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未来への招待状
9話
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それにしても、これはとんでもない驚きである。今の今まで、冰はそんなことを想像すらしたことがなかったので、しばしは言葉にならないほどであった。と同時に、何故そんな大事なことを黙っていたのかと、氷川に対しても少々恨み言を言いたいくらいだった。
「ちょ……ちょっと待ってくれ……。頭がこんがらがってきたぜ……! 一体、誰と誰がこのことを知ってて、誰と誰が知らなかったわけだよ? もしか、何も知らねえでノホホンとしてたのは……俺だけだってこと?」
眉間に皺を寄せながら、冰は軽いパニック状態だ。
だが、少し落ち着いて考えてみれば、思い当たらない節もない――とも思えてくるのだった。
普段はあまり何かに対して格別な関心を寄せることも少ない氷川が、あの遼二に対してだけは違った。初対面でいきなり自分の側付きとして勤めないかと誘い、以来、何処へ行くにも連れて歩いている。彼と一緒にいる時の氷川が何ともいえず楽しげにしているので、よほど彼とは馬が合うのか、或いは人として何らかの魅力を感じているのだろうかと、少々不思議に思っていたのは事実である。
それを肯定するように口元にニヒルな笑みを浮かべながら氷川は言った。
「遼二の親父は俺がまだ小せえガキの頃からうちに来ていてな。よく遊んでもらったもんだ」
「そうだったのか……」
「人懐こくて、優しくてな。周囲の誰もが俺たちファミリーには気を遣い、丁寧すぎる扱いをする中で、僚一だけは違ったんだ。会えば必ず『元気にしてるか、ボウズ』って言いながら、俺の頭をでけえ掌でグシャグシャと撫でてくれた。その笑顔が何ともいえずに好きでな。子供心にカッコイイおっさんだと思った。俺もいつか――大人になったら、あんな男になりてえと憧れた」
そう言った氷川の視線が酷くやさしげに細められていた。
まさかこの氷川からそんなことを聞くだなんて思っていなかった。隙のなく、愛想も少なく、初対面の人間などはその存在感だけで威圧されてしまうような雰囲気をまとったこの氷川にも――そんな少年時代があったのだ。
ふと、その頃の彼を想像したと同時に、何だか頬が染まる思いがして、冰は胸の奥底に甘い痛みが走るようだった。
「龍の子供の頃か――。見てみたかったな、その頃のお前……」
そういえば今の今まで氷川の少年時代など想像したこともなかったことに気付く。
どんな子供だったのだろう――。今はこんなにも男の魅力にあふれた彼も、小さな頃は可愛らしかったのだろうか。或いは子供の頃からやっぱり少しふてぶてしい一面を持ち合わせていたりして、大人びた子供だったのだろうか。
冰は、自身の知らない彼の一面を脳裏に描くだけで、何とも言いようのない愛しさがあふれ出すようだった。そんな気持ちのままに彼の胸元へと頬を預けた。
「ちょ……ちょっと待ってくれ……。頭がこんがらがってきたぜ……! 一体、誰と誰がこのことを知ってて、誰と誰が知らなかったわけだよ? もしか、何も知らねえでノホホンとしてたのは……俺だけだってこと?」
眉間に皺を寄せながら、冰は軽いパニック状態だ。
だが、少し落ち着いて考えてみれば、思い当たらない節もない――とも思えてくるのだった。
普段はあまり何かに対して格別な関心を寄せることも少ない氷川が、あの遼二に対してだけは違った。初対面でいきなり自分の側付きとして勤めないかと誘い、以来、何処へ行くにも連れて歩いている。彼と一緒にいる時の氷川が何ともいえず楽しげにしているので、よほど彼とは馬が合うのか、或いは人として何らかの魅力を感じているのだろうかと、少々不思議に思っていたのは事実である。
それを肯定するように口元にニヒルな笑みを浮かべながら氷川は言った。
「遼二の親父は俺がまだ小せえガキの頃からうちに来ていてな。よく遊んでもらったもんだ」
「そうだったのか……」
「人懐こくて、優しくてな。周囲の誰もが俺たちファミリーには気を遣い、丁寧すぎる扱いをする中で、僚一だけは違ったんだ。会えば必ず『元気にしてるか、ボウズ』って言いながら、俺の頭をでけえ掌でグシャグシャと撫でてくれた。その笑顔が何ともいえずに好きでな。子供心にカッコイイおっさんだと思った。俺もいつか――大人になったら、あんな男になりてえと憧れた」
そう言った氷川の視線が酷くやさしげに細められていた。
まさかこの氷川からそんなことを聞くだなんて思っていなかった。隙のなく、愛想も少なく、初対面の人間などはその存在感だけで威圧されてしまうような雰囲気をまとったこの氷川にも――そんな少年時代があったのだ。
ふと、その頃の彼を想像したと同時に、何だか頬が染まる思いがして、冰は胸の奥底に甘い痛みが走るようだった。
「龍の子供の頃か――。見てみたかったな、その頃のお前……」
そういえば今の今まで氷川の少年時代など想像したこともなかったことに気付く。
どんな子供だったのだろう――。今はこんなにも男の魅力にあふれた彼も、小さな頃は可愛らしかったのだろうか。或いは子供の頃からやっぱり少しふてぶてしい一面を持ち合わせていたりして、大人びた子供だったのだろうか。
冰は、自身の知らない彼の一面を脳裏に描くだけで、何とも言いようのない愛しさがあふれ出すようだった。そんな気持ちのままに彼の胸元へと頬を預けた。
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