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一園木蓮

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7. Double Blizzard

Double Blizzard 15話

「ああ、お前が入店してきた時さ、店のヤツらが言ってたんだよ。龍さんはめちゃくちゃ態度がでけえし、ありゃホストってよりはマフィアの頭領みてえだってさ。お前は知らないかもだけど、未だにお前のあだ名”頭領”なんだぜ?」
 ジャスミン茶の椀を両の掌に包み込むように持ち、ふぅふぅしながらそう言う波濤の瞳がクリクリと輝いている。そんな仕草がまるで純真無垢な子供のようで、龍はますます愛しげに瞳を細めながらも僅かに苦笑いを抑えられなかった。
「頭領――ね。当たらずとも何とやらってやつだな」
「え――?」
「俺の親父は周隼ジォウ スェンってんだ」
「え、周……?」
 その名前には聞き覚えがあった。
「それって香港マフィアの頭領じゃないか……! まさかそんなところまで似通ってるって……」と言い掛けて、波濤はハッと龍を見つめた。

「えっと……同姓同名……? まさか本当に頭領そのものってことは……ねえよな?」
「――は、その”まさか”だな」
「え……?」

ーーーーッ!?

 あまりにもビックリし過ぎて、思わずすっとんきょうな大声を上げそうになった。

「や、えっと……その……マジ?」
「ああ、”マジ”だ」
「え、え……? 冗談……とかじゃねえのか……えっと、その」
 波濤は視線を泳がせ、まさにしどろもどろで殆ど言葉になっていない。相反して龍は苦笑に溜め息まじりだ。
「別に隠してたわけじゃねえさ。お前には追々言おうと思ってた」
「言おうと思ってたって……。つか、話が凄過ぎて、そう簡単には信じらんねえんだけど……。オーナーは知ってんの?」
「ああ。帝斗とは家族ぐるみの付き合いだからな。年齢としも近えし、ガキの頃からの幼馴染みみてえなもんだよ」
「ていうかさ、龍。お前って一体いくつなんだ? 年齢とし
「俺か? 俺は三十二だが……」
「さ、三十二ッ!?」
 またしても波濤は絶叫、龍は苦笑である。
「じゃあ何……お前って俺より四つも上ってこと……?」
 波濤はあと二ヶ月余りで二十八歳になる。それよりも何よりも、今まで互いの年齢すら知らなかったことの方が驚愕だった。
「じゃあ俺って、かなり失礼なヤツじゃん……。年上のヤツに普通にタメ口叩いてたってことかよ」
 自己嫌悪とばかりに落ち込む様が可愛く思えた。
「別に年齢としなんか関係ねえだろ。それに四つなんて大して離れてる内に入らねえよ。俺らは愛し合ってる、それで充分じゃねえか」
 しれっとした言い草ながらも口元を尖らせる、そんな様子はまるで子供がスネているようでもある。
 二人は互いを見やり、どちらからともなく、ほぼ同時に噴き出してしまった。
「……ったく! お前、今まで俺の歳、幾つだと思ってたんだよ」
「え、てっきり同い年とばっかり……。まさか四つも上とは思わなかったからさ」
「じゃあ俺は若く見えるってことだな?」
「まあ……そうかな。年のわりにはえらそうだなぁとは思って……たけど」
「えらそうって、お前なぁ」
「あ、ああ……ごめん」
 四歳も離れていると知った途端に、急にしおらしく頬を染める波濤がますます愛おしい。
「なあ、波濤」
「……?」
「タメ口、やめなくていいぞ。今のままのお前が俺はいいんだから」
「え……? ああ、うん」
 対面でモジモジとし、”らしくない”様子に、龍はまたひとたび笑った。この大きなテーブルを挟んでいては焦れったい。今すぐにでも頭を撫でて抱き締めたいくらいだった。



◇    ◇    ◇



 その後、リビングのソファへと移動して、二人肩を並べて寛いでいた。
 龍は食後酒のお代わりとしてバーボンのストレートを片手に、もう片方の腕を波濤の肩に回して、その額にチュッと軽く口付けを落とす。波濤も素直に身を預けながら、両手で紹興酒のお湯割りが入ったグラスを持って、ちびりちびりとやっていた。
「波濤――」
「ん?」
「マフィアは――怖いか?」
 少し低めのローボイスが繰り出す穏やかな口調の問いに、波濤はハッと龍を見やった。
「ん……。そりゃ、マフィアって聞けば普通に怖いけどさ……。でも、お前のことは怖くない……お前のことは……」
「――好きか?」

 俺がマフィアの一族だと知っても変わらずに好きでいてくれるか――?

 龍の瞳がそんなふうに訊いてくるような気がして、波濤はキュッと心臓を掴まれる心地だった。
「……好きだよ。お前が誰だろうと……俺は……」
「そうか」
「ん――」
 こくりとうなずき、頬を染める。



 二人の間にしばしの沈黙が流れ、どちらからともなく手にしていたグラスをテーブルへと置いて見つめ合う。



「波濤――俺と一緒に生きてくれるか」

「――――!」

「ホスト業を体験して、お前に出会えて本当に良かったと思っている。初めは帝斗の気まぐれに乗ってやるか――くらいの軽い気持ちだったが、今ではあいつにも心底感謝してるよ。あいつがこの話を持ち掛けてくれなかったら、俺はお前に出会えていなかった。こんなにかけがえのないヤツに巡り会えるだなんて……想像さえできなかった。俺は――この先の人生をお前と一緒に生きていきたい」

「……龍」
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