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過去からの招待状
8話
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一方、冰の方は高瀬という男の指示通り、羽田にある高瀬貿易の倉庫へと向かっていた。
氷川と付き合い出してから彼によって贈られた愛車に乗って、ただ一人目的地を目指す。とはいえ、普段は何処へ行くにも大概は運転手付きの送迎が当たり前になっていたから、自身で運転すること自体に若干の緊張を強いられる。加えて、今は緊急時だ。一刻も早くと焦る気持ちを抑えながら、人気の少ない夜の倉庫街を駆け抜けた。
「――ここか」
高瀬から指定された通りに、表通りからは見えない裏口付近に車を停めた。ぐるりと周囲を見渡せば、巨大な倉庫の壁には目立つ文字で『高瀬貿易』と記されている。周囲にも似たような倉庫が建ち並んでいるが、さすがにこの時間となれば昼間の喧騒は見られない。
ひっそりと静まり返った路地から垣間見える湾の向こうには、煌めく都会の灯りが美しく夜空を彩っている。普段は綺麗だと思える光景も、今は別世界のもののように感じられた。
と、その時だ。頭上で扉の開かれる音を聞き、そちらを見上げてみれば、アイアン造りの階段を降りてくる一人の男の存在が闇夜に浮かび上がった。高瀬である。
「やあ、波濤――。早かったじゃないか」
「……高瀬さん……! 紫月は無事だろうな!?」
うわずる声を震わせながら、必死の形相でそう訊いた。
「そんな愛想のない挨拶はよして欲しいね。以前のキミだったら、例えお世辞でもすごい倉庫ですね――くらいは言ってくれただろうに、残念だよ」
「……ッ、あんた……冗談言ってる場合じゃないでしょう! 早く彼に会わせてくれ!」
階段を駆け上がり、途中まで降りてきていた高瀬を退ける勢いでそう言った。――と、すれ違う瞬間に突如手を掴まれて、冰はギョッとしたように高瀬を振り返った。
「彼は無事だよ。今、会わせてあげるさ。それよりも――あんまり僕を怒らせない方がいいと思うよ? かれこれふた月ぶりだっていうのに、会うなり『紫月、紫月』って。それじゃまるで僕は蚊帳の外じゃないか。正直、愉快な気分ではないね」
握った掌を弄ぶように、ねっとりと押し広げながら指と指とが絡み合わされる。じっと、食い入るように見つめてはニタニタと笑う。気味の悪いその笑顔が常夜灯の逆光に照らされて、更なる不気味さを醸し出していた。思わずゾクりと背筋を這い上がった寒気が武者震いを誘うようだった。
そうして手を繋がれたまま扉の中へと案内されれば、冰はそれを振り切らん勢いで室内を見渡した。
「紫月――! 紫月、何処だ!」
そこは事務所だろうか、このだだっ広い倉庫にしては割合こじんまりとした空間に、机が数台と事務用の椅子、それにパソコンやら書類入れのような棚が設置されている。ガラス張りの壁の向こうには倉庫内の全体が見渡せるような造りになっていた。
その部屋の隅っこに置かれたソファの上に紫月の姿を確認して、冰は高瀬に握られていた手を振り切ると、一目散にその傍へと駆け寄った。
氷川と付き合い出してから彼によって贈られた愛車に乗って、ただ一人目的地を目指す。とはいえ、普段は何処へ行くにも大概は運転手付きの送迎が当たり前になっていたから、自身で運転すること自体に若干の緊張を強いられる。加えて、今は緊急時だ。一刻も早くと焦る気持ちを抑えながら、人気の少ない夜の倉庫街を駆け抜けた。
「――ここか」
高瀬から指定された通りに、表通りからは見えない裏口付近に車を停めた。ぐるりと周囲を見渡せば、巨大な倉庫の壁には目立つ文字で『高瀬貿易』と記されている。周囲にも似たような倉庫が建ち並んでいるが、さすがにこの時間となれば昼間の喧騒は見られない。
ひっそりと静まり返った路地から垣間見える湾の向こうには、煌めく都会の灯りが美しく夜空を彩っている。普段は綺麗だと思える光景も、今は別世界のもののように感じられた。
と、その時だ。頭上で扉の開かれる音を聞き、そちらを見上げてみれば、アイアン造りの階段を降りてくる一人の男の存在が闇夜に浮かび上がった。高瀬である。
「やあ、波濤――。早かったじゃないか」
「……高瀬さん……! 紫月は無事だろうな!?」
うわずる声を震わせながら、必死の形相でそう訊いた。
「そんな愛想のない挨拶はよして欲しいね。以前のキミだったら、例えお世辞でもすごい倉庫ですね――くらいは言ってくれただろうに、残念だよ」
「……ッ、あんた……冗談言ってる場合じゃないでしょう! 早く彼に会わせてくれ!」
階段を駆け上がり、途中まで降りてきていた高瀬を退ける勢いでそう言った。――と、すれ違う瞬間に突如手を掴まれて、冰はギョッとしたように高瀬を振り返った。
「彼は無事だよ。今、会わせてあげるさ。それよりも――あんまり僕を怒らせない方がいいと思うよ? かれこれふた月ぶりだっていうのに、会うなり『紫月、紫月』って。それじゃまるで僕は蚊帳の外じゃないか。正直、愉快な気分ではないね」
握った掌を弄ぶように、ねっとりと押し広げながら指と指とが絡み合わされる。じっと、食い入るように見つめてはニタニタと笑う。気味の悪いその笑顔が常夜灯の逆光に照らされて、更なる不気味さを醸し出していた。思わずゾクりと背筋を這い上がった寒気が武者震いを誘うようだった。
そうして手を繋がれたまま扉の中へと案内されれば、冰はそれを振り切らん勢いで室内を見渡した。
「紫月――! 紫月、何処だ!」
そこは事務所だろうか、このだだっ広い倉庫にしては割合こじんまりとした空間に、机が数台と事務用の椅子、それにパソコンやら書類入れのような棚が設置されている。ガラス張りの壁の向こうには倉庫内の全体が見渡せるような造りになっていた。
その部屋の隅っこに置かれたソファの上に紫月の姿を確認して、冰は高瀬に握られていた手を振り切ると、一目散にその傍へと駆け寄った。
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