【完結】よくある異世界の、とことん不毛な私の婚約事情。〜無口でクールな美形婚約者候補の頭の中には、どエロい事しか詰まってなかった〜

つゆり 花燈

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私が自称魔女と出会った事情


 ****


 私がその薬をもらった自称魔女と出会ったのは、今から三ヶ月程前の事である。
 この出会いが、この先の私の人生を大きくかえるだなんて、その時の私は知る筈もなかった。


 私はその日、気まぐれに買い物に出かけた先で、鍵尻尾の黒猫を見かけた。
 鍵尻尾の黒猫は、まるで私について来いと言わんばかりに、私を見て小さく一鳴きし、歩き出した。

 黒猫に目の前を横切られると不吉だという話は有名だが、鍵尻尾の猫は尻尾で幸運を引っ掛けてきて、幸せの扉を開くという話もある。

 そんなジンクスを思い出した私は、目の前の黒猫に興味を持った。この先にあるのは幸運か不運か。
 若干の期待を持ち、黒猫の後を追って歩いてみれば、黒猫は表通りからは少しわかりづらい場所にある、路地裏の古びた店の扉を器用に手で開けて、中に入って行った。
 看板には《魔女の店》と書いてある。


 なんの店だかよくわからないが、私は猫に誘われるように、その店の扉を開けて店内へと足を踏み入れた。
 店の中は薄暗くて埃っぽい。棚には乾燥させた薬草やハーブ、様々な小瓶が並び、一見薬屋のように見える。興味津々で中に入った私が店の中を見ていると、店の奥にいた店員が、腰にくるような低くていい声で話しかけてきた。



「魔女の店にようこそ。私は魔女の「うっそ!! オネェだ!!」」

 瞬間、私は叫んだ。

 私の目の前には、寂れた店内を一瞬にして芸術作品に変えてしまう程の、美しい青年がいた。もしスマホがあれば、間違いなく即連写しまくりなレベルの、美青年である。


 美青年は、紫色の瞳の美しすぎる顔に完璧な化粧をし、長いサラサラの黒髪を無造作に左の胸で結んでいる。
 窓から入る陽光に照らされて、キラキラと舞い散る埃すらも幻想的だ。鼻血が出る程、壮絶に神々しい。
 美青年は黒いブラウスに、黒いタイトスカート、その上には白衣を羽織っている。さらには、どこに売っているのか聞きたいような、綺麗なエナメルのピンヒールの靴を履いているではないか。

 服装と顔だけを見れば、女医系アダルト物のAV女優さんみたいだ。ただし、そのまま立てば間違いなく190センチははるかに超える身長と、おっぱいがオスッパイなのは見ない事にする。化粧のせいもあるかもしれないけれど、すごく妖艶な超絶イケメン。
 そう、何をしても顔だけで全てが許される系の、イケメン。
 女装美青年が美青年イケメン過ぎて、腰が抜けそうだ。

 椅子の上で長い足を組んで、さっきの黒猫を膝に乗せている美青年のオネェさんの美しさに、私は興奮しすぎて鼻を押さえる。とりあえず、鼻血は出てない。グッジョブ、私の鼻の血管!!よく耐えた!!

 そんな私の動作に、美青年いや、オネェさんは何だか驚いたように、数度瞬きした。

「はぁ、まつ毛めちゃくちゃ長い!!しかも超絶美人!!こんな美人のオネェさん、前世ですら見た事ないわ!! 拝みたい」

 私のテンションは爆上がりで、つい、思ったままの言葉を口にし、掌を合わせて頭を下げる。今の瞬間で、間違いなく私の寿命は伸びた。
 前世で大阪のおばちゃん達が、「イケメン見ると寿命が伸びる」と言っていたのは、こういう事かと感激する。セロトニンとか、ドーパミンとか、よくは知らないが、幸せホルモンが脳内でどぱっと吹き出した感じである。

 私はこの前世発言のせいで、昔から厨二病(という言葉は、この世界にはないが)認定されているのだ。家族には、『外でその手の発言をするな』と言われているが、目の前の相手は魔女だと言うから、まあいいだろう。この超絶美形なオネェだって、魔女なんて名乗って厨二病を発症している仲間である。


「えっと、……とりあえずありがとうと言うべきかしら?」

謎にテンションが高い私に、若干引き気味で、オネェさんはお礼を言ってくれた。

「こちらこそお礼を言うわ。こんなに美形で、声まで良すぎるなんて。超腰にくる」

「うーん、貴方貴族よね? 王宮の夜会に行けば、私以上に綺麗な人も、それなりにいるでしょう?」

「え?社交界ってこんな美人が、ごろごろしてるの?? 面倒くさくてサボってたけど、ちゃんと出れば良かった。ねぇねぇねぇ、オネェさん。私と飲みに行かない?」

「何故私はいきなり逆ナンされてるのかしら? あなた、魔女の薬を買いに来たんじゃないの?」

「薬?」

「ええ。100%の確率の避妊薬、媚薬、毒薬、惚れ薬、彼の本音が聞ける薬に、それよりもかなり強い自白剤や敵を洗脳する薬。過去の傾国の美女や、王を操り戦争を起こした枢機卿、王子と結婚した灰を被った身分の低い娘達が使ったものは全てそろっているわよ」

「へぇ、ここすごい店だね!!でも、単に気になったから入ってみただけなの、お客じゃなくてごめんなさい。お詫びに奢るから一緒に飲みに行かない?お仕事何時に終わるの?」

「……私は今、魔女としての矜持が、すっごく傷ついたわ」

 何だかよくわからないが、オネェさんはちょっぴり遠い目をした。確かにこういう店にひやかしで入るのは良く無いかもしれない。

「もしかして、こういうお店は見てるだけは失礼だったりとかする? あ、だったら、オネェさんが使ってる基礎化粧品欲しい!!」

「貴方、私の説明聞いてた?」

「聞いてた聞いてた」

「…若返りの薬とかもあるんだけど…」

「え、さすが魔女。すごいね。あれでしょ?20歳とかに見えて、実は80歳でした。みたいな薬よね」

「そうそう」

 私の問いに厨二病仲間のオネェな魔女さんは、満足げに頷いた。そんな顔もまた壮絶に美しい。

「だったら私、オネェさんが使ってる、基礎化粧品に髪の毛のトリートメントも欲しい」

 私が食いつくように言うと、枝毛一つなさそうな艶々黒髪のオネェさんは、またもちょっと呆れた顔をした。

「魔女の惚れ薬や若返りの薬よりも、基礎化粧品が欲しいの? ……美人になる薬もあるわよ?」

「本当?!何?美白クリームとか、保湿力高いのに、化粧崩れしない化粧下地とか?」

「まあ、確かにあるけどね。日焼けしない化粧水とか」

「おお、それ全部欲しい。日焼け止めこの世界に無いし」

 私は思わずオネェさんのセールストークにくいつく。けれど、オネェさんはとても疲れているようで、がっくりと肩を落とし、はーーっと長いため息をついた。

「何々?お疲れ?? だったら仕事終わったら一緒に飲も?!飲みながら話ししようよ」

「もうやだ、私のプライドは木っ端微塵よ。大体、私はオネェさんじゃないわよ」

「あ、竿がついてるってことね。全然気にしないわ。やっぱりこういう世界で、ナニを切っちゃうのは勇気がいるものね」

 私が笑うと、オネェさんはものすっごく嫌そうな顔をした。

「あのねぇ。貴方、貴族令嬢でしょう?こんな下品な貴族令嬢初めて見たわ」

「それよそれ。これが私の本性なの。なのに、貴族令嬢なんて肩凝る事してる訳。だからさ、息抜きがてら一緒に飲みに行こうよ。私奢るし」

「ナンパはお断りよ。私そんなにお安くはないわよ」

 オネェさんは膝の上の黒猫を撫でながら、心底呆れたような顔をしている。けれどそんな顔をしながらも、本性のままの私としっかり話をしてくれるし、とても良い人だ。そして美形。素晴らしい。

「そんなつれない事言わないでよ。見てるだけで目の保養になる美形見つけたのに、飲みに誘うなって言う方が、ひどいでしょ」

「全く意味がわからないわ。私が美形って言う事以外は」

 「オネェさん、結構ナルシスト…」

 「はぁ?」

 「いや、本当に超絶美形だし、事実だからナルシストにはならないわね」


 とかなんとか。私のマシンガントークと、押し問答の如き会話の末、私は見事にオネェさんと一緒に飲む権利をゲットしたのである。





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