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第37話 帝国は宣戦布告をする
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ラザルが連行された後の王座の間は静かだった。
お互い、どんなことを言い出すか様子見しているようだ。
だが、話が進まないと考えたジークは沈黙を破る。
「宣戦布告と言ったか」
ジークはその言葉の意味を確かめるようにゆっくりと話す。
「その通りです」
アランもにやけた面でそういうが、内心はドキドキしている。
(一歩間違えば、私もラザルのようになる。気を引き締めて交渉しなければ)
アランはジークが怪訝そうな表情をしているのを見て、喉を鳴らすと矢継ぎ早に話す。
「ジーク様が来ないのならば、我々は成す術がありません。ですから最終手段ですよ、全ての国を制圧してしまえばいいわけで。ですが、そのためには犠牲になってもらわなければいけない」
「自国民をか?」
「その通り。魔法騎士部隊だって無限に湧いてくるわけではありませんからね。手加減している暇もないのですよ」
アランはジークが睨みつけているのを見てホッとする。
(どうやら食いついてくれているようだ。これで殺される可能性も少なくなった。それにしても、なぜ平民は民衆の命なんかに興味があるのか。わからんね)
だが、アランの読みは間違っていた。
ジークは持ち前の速さでアランの首に天剣を当てている。
あまりの速さに先ほどと同様にアランは気づかない。
数秒経ってようやくアランは目の前にジークがいないことに気づくと、自らの首に冷たいなにかが当たっていることに気づく。
「い、いいのですかな? 私を殺せばクルザの民衆の命はないし、帝国もクルザ領へと変わりますぞ。我々も大勢が犠牲になる戦いはなるべく避けたいのですよ」
死への道を着々と歩んでいるアランは、その冷たい感触に息が上がりながらもそう答える。
それには二つ理由があった。
1つ目は、アランが言っていることが間違っていないからだ。クルザ魔法騎士部隊が本気を出せば帝国、リース、蛮族との戦争も行えるからだ。
2つ目は、戦争が起こるにせよ起こらないにせよ、死を恐れずに交渉に行ったウォード家の地位は今とは比べ物にならないほど上がるということ。権力・金・領地。そのすべてはクルザ貴族にとってすべて。アランは自らの命を犠牲にしてでも、それらを得ようとしていた。
もちろんアランだって死にたくてここにきているわけではない。
理由があっても死ぬのは怖いようで、アランの目は今にも飛びでそうだった。
そんなアランは自らの心臓の鼓動を聞きながら、背後にいるジークの答えを待っている。
もうアランにはその現実しか見えていない。誰も見えてなどいなかった。
「むしろ好都合だ」
「今なんと?」
全身凍えるように血の気が引けたアランの活舌は悪かった。
「お前がクルザに戻らないことが好都合といったんだ」
怒りで今すぐアランを切りたい衝動に駆られながらも、ジークは冷静だ。
冷静に冷たく言い放つジークに、アランは倒れそうになる。
だが、堪えて、
「はて、クルザの民衆が殺されることが好都合と言いたいのでしょうか?」
震える手が自然と杖を掴もうとするのは本能だろう。アランは杖をつかみ取ろうとしているが、ジークによって杖は二つに折られる。
「そんな馬鹿なことを俺が考えるとでも思ったか。クルザには信用できる弟子がいる。だからお前たちが考えているようなことは絶対に起こらない」
「で、弟子ですと!! そんな、根拠のない。いくらジーク様だといえ笑えない冗談ですぞ」
「冗談だと思うか」
ジークは脅すように天剣でアランの首に少し傷をつける。
アランはそれを見て、ジークを説得することはもう無理だと考えた。
(こいつ! 弟子を信じるだと!? たかが弟子に何ができるってんだ。ジークとかいう男はやはり理解ができない)
アランはターゲットをリリーザに変える。
アランはジークを刺激しないようにリリーザを見ると、
「いくら愚民どもの皇帝だからと言っても皇帝だ。事の重大さを理解しているだろ! 言っていることがわかるよな」
横柄な態度にリリーザは怒りもしない。ただ冷静に答えていた。
「我が祖先たちがなぜ、クルザと闘ってきたか理解できた気がするぞ」
「さすがは皇帝だ。わかってるじゃないか。クルザに従っていれば安泰だぞ! さあ、ジークを解雇しろ!! さもなくば、皆殺しだ!! わかってるな!!」
叫ぶアランに、リリーザは首を振る。
「長きにわたる平和な時代でも、クルザ貴族は己の欲求を追求し続けた。クルザ中心思想。お前たちは全人類の敵なのだ」
リリーザはそういうとたっぷりと息を吸い込む。
「クルザ王国に宣戦布告する! 悪しき王政はこの時を持って滅びる運命なのだ!」
かわいらしい表情とは真逆の態度をとったリリーザに、アランは覚悟をしてきたというのに必死に口を開いている。
「気がする? 貴様! 一国の長だというのに、気がするなどという根拠がない言葉で国を亡ぼす気か!」
アランもクルザが負けるとは思っていないようで、この場はまさにカオス。
「時には大胆な行動をすることも必要ですよ、外交官様。それに、貴方も根拠なしにこの場に来たのでは。汗で服がベトベトなのはなぜでしょうか? 剣を当てられるとは思っていなかったと?」
ヨセフは煽るようにそういうと、アランの火照っていた体は冷や汗によって急激に冷えていた。
「ど、どういう意味かな?」
「あなたが死ぬということだと思いますわ」
リスティアがそういうと、アランは激しく動揺する。
「ふ、ふざけるのも大概にしてもらいたい。冷静になれ。まず一つ、帝国はクルザには勝てない。二つ、人類の敵なのは常に戦争していた帝国じゃないか。こんなことをして何になる! 冷静になったほうがいいぞ、愚民の長よ。気の迷いで国を亡ぼすつもりか?」
アランがそういうとリスティアはため息をつく。
「わかっていないわね。私たちはジークを信じている。そして、人類の敵なのは明らかに王国貴族ということよ」
「はっ! 我々が悪? 我々は世界に安定をもたらしているではないか! 我々の存在こそが正義ではないか」
アランはリスティアの言葉を鼻で笑っている。
(どいつもこいつも馬鹿ばかりで、うんざりする。我々がいるから安定したクルザが存在するというのに)
根拠もなく内心で呟くアランの言葉を否定するかのようにリスティアは再び口を開く。
「クルザの食糧不足と治安の悪化」
「職なし、国が襲われているという安全の問題も」
ヨセフもリスティアに続く。
「そして動乱の中、民衆は気づいてしまったぞ。自由にやっている貴族連中のことを。それは妬みと不信感」
リリーザがそういうと、ジークが最後に口を開く。
「クルザ民衆が抱いている気持ちだ。それらは金・名誉・領地しか考えていないクルザ中心思想の貴族が引き起こしたこと。俺たちがそれらを断ち切る。王やお前ら高級貴族が謝っても、今更遅い。諦めて自分のしたことを牢獄で反省するんだな」
ジークはそういうと、帝国兵を呼ぶ。
駆け付けた帝国兵はまだ何やら喚いているアランを拘束すると、立ち上がらせている。
「待て! 話は終わってないぞ!」
「話は終わったぞ。我々とクルザ王国は戦争を行う。必ず、クルザ王朝から民衆を助け出す」
「ふざけるなぁぁっ!! 私が中心でお前らは愚民! 蛮族と何ら変わらない! 神聖な私を放せ!」
そういうアランを帝国兵たちはただ無心に連行する。
「おい! 聞いているのか! 聞いているのかあああ! 私は中心だ!! 中心だぞ!」
ジークたちは誰一人として反応しなかった。
アランは喚き、逃げようともがきながら連行されるが、やがて扉の前まで来ると、
「いいか! 私は中心だ。いずれクリスタルの罰がくだるだろう」
何かにとりつかれたように笑いながら、そういうアランは最後まで暴れていたが、やがて王座の間の扉は閉じた。
そんなアランの様子をジークたちは決意に満ちた瞳でじっと見ていた。
お互い、どんなことを言い出すか様子見しているようだ。
だが、話が進まないと考えたジークは沈黙を破る。
「宣戦布告と言ったか」
ジークはその言葉の意味を確かめるようにゆっくりと話す。
「その通りです」
アランもにやけた面でそういうが、内心はドキドキしている。
(一歩間違えば、私もラザルのようになる。気を引き締めて交渉しなければ)
アランはジークが怪訝そうな表情をしているのを見て、喉を鳴らすと矢継ぎ早に話す。
「ジーク様が来ないのならば、我々は成す術がありません。ですから最終手段ですよ、全ての国を制圧してしまえばいいわけで。ですが、そのためには犠牲になってもらわなければいけない」
「自国民をか?」
「その通り。魔法騎士部隊だって無限に湧いてくるわけではありませんからね。手加減している暇もないのですよ」
アランはジークが睨みつけているのを見てホッとする。
(どうやら食いついてくれているようだ。これで殺される可能性も少なくなった。それにしても、なぜ平民は民衆の命なんかに興味があるのか。わからんね)
だが、アランの読みは間違っていた。
ジークは持ち前の速さでアランの首に天剣を当てている。
あまりの速さに先ほどと同様にアランは気づかない。
数秒経ってようやくアランは目の前にジークがいないことに気づくと、自らの首に冷たいなにかが当たっていることに気づく。
「い、いいのですかな? 私を殺せばクルザの民衆の命はないし、帝国もクルザ領へと変わりますぞ。我々も大勢が犠牲になる戦いはなるべく避けたいのですよ」
死への道を着々と歩んでいるアランは、その冷たい感触に息が上がりながらもそう答える。
それには二つ理由があった。
1つ目は、アランが言っていることが間違っていないからだ。クルザ魔法騎士部隊が本気を出せば帝国、リース、蛮族との戦争も行えるからだ。
2つ目は、戦争が起こるにせよ起こらないにせよ、死を恐れずに交渉に行ったウォード家の地位は今とは比べ物にならないほど上がるということ。権力・金・領地。そのすべてはクルザ貴族にとってすべて。アランは自らの命を犠牲にしてでも、それらを得ようとしていた。
もちろんアランだって死にたくてここにきているわけではない。
理由があっても死ぬのは怖いようで、アランの目は今にも飛びでそうだった。
そんなアランは自らの心臓の鼓動を聞きながら、背後にいるジークの答えを待っている。
もうアランにはその現実しか見えていない。誰も見えてなどいなかった。
「むしろ好都合だ」
「今なんと?」
全身凍えるように血の気が引けたアランの活舌は悪かった。
「お前がクルザに戻らないことが好都合といったんだ」
怒りで今すぐアランを切りたい衝動に駆られながらも、ジークは冷静だ。
冷静に冷たく言い放つジークに、アランは倒れそうになる。
だが、堪えて、
「はて、クルザの民衆が殺されることが好都合と言いたいのでしょうか?」
震える手が自然と杖を掴もうとするのは本能だろう。アランは杖をつかみ取ろうとしているが、ジークによって杖は二つに折られる。
「そんな馬鹿なことを俺が考えるとでも思ったか。クルザには信用できる弟子がいる。だからお前たちが考えているようなことは絶対に起こらない」
「で、弟子ですと!! そんな、根拠のない。いくらジーク様だといえ笑えない冗談ですぞ」
「冗談だと思うか」
ジークは脅すように天剣でアランの首に少し傷をつける。
アランはそれを見て、ジークを説得することはもう無理だと考えた。
(こいつ! 弟子を信じるだと!? たかが弟子に何ができるってんだ。ジークとかいう男はやはり理解ができない)
アランはターゲットをリリーザに変える。
アランはジークを刺激しないようにリリーザを見ると、
「いくら愚民どもの皇帝だからと言っても皇帝だ。事の重大さを理解しているだろ! 言っていることがわかるよな」
横柄な態度にリリーザは怒りもしない。ただ冷静に答えていた。
「我が祖先たちがなぜ、クルザと闘ってきたか理解できた気がするぞ」
「さすがは皇帝だ。わかってるじゃないか。クルザに従っていれば安泰だぞ! さあ、ジークを解雇しろ!! さもなくば、皆殺しだ!! わかってるな!!」
叫ぶアランに、リリーザは首を振る。
「長きにわたる平和な時代でも、クルザ貴族は己の欲求を追求し続けた。クルザ中心思想。お前たちは全人類の敵なのだ」
リリーザはそういうとたっぷりと息を吸い込む。
「クルザ王国に宣戦布告する! 悪しき王政はこの時を持って滅びる運命なのだ!」
かわいらしい表情とは真逆の態度をとったリリーザに、アランは覚悟をしてきたというのに必死に口を開いている。
「気がする? 貴様! 一国の長だというのに、気がするなどという根拠がない言葉で国を亡ぼす気か!」
アランもクルザが負けるとは思っていないようで、この場はまさにカオス。
「時には大胆な行動をすることも必要ですよ、外交官様。それに、貴方も根拠なしにこの場に来たのでは。汗で服がベトベトなのはなぜでしょうか? 剣を当てられるとは思っていなかったと?」
ヨセフは煽るようにそういうと、アランの火照っていた体は冷や汗によって急激に冷えていた。
「ど、どういう意味かな?」
「あなたが死ぬということだと思いますわ」
リスティアがそういうと、アランは激しく動揺する。
「ふ、ふざけるのも大概にしてもらいたい。冷静になれ。まず一つ、帝国はクルザには勝てない。二つ、人類の敵なのは常に戦争していた帝国じゃないか。こんなことをして何になる! 冷静になったほうがいいぞ、愚民の長よ。気の迷いで国を亡ぼすつもりか?」
アランがそういうとリスティアはため息をつく。
「わかっていないわね。私たちはジークを信じている。そして、人類の敵なのは明らかに王国貴族ということよ」
「はっ! 我々が悪? 我々は世界に安定をもたらしているではないか! 我々の存在こそが正義ではないか」
アランはリスティアの言葉を鼻で笑っている。
(どいつもこいつも馬鹿ばかりで、うんざりする。我々がいるから安定したクルザが存在するというのに)
根拠もなく内心で呟くアランの言葉を否定するかのようにリスティアは再び口を開く。
「クルザの食糧不足と治安の悪化」
「職なし、国が襲われているという安全の問題も」
ヨセフもリスティアに続く。
「そして動乱の中、民衆は気づいてしまったぞ。自由にやっている貴族連中のことを。それは妬みと不信感」
リリーザがそういうと、ジークが最後に口を開く。
「クルザ民衆が抱いている気持ちだ。それらは金・名誉・領地しか考えていないクルザ中心思想の貴族が引き起こしたこと。俺たちがそれらを断ち切る。王やお前ら高級貴族が謝っても、今更遅い。諦めて自分のしたことを牢獄で反省するんだな」
ジークはそういうと、帝国兵を呼ぶ。
駆け付けた帝国兵はまだ何やら喚いているアランを拘束すると、立ち上がらせている。
「待て! 話は終わってないぞ!」
「話は終わったぞ。我々とクルザ王国は戦争を行う。必ず、クルザ王朝から民衆を助け出す」
「ふざけるなぁぁっ!! 私が中心でお前らは愚民! 蛮族と何ら変わらない! 神聖な私を放せ!」
そういうアランを帝国兵たちはただ無心に連行する。
「おい! 聞いているのか! 聞いているのかあああ! 私は中心だ!! 中心だぞ!」
ジークたちは誰一人として反応しなかった。
アランは喚き、逃げようともがきながら連行されるが、やがて扉の前まで来ると、
「いいか! 私は中心だ。いずれクリスタルの罰がくだるだろう」
何かにとりつかれたように笑いながら、そういうアランは最後まで暴れていたが、やがて王座の間の扉は閉じた。
そんなアランの様子をジークたちは決意に満ちた瞳でじっと見ていた。
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