運命だったからだよ」
「先生は、先生は何でも見えるんですよね?」
「ん、まあ、色々ね」
「じゃあ、ご自身の未来も?」
「凛くん。コーヒー」 
「はい」
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