少女の手には呪いの本

七海 司

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現実に夢のブックカバーをかけて

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夢を見ました。
 あの後、おうちに帰って晩ごはんの席でお母さんに八つ当たりをしてしまったことをはっきりと覚えています。なのでこれは夏海さんと別れた後のことを見た夢です。
 夢と自覚した夢、明晰夢です。

 私は学校の裏庭にいます。時刻ははっきりとはわかりませんが、陽の傾き具合から逢魔時というのが相応しい時間帯です。
 なにせ、裏図書室に居た影たちが3人の女の子を取り囲むようにして立ち、うぞうぞうねうねと気味の悪い動きをしています。

 影の中心にいる3人は夏海さん、犬上さん、八雲さんです。
「夏海ちゃん、あたしたちを呼び出すって何様のつもり?」
「何様って、私たち友達でしょ?」
「はぁっ!?」

 影たちに遮られて夏海さんの顔が見えません。声だけでしか状況を掴むことができないのは何とももどかしいです。

「少なくともクラスのみんなはそう思っているよ。そういうふうに見えるように真尾さんが立ち回っていたし」

 夏海さんと真尾さんたちは友だちではないのでしょうか。

「うるさいっ!」
 犬上さんが吠えました。
「埒があかないから単刀直入に言うわ。私の友達の雪菜に手を出さないで」

 急に名前を呼ばれて心臓が跳ね上がりました。夏海さんは私のことを友達だと思ってくれていたようです。人生初のお友達です。
 問題は、これが明晰夢だということです。現実には何の影響も与えないのです。

「へーそー。あの根暗が友達なんだー。どうしようかなぁー」
「少し、いじってあげたらすぐに自殺しちゃいそうな根暗がねー」

 犬上さんと八雲さんはくすくすと笑っています。何か悪い遊びを思いついたような悪巧みをする子どものような笑いです。

 きっと、私をいじめのターゲットにして夏海さんに嫌な気持ちにさせるつもりです。

「やめて!」
 夏海さんがお腹の底から大きな声を出しました。気圧された2人が黙ってしまいました。まさに一喝です。

「命令すんなよ。何様のつもりだ」

 犬上さんはどうやら語彙が乏しいようです。私も人のことを言えませんが。

「何様って? さっきも聞かれたらから答えてあげる。人間様よ。これで納得できた? 犬上さんは無様かしら?」
「ふっざけんなっ。私のどこが無様なのよ!」
 犬上さんが本当に吠えました。
 
 影たちの隙間から見えたのはほんの一瞬だけでした。
 
 それだけで何が起こったのかを見てとることができました。
 
 夏海さんのスラリと長い美脚が腰の捻りと共に鞭のように振るわれたのです。ハイキックや上段回し蹴りと呼ばれるものです。
 
 美しくすらある一撃は見事、犬上さんの下顎に命中しました。
 すとんっと犬上さんは、体から力が抜けて崩れ落ちました。どうやら失神したようです。
 
 夏海さんは八雲さんの間合いへ軽快なフットワークで入っていきます。
 半身に構えていた左手で軽く八雲さんの右手を払い除け、一連の動作として右の拳を鳩尾に突き立てました。体重が乗った綺麗な正拳突きです。

 一撃必殺という言葉を連想してしました。
 夢の中の夏海さんも強くて美しいです。

 気がつくと夏海さんの姿はどこにもありませんでした。夢特有の気づいたら登場人物がいなくなっているあれです。

 2人を取り囲んでいた影たちが一斉に動き出しました。我先にと倒れている犬上さんと八雲さんに群がっていきます。

「ひっ」

 悍ましいものを見てしまいました。影たちが犬上さんを食べています。人の形をしたものが人を食べます。脇腹のお肉が噛みちぎられています。そこからだらりと腸のようなものがつながっています。

 ああ、何という事でしょう。凄惨な光景から目を離すことができません。

 犬上さんの体は影に食べられたところが、影のように黒く霞んでいます。きっと、影たちに食べられると同じ影になってしまうのでしょう。

 どうやら八雲さんには影は群がっていないようです。ただ、彼女の背中からキノコの形をした影が生えています。それがどんどん。どんどん。大きく成長しています。影キノコの成長に合わせて八雲さんの体も犬上さん同様に黒く霞んでいます。


 二人は物語の魔物たちと同じ最後を遂げてしまいました。
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