47 / 52
第47話 決意
しおりを挟む
貴族を斬り殺した夜。
ライアの町でひと際目立つ建物。まるでここが田舎町じゃないような錯覚をさせる建物。
俺たちはそんな建物の前にいた。
「いいですかー! 今夜、私たちはクリスタル団となりました。ギースを倒した私たちは、その象徴であるお金を奪い、屋敷を燃やすことで、中央への意思表示になるのです!」
アーシャは屋敷の2階、ベランダから俺たちにそう伝えている。
クリスタル団。そのネーミングセンスはアーシャだが、仕向けているのは俺だ。
そんなアーシャは操り人形。
だが、操り人形といっても、初日からここまで完璧に演技してくれるとは思わなかった。
アーシャの表情は語調とは裏腹に真剣だ。きっとアーシャも思うところがあったんだろう。
「プライドが高い貴族達はこれを鎮圧することなどないでしょう! 魔力が少ない、敗れるはずがない民衆に敗れたなんて恥ですから。じゃあ、次に私たちがやることは、マーネの解放です! 隣町や村の方々に手段を伝え助力し、皆を開放するのですー!」
その瞬間、町人たちは思い思いの反応をしている。叫ぶ者、相槌をする者、体を動かす者。本当に様々だ。
だけど、反対するような人はいなかった。
全員が一丸となって立ち向かおうとしている。これも心理の一つだろう。
強大な敵に立ち向かうための人類の知恵という感じだろう。
無敵な魔法部隊へと進化したように、ここにいる町人たちを止められる者などいない。
魔法照明が様々な色に輝く中、彼らの顔を見てそう思う。
リスティアもそう感じているようで、俺に微笑んでいる。
「ジークは一体いつからこうなることを考えていたの?」
意味深な言葉に俺は首を横に振った。
「さて、いつだろうな。わからないな」
本当にわからない。
もしかしたら心の奥底でもうすでに計画は出来上がっていたのかもしれない。そんな感覚はあるけど、客観的に判断すれば俺は追放された時点ではわからなかったはずだ。
本当に自分でもわからなかった。だから首を振る。
「私は、帝国に逃れた時からだと思うな―。そんなジークがちょっと恐ろしいわ」
ティアはクスっと笑う。
それを機に待っていましたと言わんばかりに、アーシャは再び口を開いていた。
「ではー! クリスタル団結成を祝って! クルザ貴族達からのマーネ開放のために、前ギース騎士の屋敷を燃やしてその象徴にしましょうー!」
アーシャは嬉しそうに両手を上げると、ベランダから飛び降りる。
地面に吸い寄せられるように落ちていくアーシャだったが、大丈夫だ。
男たちはアーシャを手で受け止めると、屋敷の外に連れ出す。
「火だ!」
隣にいたこの街の少女は珍しい物を見るような声で言っていた。
俺は屋敷を見ると、メラメラと燃えている。
火は屋敷2個分まで高く昇っていて、まるで俺たちを祝福している様だった。
だが、これではまだ足りない。
俺はティアを見るとティアは頷く。
ティアは杖を取り出し振ると、魔法照明のように青色や黄色なんかの色が火に付着し、さらに高い色鮮やかな火柱が出来上がっていた。
森の木々より高く、遠くに見える山の半分ほどの色鮮やかな火柱。
この世の物とは思えないような火柱に、町人たちはどよめく。
「な、なんだこれは!!」
「火が色づいている??」
「クリスタルだ! クリスタルを通せば色は変わる!」
誰かが最後に言い放った言葉に、町人たちはさらに力強く声を上げていた。
アーシャが宣言した時よりもずっと大きな歓声は、その炎を遠くに広げる様だ。
それは表現だが、事実、山の半分ほどの大きさの色鮮やかな火柱。
それを見ることができる町は沢山あるだろう。
興味が沸いた人がライアを訪れ、話を聞き、さらに話は拡散していく。
そうやってマーネの町はマーネ貴族から解放され、そうすればナナはこれを遣っているのが俺たちだと、きっと気づいてくれる。
ナナがどこにいるのかわからない。願わくば、反乱がおこりそうにない裕福な西じゃなくて、南東にいればいいのだが。
そうすれば、意図を察したナナは必ず同じことをしてくれるはずだ。
頼むぞ、ナナ。
俺はそう心の中で呟くと、隣に来ていたアーシャの肩を揺する。
「次、俺たちが現れる頃にはお前は立派なクリスタル団の長だ。頼んだ」
「え? ちょっ、もういくんですか?」
「クリスタル団が動く前にライアの町のような解放された町をいくつか作らないと、ライアの町人たちだけでは無理だからな。時間がない」
俺がそういうと、アーシャは不安そうな表情で、
「でも! 私、まだ全然話を聞いていないですよ! どうすれば......」
「心配ないよ。アーシャちゃんならきっと団長になれるし、私たちも魔法手紙を送るから!」
ティアはアーシャを抱きしめた。
アーシャはそれに戸惑いながらも、抱きしめ返す。
「リスティア様......」
「お願いできる?」
子供をあやすように言うティアはまるで女神だった。いや、聖女なんだからあながち間違いではないんだが。
「わかってます! でも、不安なだけで」
アーシャはティアの腕の中から抜け出すと、ガッツポーズをしている。
「でも、やらなきゃいけないんですよね」
俺たちはそれに頷いた。
「頼んだぞ、アーシャ」
「了解しました! えと......」
「ジークでいい」
「ジーク閣下!」
俺はアーシャの発言に突っ込まずに立ち去った。
笑える程度の別れがちょうどいい。
ライアの町でひと際目立つ建物。まるでここが田舎町じゃないような錯覚をさせる建物。
俺たちはそんな建物の前にいた。
「いいですかー! 今夜、私たちはクリスタル団となりました。ギースを倒した私たちは、その象徴であるお金を奪い、屋敷を燃やすことで、中央への意思表示になるのです!」
アーシャは屋敷の2階、ベランダから俺たちにそう伝えている。
クリスタル団。そのネーミングセンスはアーシャだが、仕向けているのは俺だ。
そんなアーシャは操り人形。
だが、操り人形といっても、初日からここまで完璧に演技してくれるとは思わなかった。
アーシャの表情は語調とは裏腹に真剣だ。きっとアーシャも思うところがあったんだろう。
「プライドが高い貴族達はこれを鎮圧することなどないでしょう! 魔力が少ない、敗れるはずがない民衆に敗れたなんて恥ですから。じゃあ、次に私たちがやることは、マーネの解放です! 隣町や村の方々に手段を伝え助力し、皆を開放するのですー!」
その瞬間、町人たちは思い思いの反応をしている。叫ぶ者、相槌をする者、体を動かす者。本当に様々だ。
だけど、反対するような人はいなかった。
全員が一丸となって立ち向かおうとしている。これも心理の一つだろう。
強大な敵に立ち向かうための人類の知恵という感じだろう。
無敵な魔法部隊へと進化したように、ここにいる町人たちを止められる者などいない。
魔法照明が様々な色に輝く中、彼らの顔を見てそう思う。
リスティアもそう感じているようで、俺に微笑んでいる。
「ジークは一体いつからこうなることを考えていたの?」
意味深な言葉に俺は首を横に振った。
「さて、いつだろうな。わからないな」
本当にわからない。
もしかしたら心の奥底でもうすでに計画は出来上がっていたのかもしれない。そんな感覚はあるけど、客観的に判断すれば俺は追放された時点ではわからなかったはずだ。
本当に自分でもわからなかった。だから首を振る。
「私は、帝国に逃れた時からだと思うな―。そんなジークがちょっと恐ろしいわ」
ティアはクスっと笑う。
それを機に待っていましたと言わんばかりに、アーシャは再び口を開いていた。
「ではー! クリスタル団結成を祝って! クルザ貴族達からのマーネ開放のために、前ギース騎士の屋敷を燃やしてその象徴にしましょうー!」
アーシャは嬉しそうに両手を上げると、ベランダから飛び降りる。
地面に吸い寄せられるように落ちていくアーシャだったが、大丈夫だ。
男たちはアーシャを手で受け止めると、屋敷の外に連れ出す。
「火だ!」
隣にいたこの街の少女は珍しい物を見るような声で言っていた。
俺は屋敷を見ると、メラメラと燃えている。
火は屋敷2個分まで高く昇っていて、まるで俺たちを祝福している様だった。
だが、これではまだ足りない。
俺はティアを見るとティアは頷く。
ティアは杖を取り出し振ると、魔法照明のように青色や黄色なんかの色が火に付着し、さらに高い色鮮やかな火柱が出来上がっていた。
森の木々より高く、遠くに見える山の半分ほどの色鮮やかな火柱。
この世の物とは思えないような火柱に、町人たちはどよめく。
「な、なんだこれは!!」
「火が色づいている??」
「クリスタルだ! クリスタルを通せば色は変わる!」
誰かが最後に言い放った言葉に、町人たちはさらに力強く声を上げていた。
アーシャが宣言した時よりもずっと大きな歓声は、その炎を遠くに広げる様だ。
それは表現だが、事実、山の半分ほどの大きさの色鮮やかな火柱。
それを見ることができる町は沢山あるだろう。
興味が沸いた人がライアを訪れ、話を聞き、さらに話は拡散していく。
そうやってマーネの町はマーネ貴族から解放され、そうすればナナはこれを遣っているのが俺たちだと、きっと気づいてくれる。
ナナがどこにいるのかわからない。願わくば、反乱がおこりそうにない裕福な西じゃなくて、南東にいればいいのだが。
そうすれば、意図を察したナナは必ず同じことをしてくれるはずだ。
頼むぞ、ナナ。
俺はそう心の中で呟くと、隣に来ていたアーシャの肩を揺する。
「次、俺たちが現れる頃にはお前は立派なクリスタル団の長だ。頼んだ」
「え? ちょっ、もういくんですか?」
「クリスタル団が動く前にライアの町のような解放された町をいくつか作らないと、ライアの町人たちだけでは無理だからな。時間がない」
俺がそういうと、アーシャは不安そうな表情で、
「でも! 私、まだ全然話を聞いていないですよ! どうすれば......」
「心配ないよ。アーシャちゃんならきっと団長になれるし、私たちも魔法手紙を送るから!」
ティアはアーシャを抱きしめた。
アーシャはそれに戸惑いながらも、抱きしめ返す。
「リスティア様......」
「お願いできる?」
子供をあやすように言うティアはまるで女神だった。いや、聖女なんだからあながち間違いではないんだが。
「わかってます! でも、不安なだけで」
アーシャはティアの腕の中から抜け出すと、ガッツポーズをしている。
「でも、やらなきゃいけないんですよね」
俺たちはそれに頷いた。
「頼んだぞ、アーシャ」
「了解しました! えと......」
「ジークでいい」
「ジーク閣下!」
俺はアーシャの発言に突っ込まずに立ち去った。
笑える程度の別れがちょうどいい。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる