【完結保証】宮廷仕えの聖女の護衛は、王や宰相から追放を言い渡される~聖女の護衛の任は表向きの話。平和のために俺は帝国を黄金時代へと導く~

カレキ

文字の大きさ
39 / 52

第39話 クルザ弱体化計画は始まる

しおりを挟む
俺たちは北部に魔法陣を展開するときのように徹夜で行動していた。
 モココに乗り偉大壁グレートウォールまで移動したり、門が遠い壁を浮遊魔法で飛び越え、ようやくクルザ領内についたと思う暇なし、そこから近くの町へと睡眠なしで移動した。

 それもすべては敵の親玉がアラン・ウォードが捕らえられたと気づく速さが未知数のため。
 アランが待っていたのはたったの数日だろうが、親玉が早く気づく可能性も考慮しなければならない。

 油断は禁物というやつだ。
 弱体化する前にクルザ魔法騎士部隊との戦闘は絶対に避けたい。

 というわけで、俺たちはクルザで一番北にあるマーネ地方にきている。
 マーネ地方は隣接している田舎地方のリースと違い、一番重要な地方であるからだ。

 マーネは帝国との国境線全てに隣接していて、その地政学上、帝国魔法騎士部隊がたくさん中央から派遣されている。

 だから、この地を最優先するべきなのだが、やはりというかなんというか俺たちが来たライアの町は酷い有様だった。

 食料がないから住人は自足自給の生活をしなければならず、魔法照明は切れ、人はあまりいないし、閉店しただろう店がたくさんある。

 もうここは色鮮やかなはずのクルザの町という雰囲気はない。
 帝国に行く前に立ち寄ったラッティアの村より規模は大きいというのに、ライアの町の佇まいは悲しいほどだ。

 だというのに、豪華な刺しゅう入りの服を着て、杖を携え、昼間からビールを飲める連中もいる。

 魔法騎士部隊だ。

 魔法騎士部隊は王都学院を卒業した生徒のみが成ることが許されている貴族職だが、その実はほとんどが貴族の親を持つ子供だ。

 つまり、大昔から貴族連中の苗字は変わっていない。

 これもヨセフが言っていたクルザ中心思想というやつなんだろう。

 俺は変装用のフード付きマントからティアの顔を覗き込む。

 同じく黒いフードを被っているティアは俺の視線に気づくと、

「ど、う、す、る、の?」

 なぜか声を出さずに、口パクをしている。

 そんなティアが面白すぎて吹き出しそうになると、ティアは慌てて俺の口を塞いでいた。

「なにも口パクじゃなくても」

 俺はティアの手を離すとそういう。

「だって! 私、初めてなのよ?」

 金髪がチラチラフードから見えるティアはむっとしている。
 なんだろう、ティアがかわいく思えてきた。
 そんなことはどうでもいい。

「ごめん、ティア。それと......」

 俺は冷静を装いながら続けて話す。

「この街を見る限り、マーネの住人は反乱さえ起こせないようだ。だから、予定していた作戦でいこう」

 俺たちはクルザに来るまでの間作戦を考えていた。

 もし仮にマーネで反乱がおこっていたのなら、マーネ弱体化計画は簡単だ。
 反乱軍を活用して、弱体化させることは容易だ。

 だが、反乱さえ起こっていない今の状況は厳しい。

 そこでティアと話していた作戦が役に立つ。

 クリスタル教会を利用するという手だ。
 教会なら聖女であるティアの言うことは絶対に等しいから協力してくれるはずだ。

 協力してくれそうな住人を見つけてもいいのだが、なるべくリスクになることは避けたいからな。

 そうして、この田舎町であるライアから徐々に地方都市マーネリアに迫るという作戦だ。

「わかった! でも、中央から派遣されている貴族たちから爵位をはく奪することはできないんじゃない?」

 テーブルに膝をつき、手で口元を隠しながら小声でそう囁くティア。

 そんな必死になっているティアが可笑しくて笑いがこみあげてくるが、必死に抑えつつ、俺は頷く。

 王都や王と周辺のエリート地域から何らかの理由により派遣された貴族は、名誉は傷つけられても、高級貴族出身の奴らの爵位をはく奪することはほぼ不可能だ。

 地方であるマーネで起こったことなんて些細なことであるし、金や領地すらも奪えないからな。

 だから、俺もその点だけは困っていた。
 左遷させられた、もしくは教育のためマーネに来た高級貴族共の爵位を剥奪させることは難しい。

 となると、最終手段として残るのは戦闘による殺害、もしくは拘束。
 だが、拘束して捕虜として扱うには食料が不可欠。

 貴族共は支給された食料があるだろうけど、それはこの街の住人に分け与えたいが......

「どうしたのジーク?」

 ティアの不安そうな声をきいて俺は結論をいつの間にか出していた。

 なぜだろう。

 死なせるのは流石に俺の権利を超えている。住民には悪いが。

「いや、なんでもない。とにかく、クリスタル教会に行こう」

 俺は席を立ち、「ならいいんだけど」そう言っているティアの手を取り踵を返す。


 だが、酒場の高級シートで酒を飲んでいた貴族共の声が聞こえてきて、俺は足を止めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...