少女の手には呪いの本

七海 司

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未だ開かれぬ本

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 夏の朝日が容赦なく入り込んでくる教室の窓を開けて、風を引き込むと、ほどほどに冷たい空気が校舎内を走り抜けていきます。

 まだ、誰も登校してこない静かな教室は好きです。雑音がなく、すっと本の世界に入り込むことができるからです。そうすれば今日も一日、教室の背景として落ち着いて過ごせます。誰も私ーー日色 雪菜に話しかけては来ないのです。存在を認知されているかすら怪しい限りです。
 そんな私はリュックの中から濃い紺色のブックカバーをかけた百合小説を手に取り読み耽っていきます。
 
 私、日色雪菜は今日も平穏無事に壁の花として過ごせますように。

「おっはよー」
 元気よく教室に駆け込んできた枝折 夏海さんの声で本の世界から連れ戻されてしまいます。

 いつも明るく、笑っている夏海さんは名前の通り真夏の太陽の輝きと海の鮮やかな青色のイメージの方です。そんな彼女でも朝の教室では返答は得られないようです。
 だから私は、おはよう。と心の中であいさつを返します。小説に視線を戻そうと思いますが、自然に彼女の動きを追ってしまいます。
 夏海さんは、真尾さん達4人に何かを言われて楽しそうに笑っています。

 私も彼女のように明るく振る舞えたら、背景ではなく登場人物となれるのでしょうか。そうなれるのならどんなに素敵なことでしょう。けれどもそれは、叶わぬ夢です。こうしてあいさつを心の中で返しているのがいい証拠です。

「ふう」
 ため息が漏れてしまいました。
 自分の情けなさも溜息と一緒に何処かへと行ってほしいものです。

 今度こそ、文字を追いかけます。
 『裏図書室にある本には全て、ブック・カースにより呪いが込められている。黒い文字はすべて乾いた血で綴られ一文字一文字が呪を孕んでいる』
 『裏図書室にいくには4時44分に図書室の扉を4回ノックしてから後ろ向きに入室する』

 スピーカーがぶつっ。と震えてからウィンチェスターの鐘の音を校舎に響きわたらせます。

 どうやら時間切れのようです。

 いつものようにすぐ、松本先生が教室に入ってくるはずです。仕方なく、ブックカバーについている紐の栞ーースピンを小説にはさみこんで本を閉じます。それを丁寧にリュックに仕舞っておきます。
続きを読みたくて仕方ないのですが、今は校内漢字コンテストのための朝自習が優先です。
 私は本に関することで嫌な思いをするのが堪らなく嫌いなのです。だから、そんな事態が起こらないように行動するのです。
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