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転生者的な、異世界の婚約事情
「でね、私の婚約者候補ってのがさ、本当に何考えてるかわからないの。常に無表情も考えられない」
私はオネェさんを連れて、大衆食堂っぽい飲み屋で、エールをジョッキで飲みながら、レオナルドの話をしていた。
「あなたは表情がありすぎるわ」
オネェさんは、全く遠慮というモノをせず、この店で一番高い酒を頼みやがった。まあ、大衆向けなので、そこまで高くは無いから別に良いのだけれど。
だってワタクシは、こう見えてもお貴族様ですもの。お金もあるのよ。お小遣いだけどね。
「私ね、これでも普段は貴族令嬢らしく、抑えているのよ」
「へーそうなの」
「あ、おつまみ少なくなった。なにか頼もう。オネェさんも、グラスが空になっているじゃないもっと飲んで。やっぱり美形をツマミに飲む酒は最高ね」
「あらそう。よかったわね」
「えっと、どこまで話したっけ?あ、そうそう、婚約者候補が無表情ってとこまでね。私の婚約者候補っていわゆるクール系な無口で、抜群の美形。背が高くて、スタイル良くて、細マッチョで、足長くて、ヒーロー枠的な立ち位置っぽい人で、ドストライクに私好みなの」
「……とりあえず、見た目に惚れちゃったわけなのね」
「そう。一目惚れ。しかも王宮の騎士団の近衞隊。王族の護衛なんてしてるみたい。あれって地位と顔で選ばれるって噂だけど、本当かもって思う。だってそいつ、公爵家の三男、隣国の王位継承権持ち」
「それで何が不満なの?」
「相手が何を考えているのかわからないのも不満だけど、何よりも、この中途半端な状態!! 婚約者候補の立場がいつまで続くかもわかんない上に、候補は私だけじゃないらしいの」
「ああ、そういう事ね。公爵家の三男の近衞…って事は、オルシーニ家ね。三男は王女の婚約者候補の一人よ」
魔女の言葉に、私は一瞬目を見開き息をのんだ。他にも婚約者候補がいるのは気づいていた。
だが、その候補が王女だったというのは初耳だ。
「……マジかぁ……。だからずっと私は候補のままだったのか。私、王女のスペアだったのね」
私は思わず空のグラスが並ぶテーブルに、突っ伏した。思ったより心のダメージが大きい。心がズキズキと痛む。喉が締め付けられたようで息苦しい。なんだか泣きそうだ。他の候補の事を知ってしまうと、きっとキツイんだろうなとは思っていたけれど、予想より遥かにダメージが大きかった。
「候補は他にもいるの?」
「何人いるかは知らない。でも、他に良い縁談があれば、無条件に辞退できるとは聞いてる」
「まあ、王女が貴方の婚約者候補を選べば、必然的に貴方は脱落だものね。それなのにお相手の女性を縛ってしまうのはまずいものねぇ」
「親切なのか失礼なのか、高位貴族の考えはよくわからない。初めて他にも婚約者候補がいると聞いた時にはね、その男が沢山の女性を侍らせてリアルバチェラーする気かと思った。でもそんな感じなくて、なんでだろうって思ってたんだけど、そうかー、王女様のスペアかぁ…」
「貴方、どこまで箱入りなの。それすごく有名な話よ。だいたい、その男の見かけに惚れただけなら、傷が浅いうちにその婚約者候補から辞退すれば?その方がいっそ諦めもつくわよ」
オネェさんは頬杖をつき、優雅に氷の入ったグラスを揺らしながら聞いてくる。貴族であれば、行儀が悪いと言われるような姿も、絵になる程に麗しい。羨ましい限りである。
「そうしたいけど、うちのクソ親父が舞い上がって、『お前なら絶対イケる!!』とか、自信満々で話通じないの。だから我が家から断るなんて選択肢は無いわね」
「それ、最後まで粘って捨てられるって言う、婚活の負け組コースじゃないの? ねぇ、貴方そんな性格なのに、結婚はしたいタイプな訳?」
「あー、私ね。よくある小説みたいに、政略結婚が嫌で貴族の暮らしを捨てて、平民になるとか論外なの。私は一生引きこもりのニートを目指してる訳よ」
「へぇ?」
「愛はもう求めない。理想はね大金持ちのおじ様に『君はこの家で好きな事だけして、自由にしていればいいよ』なんて言って、なーんにも求められないで、ただ甘やかされた猫みたいに扱ってもらえる結婚をしたいの」
「貴族なのに?」
「だって、知ってる?この国の貴族のセックスって、前戯とかなくって、いきなり突っ込んで、三十回くらい腰振って、終わりって感じなのよ?!淑女教育の先生ですら、『三分の我慢です』っていうの。つまりトータルで三分あれば終わる、子作りにのみ重点を置くセックスなわけ。有り得なくない?!」
「そう……だったかしら?」
オネェさんは美しい顔に、若干困惑の色を浮かべた。
「あのね、普通初夜の前に『殿方に全てお任せしなさい』って言われるのが、異世界あるあるな『よくある話』な筈なの!!なのに、この世界には肝心のそれがないの!!」
「……異世界あるある…」
「3分よ、3分。トータル3分で終わるの。キューピーの3分クッキングだって、下ごしらえには時間かけてるのに。考えられない話よね?」
「んー。政略結婚で相手を愛してない場合には、そちらの方が楽なんじゃないの?」
「確かにね。けど、好きな人と結婚して、そんな愛のない作業のようなセックスなんて論外よ。だからね、私は結婚に愛を求めずに、お金と結婚する事にしたの」
「あらそう。極論な気もするけど、まぁ別にいいんじゃない?ただ、私の知る話とは、なんだか違う気がするけれど…」
オネェさんはとても不思議そうに、首を傾げた。そんな仕草まで最高に美しい。
「だから、無謀な恋心なんてさっぱり捨て去って、若くて綺麗なうちに、さっさと次に行きたい」
私は前世、やりがい搾取のブラック企業で働きすぎて過労死した、異世界転生あるあるな死に方をしたのだ。だからこそ今世では、不毛な恋など捨て去って、大金持ちに可愛がられる猫のような生活をしたいと思うのだ。
「とりあえず、貴方がかなりダメな子なのはわかったわ。でも貴方から辞退するのを親が許さないのなら、早々に相手に断らせるしかないわね」
「そうなるよねぇ。せめて、あの男の本命を知りたい。もし本命がさっき言ってた王女で、王女以外なら誰でも良いとかって話なら、どんな手を使ってでも私を候補から外して欲しい。お互い何の感情も持っていない政略結婚ならともかく、結婚して片想いとか、絶対やだ。だって、自分の夫が四六時中一緒にいる護衛対象の王女様を愛してたりしたら、私は絶対に病む。闇堕ちする自信ある。何より、婚期を引き伸ばすだけ引き伸ばされて、最後に王女をえらばれたら、もう本気で死にたくなると思わない?」
「そうなの?別にどうでもいいけど」
「そんな他人行儀な事言わないで」
私は再びテーブルに顔を伏せて「うわーんっ」っと嘘泣きする。いや、本当は本気で泣きたいのだが……。
そんな私を見て、オネェさんは魅惑的な微笑を浮かべた。
「だって他人だもの。まあ、いいわ。貴方面白いし、今夜おごって貰うお礼に、特別にいいものをあげるわ」
さらりと薄情な台詞を口にしたオネェさんは秀麗な顔に、悠然とした笑みを浮かべた。
「何々?何くれるの?」
私はがばりと起き上がり、食い付くように身を乗り出す。オネェさんは僅かにのけぞりながらも、呆れたように目を眇めた。
「貴方、現金な子ねぇ、ちょっとは遠慮しなさいよ」
文句を言いながらも、オネェさんは空のグラスを置き、小さなガラス箱をテーブルに置いた。
「何これ?」
「その相手の考えている事が知りたいんでしょう? これを一粒飲めば貴方が一番気になる人間の思考が読めるようになるわ」
「うっそ!!不思議アイテムゲット?!すごいわ、ありがとうオネェさん!!これぞ異世界転生!!」
とまあ、そういう訳で、私は異世界の自称魔女から、ピンクの小粒のお薬を貰ったのである。箱の中の薬を見て、思わず「便秘薬?」って呟くと、何だかとっても怒られた。解せぬ。
とまあ、そんな訳で、今に至るという訳である。
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