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第7話 巨大なタイタンを召喚する

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酒場でガイアを捕えた後の深夜、すっかり綺麗になったラッティアの村のそばにある川沿いを歩いている。
 川の流れる音だけが聞こえるそんな深夜で、俺はぼんやりとラッティアの村の魔法掲示板を見ていた。

「いるんだろ? ナナ」

 そう言うと、茂みから高速で俺の横にナナは現れる。
 ナナは山岳国家グレア時代の俺の弟子で、俺がグレアから追放されても師弟関係を解消せずに付いてきてくれた忠義に厚い。
 そんなナナはグレア時代からアサシンとして育てられていて、だから俺はナナに諜報活動をお願いしている。

「ジーク師」

 現れたショートカットのナナは短くそう言う。
 そんなナナは無表情で俺の事を見つめていた。

「ナナ、情報は何かあったのか?」
「はい、師匠。リース国がジーク様がいないと貿易しないと言っているようです」
「まぁ、そうだろうな」

 小国リースは農業国で、各地に農産物等の貿易で潤っている国だ。そんな貿易することに依存している国家なのだが、クルザとは常に仲が悪かった。理由は単純、太古からこの2カ国は戦争ばかりしてきたからだ。

 だからクルザとの仲を深めることには苦労した。
 魔法で農作物が育ちやすい土にしたり、敵対している南方の蛮族と交渉してあげたり。
 とにかく色々とやったおかげで、クルザの食糧事情は改善した。

「だが、そんなことを伝えに来たわけじゃないんだろ?」

 俺がそう言うとナナは無表情で頷く。

「はい、師匠。ナナが言いたかったことは、宰相が暗殺者を雇ったようです」
「なるほど。それはまずいな。だが、ナナ。それも想定済みだ」

 俺はそう言うと、杖を取り出し、地面に魔法陣を描く。

「師よ、なにをしているのですか?」
「この村の心配をしてきてくれたんだよな、ナナは。つまり、ラッティアの村人が、汚い金で雇われた暗殺者に脅されないように、殺されないように」
「そう言うことにしておきます」

 ナナは微かに顔を赤らめていた。
 相変わらずナナは素直じゃないな、全く。優しいのだが。

「まぁ、だから魔法陣を描いているんだ。この村に危害を加えた時発動する魔法陣をな」
「全く。魔法と言うのは意外と便利ですね、師よ」

 俺は悔しそうに言うナナを横目に魔法陣を完成させていく。
 丸を書いて、中には複雑な紋章などを構築し、後はイメージをする。
 魔法においてイメージは大事だ。俺は巨人をイメージする。

「よし! 完成だ! 15分も書くのにかかってしまったな」
「師よ。そんな意味の分からない絵のようなもので本当に発動するのですか?」

 ナナは忌々しそうに魔法陣を見つめていた。
 ナナは魔法というものが嫌いだ。でもそれは剣術等の武を極めることに生涯をささげるグレア出身の者なら当たり前の感覚だった。むしろ俺が異端という事になる。

 そんなナナの言葉に俺は心の中で確かにと、頷いてしまった。
 成功するに決まっているが、失敗は許されない。

「その通りだな。失敗は許されないわけだし、一度試してみるか」

 俺は首を傾げているナナに攻撃するように言うと、ナナは持っている短剣で素早く斬撃を放っていた。
 ハデン流を会得した者にしか扱えないその青白い斬撃は木々を倒していく。

 すると目の前にある魔法陣は赤く光だし、斬撃を消し去ると同時に周りの土が集まり、たちまちにして巨大なタイタンが俺たちの前で仁王立ちしていた。

「よし! 成功だぞ!」

 俺は空にも届きそうなほど大きいタイタンを見てそう言うと、リスティアや村人たちは何ごとかとこちらに近寄っていた。

「では師よ。ナナは引き続き宰相たちを見張ります」

 ナナはそう言うと、再び姿を消す。

「ジーク様、これはいったいどういう事で?」

 村人を代表するように村長はそう言うと、リスティアは何故か誇らし気に微笑んでいる。

「実は......」

 俺は暗殺者が近づいていることや、この魔法陣があればこの村が安泰であることを伝えると、村長はここでは見ることができないはずの鉱石を取り出していた。それはグレアでしか見つからない貴重な鉱石で、天剣の元になるものだった。

「なぜアーダル鉱石がここに!?」
「これは我が村に代々受け継がれている物でございます。その反応から察するに、ジーク様に必要なものなのでしょう。さぁ、受け取ってください」
「いいのか?」
「ええ、もちろん。ジーク様がいなかったら、この村は滅んでいたでしょう。本当にありがとうございます。ジーク様」

 俺は村長から差し出されたアーダル鉱石を受け取った。

 こうしてこの村には危害が加わることができないほどの、強力な魔法陣が展開され、俺はグレア時代に取り上げられた天剣を作る材料を得た。

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