1 / 43
過去からの招待状
過去からの招待状 1話
しおりを挟む
モバイルに送られてきた一通のメール。その差出人名を見るなり思わず眉根を寄せてしまった。
――高瀬芳則。
忘れもしないそれは、自身が現役ホストだった頃に枕営業として身体を重ねたことのある男だったからだ。
雪吹冰は、一瞬そのメールを開くことを躊躇った。
今更何の用があるというのだろう、どう想像しても、いい方向性のことであるはずがないと確信があった。
当時、冰は源氏名を『波濤』として新宿歌舞伎町にあるxuanwuというホストクラブで働いていた。不動のナンバーワンホストとして君臨してきたが、前経営者の粟津帝斗から後継を望まれたことをきっかけに、今は現役を引退し、代表としてこの店を経営する側の立場となっている。
メールを送ってきた高瀬という男は、当時の数ある顧客の中でも太客といわれる上得意であった。ホストクラブに通うにしては珍しい男性客ではあるが、そんな彼と店がハネた後のアフターと称して、幾度となく深い関係を結んだのは事実だ。
だが、冰がこうした枕営業をしていたのは決して営業成績の為ではなく、彼にはそうせざるを得ない苦渋の理由があったからだった。
冰は国内では有数といわれる程の財閥の御曹司として生まれたが、母親が妾だったことで、親元で暮らすことは許されなかった。彼には腹違いの兄がいて、名を菊造といった。――つまりは本妻の嫡男であるわけだが――その菊造から、父親を奪った妾の子供という理由で疎まれ、慰謝料と称して毎月多額の現金を要求されていたのだ。
その工面の為にホストという仕事に就いたものの、通常の稼ぎだけでは到底足りずに、苦渋の末に選んだのが同性相手に色を売るということであった。
菊造からの金の無心は容赦なく、冰にはこの高瀬の他にも身体を売っていた男性客があったが、彼らの殆どは冰が現役を引退したと同時に綺麗さっぱりと縁を切ってくれた者ばかりだった。つまりは相手側にとっても、ひと時の遊びであったということだろう。それは苦い過去を思い出したくない冰にとっては、たいへん有り難いことでもあった。
高瀬はそんな客たちの中の一人だったが、正直なところ、当時から冰はこの男が苦手だった。理由は彼の性癖が少々変わっていたからだ。
高瀬は、最初の頃こそ非常に紳士的に接してくれていたものの、関係を重ねるにつれ、次第に本性を見せ始めていった。
騙し討ちのようにして淫猥な薬を盛られ、一晩中嬲られたこともある。縛られて恥ずかしい格好をさせられ、それを満足そうにニヤニヤと凝視されたり、時にはレイプまがいのプレイがしたいと言い、手加減はしつつも殴られたりしたこともあったくらいだ。
だが、金の面だけは糸目を付けずに、他の誰よりも高額で買ってくれるこの男と縁を切ることも出来得ずに、当時は酷く苦しんだものだった。
身震いのするような苦い経験であったが、ホストを引退し、代表に就任してからはパッタリと連絡も途絶え、冰の中では既に過去の思い出したくない記憶として、引き出しの奥底にしまったはずの終止符であった。
――高瀬芳則。
忘れもしないそれは、自身が現役ホストだった頃に枕営業として身体を重ねたことのある男だったからだ。
雪吹冰は、一瞬そのメールを開くことを躊躇った。
今更何の用があるというのだろう、どう想像しても、いい方向性のことであるはずがないと確信があった。
当時、冰は源氏名を『波濤』として新宿歌舞伎町にあるxuanwuというホストクラブで働いていた。不動のナンバーワンホストとして君臨してきたが、前経営者の粟津帝斗から後継を望まれたことをきっかけに、今は現役を引退し、代表としてこの店を経営する側の立場となっている。
メールを送ってきた高瀬という男は、当時の数ある顧客の中でも太客といわれる上得意であった。ホストクラブに通うにしては珍しい男性客ではあるが、そんな彼と店がハネた後のアフターと称して、幾度となく深い関係を結んだのは事実だ。
だが、冰がこうした枕営業をしていたのは決して営業成績の為ではなく、彼にはそうせざるを得ない苦渋の理由があったからだった。
冰は国内では有数といわれる程の財閥の御曹司として生まれたが、母親が妾だったことで、親元で暮らすことは許されなかった。彼には腹違いの兄がいて、名を菊造といった。――つまりは本妻の嫡男であるわけだが――その菊造から、父親を奪った妾の子供という理由で疎まれ、慰謝料と称して毎月多額の現金を要求されていたのだ。
その工面の為にホストという仕事に就いたものの、通常の稼ぎだけでは到底足りずに、苦渋の末に選んだのが同性相手に色を売るということであった。
菊造からの金の無心は容赦なく、冰にはこの高瀬の他にも身体を売っていた男性客があったが、彼らの殆どは冰が現役を引退したと同時に綺麗さっぱりと縁を切ってくれた者ばかりだった。つまりは相手側にとっても、ひと時の遊びであったということだろう。それは苦い過去を思い出したくない冰にとっては、たいへん有り難いことでもあった。
高瀬はそんな客たちの中の一人だったが、正直なところ、当時から冰はこの男が苦手だった。理由は彼の性癖が少々変わっていたからだ。
高瀬は、最初の頃こそ非常に紳士的に接してくれていたものの、関係を重ねるにつれ、次第に本性を見せ始めていった。
騙し討ちのようにして淫猥な薬を盛られ、一晩中嬲られたこともある。縛られて恥ずかしい格好をさせられ、それを満足そうにニヤニヤと凝視されたり、時にはレイプまがいのプレイがしたいと言い、手加減はしつつも殴られたりしたこともあったくらいだ。
だが、金の面だけは糸目を付けずに、他の誰よりも高額で買ってくれるこの男と縁を切ることも出来得ずに、当時は酷く苦しんだものだった。
身震いのするような苦い経験であったが、ホストを引退し、代表に就任してからはパッタリと連絡も途絶え、冰の中では既に過去の思い出したくない記憶として、引き出しの奥底にしまったはずの終止符であった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?
monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。
そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。
主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。
※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる