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第1話 追放
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「急がなくちゃな」
俺は宮廷の広い通りを早歩きで歩いていてた。
数時間後にはリース王国のとある貴族と交渉事をしなければいけないからだ。
普通は、交渉事なんて、聖女の護衛である俺の仕事ではないが、相手方の貴族に気に入られたからから俺が行くことになった。
と言う理由もあるが、この国の宰相は何もしない。だから俺が代わりにやっている。そんな状況だ。
「おい、ジーク!!」
曲がり角を曲がって、後は宮廷を出るだけ、そう思っていた時、後方から名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「なんでしょうか、宰相殿」
「うむ。実はな......」
そう言うと宰相である、ラザルは後ろで手を組みながらゆっくりと俺の方に歩いてくる。
『早くしろ、こっちは忙しいんだ』そう言いたいが、相手は宰相だ。
イライラしながら、まるで亀のようにのろのろと近づいてくる宰相を待つ。
「お前に話がある」
「それはそうでしょう。なんですか、話って」
早口で言ってしまった俺の言葉を聞くと、ラザルはにやりと笑っていた。
「大事な大事な聖女様の護衛の任のことだ」
「はぁ」
俺は内心『またか』と思っていた。宰相は時折、無理難題を言ってくる。
忙しいというのに、雑用や、宮廷の掃除とか、護衛の任とまったく関係ない仕事を押し付けてくる。
だから今回も、そうだと思っていた。
だがラザルの口から出た言葉は、まるで違っていた。
「お前を聖女様の護衛の任から解く」
ラザルは俺の肩に手を置きながら、ニヤニヤしていた。
「なぜ急に!?」
「なぜ急にだと!? ジーク、お前本当に分かっていないのか!? お前、聖女様の護衛だというのに、なぜお前はここにいる!」
「それは聖女様なら、お部屋でお休みになっています」
聖女であるリスティアは大勢の護衛がいるこの宮廷内にいるから安心だ。
それに、聖女を襲うような奴は存在しないといってもいい。
だから、実質聖女の護衛なんて職はないにも等しかった。実際、前任もその前任もそうだったようだ。
それを知っていて、ラザルは俺にそう言っていた。
もちろん、護衛の任を疎かにしてもいない。俺は聖女のどんなに小さな声でも駆け付けられる。
「言い訳はいい!! ジーク、お前はこんな昼間っから仕事をさぼってどこに行こうとしている」
「リース国の貴族と交渉事を行いに行こうと――」
「交渉だと!?」
ラザルは腹を抱えて笑っていた。
「どこの世界に平民上がりの護衛役と交渉する貴族がいるのだ。それに、私は宰相だぞ? この国のことは一番よく分かっている。お前が何かこの国のためになることをしていたらとっくの昔に気づいているわ!!」
脂で湿った髭を手で整えながらそう言うラザルに俺はため息が出ていた。
ラザルが宰相として仕事をしていないことを知っているからだ。
こいつは自分が仕事をしていないのに、この国が成り立っていることを疑問にも思っていない。
「貴様! 私の前で溜息だと!? 平民上がりのくせに!」
「はぁ」
「もういい! ついてこい! 王もお前の仕事っぷりにお怒りだ」
ラザルは両手をぶんぶんと振り回しながらそう言っていた。
俺は呆れて何も言えず、ラザルの後をただ無言でついていった。
「ジーク。お前は聖女の任を放棄しただけでなく、勝手に内政も行っていたようだな」
王であるラースは俺と聖女であるリスティアを呼び寄せるとそう言っていた。
「ええ、そうです。あなた達が、酒池肉林を楽しんでいる間にね」
「なにぃ!? 貴様、な、なにを言っているのかわかっているのか、か!」
図星のラースは威厳を精一杯保ちつつ、そう言っていた。
「ラース王! どうかお許しください。ジーク様は私の護衛を放棄していたわけではありません。私がそうしてほしかったのです。それに、内政に関してもそうです」
リスティアは俺を庇おうとそう言っていたが、もちろんそれは嘘だ。
俺が勝手に判断して行動したことだった。
「しかしな。リスティア殿。ならぬことはならぬのだ!」
「でしたら、前職の方々は何故許されていたのでしょうか?」
「そ、それは.....」
そう言ってラースはラザルの顔を見た。それに気づいたラザルは、慌てて口を開いた。
「平民だからです! 聖女様も分かるでしょう。平民がこの職に就くだけでもすごいことなのです。それなのに、職務を放棄するなんてもっての外!」
ラザルはさも当然と言いたそうな顔でそう言っていた。
リスティアはその言葉を聞き、怒りでプルプルと震えていた。
「ティア。もういいんだ。ありがとう。俺はこの職を辞めるよ。続ける理由もないしな」
「ええ、そうですね」
リスティアは俺の言葉に即答すると、すーっと息を吸い込む。
「私もこの国にいる理由もなくなりました。ラース王。ジークをクビにするなら、私もこの国を去ることにします」
そう大声で言っていた。
俺はその言葉を聞いて、驚きつつも、何とも言えない有難みを感じていた。
「な! それはいくらリスティア殿でもならぬぞ! この国の伝統であるぞ!?」
王が慌てて、王座から立ち上がりリスティアに近づきながらそう言っている。
「いいえ。私の決意は変わりません。いいわよね、ジーク?」
だが、リスティアはどうでもいいようで、そう言うとにこりと微笑んでいた。
「ああ、もちろんだ。むしろ、頼むよ」
俺はそう言い、リスティアに手を差し出した。
俺は宮廷の広い通りを早歩きで歩いていてた。
数時間後にはリース王国のとある貴族と交渉事をしなければいけないからだ。
普通は、交渉事なんて、聖女の護衛である俺の仕事ではないが、相手方の貴族に気に入られたからから俺が行くことになった。
と言う理由もあるが、この国の宰相は何もしない。だから俺が代わりにやっている。そんな状況だ。
「おい、ジーク!!」
曲がり角を曲がって、後は宮廷を出るだけ、そう思っていた時、後方から名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「なんでしょうか、宰相殿」
「うむ。実はな......」
そう言うと宰相である、ラザルは後ろで手を組みながらゆっくりと俺の方に歩いてくる。
『早くしろ、こっちは忙しいんだ』そう言いたいが、相手は宰相だ。
イライラしながら、まるで亀のようにのろのろと近づいてくる宰相を待つ。
「お前に話がある」
「それはそうでしょう。なんですか、話って」
早口で言ってしまった俺の言葉を聞くと、ラザルはにやりと笑っていた。
「大事な大事な聖女様の護衛の任のことだ」
「はぁ」
俺は内心『またか』と思っていた。宰相は時折、無理難題を言ってくる。
忙しいというのに、雑用や、宮廷の掃除とか、護衛の任とまったく関係ない仕事を押し付けてくる。
だから今回も、そうだと思っていた。
だがラザルの口から出た言葉は、まるで違っていた。
「お前を聖女様の護衛の任から解く」
ラザルは俺の肩に手を置きながら、ニヤニヤしていた。
「なぜ急に!?」
「なぜ急にだと!? ジーク、お前本当に分かっていないのか!? お前、聖女様の護衛だというのに、なぜお前はここにいる!」
「それは聖女様なら、お部屋でお休みになっています」
聖女であるリスティアは大勢の護衛がいるこの宮廷内にいるから安心だ。
それに、聖女を襲うような奴は存在しないといってもいい。
だから、実質聖女の護衛なんて職はないにも等しかった。実際、前任もその前任もそうだったようだ。
それを知っていて、ラザルは俺にそう言っていた。
もちろん、護衛の任を疎かにしてもいない。俺は聖女のどんなに小さな声でも駆け付けられる。
「言い訳はいい!! ジーク、お前はこんな昼間っから仕事をさぼってどこに行こうとしている」
「リース国の貴族と交渉事を行いに行こうと――」
「交渉だと!?」
ラザルは腹を抱えて笑っていた。
「どこの世界に平民上がりの護衛役と交渉する貴族がいるのだ。それに、私は宰相だぞ? この国のことは一番よく分かっている。お前が何かこの国のためになることをしていたらとっくの昔に気づいているわ!!」
脂で湿った髭を手で整えながらそう言うラザルに俺はため息が出ていた。
ラザルが宰相として仕事をしていないことを知っているからだ。
こいつは自分が仕事をしていないのに、この国が成り立っていることを疑問にも思っていない。
「貴様! 私の前で溜息だと!? 平民上がりのくせに!」
「はぁ」
「もういい! ついてこい! 王もお前の仕事っぷりにお怒りだ」
ラザルは両手をぶんぶんと振り回しながらそう言っていた。
俺は呆れて何も言えず、ラザルの後をただ無言でついていった。
「ジーク。お前は聖女の任を放棄しただけでなく、勝手に内政も行っていたようだな」
王であるラースは俺と聖女であるリスティアを呼び寄せるとそう言っていた。
「ええ、そうです。あなた達が、酒池肉林を楽しんでいる間にね」
「なにぃ!? 貴様、な、なにを言っているのかわかっているのか、か!」
図星のラースは威厳を精一杯保ちつつ、そう言っていた。
「ラース王! どうかお許しください。ジーク様は私の護衛を放棄していたわけではありません。私がそうしてほしかったのです。それに、内政に関してもそうです」
リスティアは俺を庇おうとそう言っていたが、もちろんそれは嘘だ。
俺が勝手に判断して行動したことだった。
「しかしな。リスティア殿。ならぬことはならぬのだ!」
「でしたら、前職の方々は何故許されていたのでしょうか?」
「そ、それは.....」
そう言ってラースはラザルの顔を見た。それに気づいたラザルは、慌てて口を開いた。
「平民だからです! 聖女様も分かるでしょう。平民がこの職に就くだけでもすごいことなのです。それなのに、職務を放棄するなんてもっての外!」
ラザルはさも当然と言いたそうな顔でそう言っていた。
リスティアはその言葉を聞き、怒りでプルプルと震えていた。
「ティア。もういいんだ。ありがとう。俺はこの職を辞めるよ。続ける理由もないしな」
「ええ、そうですね」
リスティアは俺の言葉に即答すると、すーっと息を吸い込む。
「私もこの国にいる理由もなくなりました。ラース王。ジークをクビにするなら、私もこの国を去ることにします」
そう大声で言っていた。
俺はその言葉を聞いて、驚きつつも、何とも言えない有難みを感じていた。
「な! それはいくらリスティア殿でもならぬぞ! この国の伝統であるぞ!?」
王が慌てて、王座から立ち上がりリスティアに近づきながらそう言っている。
「いいえ。私の決意は変わりません。いいわよね、ジーク?」
だが、リスティアはどうでもいいようで、そう言うとにこりと微笑んでいた。
「ああ、もちろんだ。むしろ、頼むよ」
俺はそう言い、リスティアに手を差し出した。
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