club-xuanwu

一園木蓮

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7. Double Blizzard

Double Blizzard 13話

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「雪吹様のことは老板ラァオバンからうかがっております。私は李と申します。どうぞお見知りおきください」
 再度丁寧に頭を垂れる男は、その外見からしても品の良いのが伝わってきそうな男前である。よしんば、このままclub-xuanwuの店内に立たせてもいいくらいの美丈夫に、失礼とは思いつつも、ついつい凝視してしまった。年の頃は龍よりもかなり上に感じられるし、見るからに頭のキレそうな雰囲気に気後れしてしまいそうだ。
 何より”李”という彼の名である。
 昨夜から思っていたことだが、黄老人のことを『大人ターレン』と呼んだり、この李という秘書が龍のことを『老板ラァオバン』と言ったりと、どこかしこに懐かしい香港を思わせる雰囲気が飛び交っているのだ。
「えっと……あの……」
 誰を相手に何からどう訊いていいのかと面食らっているような波濤の様子を、面白そうに見つめながら龍が放ったひと言――、

「俺もお前と同じ――香港生まれの香港育ちなんだよ」

 その言葉に、波濤は瞬きを忘れるくらい驚かされてしまった。



◇    ◇    ◇



 『俺もお前と同じ――香港生まれの香港育ちなんだよ』

 すぐには返す言葉も見つからないほどだった。龍が香港で生まれ育ったなどと、今の今まで全く知らなかった。
「えっと、マジ……?」
 その割には随分流暢な日本語だな――というのが脳裏を過ぎったが、かくいう自身も日本語と広東語のどちらで話そうと不自由しないのだから、龍もそうなのだろうかと漠然と納得する。しかも、日本でこんな立派なホテルを経営しているくらいなのだし、ある意味流暢で当然だろうか。

「俺の親父は中国人でな、このホテルも言うなれば親父の持ち物なんだ。日本に出店する際に、こっちの経営は俺に任せてくれたんだが、本店は香港にある。お前も知ってるかも知れねえが、ホテルの名はzhuqueヂゥーチュエという」
「zhuque!? それってめちゃめちゃ有名なホテルじゃねえか……!」
 香港では知らない者はいないというくらいの超高級ホテルの名を聞いて、波濤はまさに目ん玉が飛び出るというのがぴったりくるくらいに驚かされてしまった。
 龍の説明によると、彼の父親は香港を拠点とし、近隣のマカオなどにもホテルを幾つも所有しているということだった。しかも、ホテル経営は一部分に過ぎず、その他にも貿易や不動産、飲食業と多岐に渡る事業を抱えているらしい。
 それにしても驚いた。ということは、龍も中国人というわけか。が、やはり流暢過ぎるほどの日本語に首を傾げてしまいそうになる。確か彼の本名は”氷川白夜”だったはずだ。香港生まれの彼がどうして日本名を名乗っているのかということも含めて、もはや謎だらけである。
 波濤は迷宮に入り込んでしまった童話の主人公のような心持ちでいた。
「お前、本当に分かりやすいっていうか――思ってることがそのまま顔に書いてあるようだな」と笑いながら龍は告げた。
「俺のお袋は日本人でな。親父の妾なんだ」

「え――――!?」

「だが俺は恵まれてた」
 シェフが注いだ食前酒を口に含みながら、今まで可笑しそうにしていたのを僅か真顔に戻しながら龍は続ける。
「親父には香港に本妻がいる。つまり俺にとっては継母に当たるわけだが――彼女は俺のことを実の息子のように可愛がってくれてな。俺のお袋とも親友のように仲良くしてくれている。継母の実子で、俺とは異母兄にあたる兄もいるが、ヤツもガキの頃から俺たち母子おやこを家族同様に扱ってくれた。器がでかい――というだけじゃない、継母おふくろと兄貴には感謝してもし切れねえ恩があるんだ。だから俺は少しでも家族の役に立ちたいと思って、実のお袋の故郷であるこの日本で稼業を手伝うことに決めたんだ」

 テーブルの上には前菜が並べられていく。見事な料理は、波濤にとっても懐かしい飲茶の
数々――香港にいた頃には毎日のように目にしていた大好物である。

 一旦、シェフが下がっていくと、一層真面目な表情で龍は言った。
「帝斗が俺をホストの仕事に誘ったのは、俺とお前の境遇が似ていたからだ。共に香港で生まれ育ち、お袋が妾の立場である俺たちを引き合わせたかったと言っていた。俺ならばお前の抱えているものを理解してやれる――そう思ったそうだ」
「オーナーが……そんなことを」
「ああ。お前の様子がおかしいのを気に掛けていたらしくてな。密かにお前のことを調べたそうだぞ。ヤツの実家も財閥だから、お前の親父さんの平井財閥とも縁があったそうでな。お前が兄の菊造に金を無心されていることを知って、何とか力になってやりたいと画策していたらしい」
 確かに帝斗という男はオーナーとしてだけでなく、人間的にも見習うところの多い、魅力あふれる男である。だがまさか、その彼が一スタッフである自らのことをそんなふうに気に掛けてくれていたなどとは夢にも思わずに、波濤は涙のにじむ思いがしていた。
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