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第八話 古の天使

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季節は5月、ここアムステリアも日本と同様春らしい陽気に包まれている。
俺は黒板を見ながら、春の匂いを感じていると

「再来週、アムステリア帝国魔力大会が行われる。代表者10名同士で戦うトーナメント戦だが、名門アムステリアはシード権を獲得しているが、序盤にあたる相手はよわいだろう。よって、序盤の2戦はD組が担当することになった」

グランズ教諭はだるそうに言うと、黒板に何やら文字を書きだした。
どうやら、選出メンバーを1週間後に魔力演習場で総当たりの演習で選ぶようだ。

周りを見渡すと、やってやるぞと意気込んでいる者や、不安そうな顔をしている者。教室は緊張に包まれていた。

この試合で勝てれば魔力大会にもでれるし、A組にも近づけるかもしれない。
そう思った俺は拳を握りしめ意気込んだ。

グランズ教諭の補習の成果もあり俺はすでに2色の魔素を発現させている。
光と闇だ。この2色を発現させている今なら楽に勝てるかもしれない。

ところで、光の魔素は天使が使い、闇の魔素は悪魔が使っていたと以前グランズ教諭は言っていたが、人間は他の色の魔素をどうやって発現したのだろうかと思いながら窓の外を見ると

地球からうっすら月の形が見えるように、窓の外を見ると二つの形をした衛星が双子のように見えた。ひとつはまるで透き通った綺麗な海のような水に、緑でで覆われた大陸が見える。それはまるで少し上空から見たリゾート地のようだ。もう一つのほうを見ると、紫がかった茶色一色で覆われた惑星であった。いかにも悪魔が住んでそうな惑星だ。

ギリシャ神話でガイアとウラノスが様々な神をつくったように
天使と悪魔がこの世界を作ったかもしれない。
それならば、天使と悪魔はどこから生まれたのだろう。

そんなことを考えている間に朝のホームルームは終わっていた。






いつものように魔力演習場に向かい、俺は魔素に意識を集中させるため座禅をし、意識を集中させた。

ふう、見えたぞ。中から黄色い光魔素が見える。
これまたいつものように光の魔素に集中していると突然周囲が光一色に包まれた。
光が全体に広がっていき徐々に強く輝いていく。
眩しくて何も見えない。

数分たっただろうか、光は消えていて目の前にはきれいな透き通る水、アムステリアでは見たこともない50mを超える木や、虹色の花びらを持つ花。ほかにも見たこともない植物が生い茂っていた。

ここはいったいどこなのだろうか。そう考えながら辺りを見渡しながら前に前に進んでいく。すると木々の隙間から真っ白な遺跡のようなものが見えた。

間違いないここはアムステリアの衛星のひとつだ。俺はそう確信し、前に見える遺跡に向かっていく。

その白い遺跡は高さ30mほどだろうか、ところどころに塔のようなところがある。

もう何年も使われていないのか植物で覆われていたが、劣化する様子もなく、我々が知らない素材でできているようだった。

遺跡についたはいいが、入り口が見当たらない。

俺は遺跡の周囲をぐるりと一周することにした。

すると、手のひらが描かれた石板があった。

それはおそらく遺跡の扉を開ける鍵となる役目をしているのだろう。
今、ここで手のひらを合わせれば間違いなく遺跡の中に入れるだろう。
だが、そんなことをしていいのか。中には得体のしれない生き物がいるかもしれないし、その生き物がアムステリアを襲うかもしれない。

リスクが高すぎると判断した俺は瞑想をやめ、現実世界に戻ろうとした。

が、いくら戻ろうとしても戻れない。
何故体が動かない。焦りながら辺りを見渡していると前方に光が見えた。
その光の中から白い服装をした輝く女性がこちらに向かってくる。
以前見た、天使のような聖霊だが、おそらく、天使だろう。

天使は不気味に微笑みながらこちらにゆっくりと近づいてくる。
これはまずい。本能が俺を何とかしてこの場から逃れようと脳をフル回転させている。額からは汗が零れ落ちる。

動け。動くんだ。いくら動かそうとしても、びくともしない体。
恐怖しながら前方を見ると、目と鼻の先に不気味に微笑む天使はいた。

俺はあまりの近さと不気味さにのけ反りそうになるがそれも動かない。

このままでは確実にいい未来は待っていない。
殺される。そう思った。

体の中が熱い、力が奪われていくようだ。
右手をみると右手はゆっくりと石板のほうに動いていた。
このままでは遺跡は開いてしまう。そう思った俺は手を動かそうとするが動かない。

気が付くと、俺の右手は石板に触れていた。
右手は黄色く光の魔素発現し、ゴゴゴという重低音を響かせながら扉が出現した。

物凄く大きな扉が開いて嬉しいのか天使は更に不気味に笑い。こちらを見つめていると、数万本を超える光の矢が上空にでてきた。

今度こそまずい。今日ここで俺は死ぬ。

光の矢が俺めがけて一斉に近づいてくる。物凄い音を奏でがら。

光の矢が近づいてきた時
俺の全身が光の魔素で包まれていく、そして心の中で唱える。

「力をかせ! 光の盾を出現させたまえ!」

そう心の中で唱えると、俺の目の前には3重にもなった盾が出現した。

数万もの光の矢は防がれ、天使が少し動揺していると

俺は現実世界へと意識が戻った。

気が付かないうちに授業はおわっていたらしい。
鐘が鳴っても動かない俺をグランズ教授は気にして、ずっと肩をたたいていたのだ。

グランズさまさまである。
あれがなければ俺は間違いなく死んでいただろう。

俺は心配してたグランズ教諭に大丈夫と伝えると、昼食をとるため食堂に向かった。








食堂につくとリリーとイリナが手を振りながらこっちに近づいてきた。

「どうしたのイツキ! すごく疲れた顔してるね、大丈夫」
「ああ、ちょっとあってな、大丈夫だよ」

そう伝えると

「それならよかった!今日は私とイリナの手作り弁当を持ってきたの。食べてくれる?」
「お口に合うかわからないが、食べてくれると嬉しい」

二人が作ってくれたんだまずいわけがない。俺はありがとう、そう言って弁当箱を受け取った。

弁当箱を開けるといい匂いが漂ってきて、おなかが鳴る。
中には卵サンド、チキンサンド、サラダに、フルーツの詰め合わせ。
それに手作りクッキーが入っていた。

すごく女の子らしい弁当で、おいしそうだ。

早速いただく、卵サンドは濃厚で、チキンサンドもハーブがいい感じに調和している。

「うまい!」
「本当! ならよかった」
「そうか!」

二人は嬉しそうに微笑んでいる。

次は手作りクッキーをたべようか。袋の中身を空けると、少し焦げた甘くいい匂いが漂ってきた。
これまた美味しそうだ。一口食べると優しい手作り感のある味が口内を満たす。

ああ、幸せだ。さっきまで殺されかけていたんだ、これくらいのご褒美あってもいいだろう。
そう一人で頷きながら俺は二人の弁当を完食した。
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