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異世界で推しごと中!
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キャロットの暗躍によって、古戦場跡でマクマティア王と魔王が相見えた。たった1人の魔女によって裏打ちされた和解交渉。信用に足るものなど、互いに持ってはいなかったが、平和への想いが、2人の足を前に進ませていた。
この面会は極秘裏に行われ、互いに配下2人だけを連れていた。
「魔王よ……そなた、人間と和解したいそうじゃな」
口火を切ったのは、マクマティア王だった。民を守る王として、清廉を胸に国を治めてきた。真っ白な衣装にその覚悟が表れている。豪奢になりすぎない程度の金の刺繍。流麗な線で花が咲いていた。慎ましさの中に芯の強い一面が垣間見える。
「そちらは、和解を受け入れる気があると聞いたが?」
魔王は自信たっぷりに言った。確信を持っている訳ではない。彼はいつも自信過剰なのだ。その性格で一魔族から、魔王にまで上り詰めた。魔族を統べるものらしく漆黒の衣装に身を包んでいる。上衣には同じ黒の糸で、細やかに獣の刺繍が施されていた。遠目には分かりづらいが、近くで見ると、その見事さに圧倒される。
「我々が望むのは平和……そして、魔石じゃ」
「魔石……?」
ピクリと魔王の整った眉が動く。その機微に、マクマティア王は身構えた。
「魔石とはなんだ?」
「ふぁ?!」
事前にキャロットから魔石は魔族にとっては石ころと同じと聞いていたものの、思わず、マクマティア王の口から間抜けな声が漏れた。後ろに控える側近の1人が堪えきれずに「ふへっ」と笑った。
マクマティア王は背後を睨んでゴホンと大きく咳払いをした。服の内側から魔石を取り出す。
魔王は細い目を開き、マクマティア王の手の中にある黒い石を見た。手のひらに収まる石は、魔力を放っている。魔族の国では、よくその辺に転がっている石だ。子供が蹴飛ばして遊んだり、地面に文字や絵を描くのに使われたりする。
「こんなものでいいのか?」
魔王の顔が驚愕に歪んだ。マクマティア王は心外そうな口ぶりで説明する。
「魔族にとってはこんなものだろうが、魔力を持たない者が多い人間にとっては貴重な石だ。これがあるだけで、民は豊かに暮らすことができる」
「なるほど」
マクマティア王の説明に、魔王は神妙に頷いた。同じ王として、民を思う気持ちは理解できる。
「して、そちらはなぜ和解を?」
魔王は待ってましたと言わんばかりに、顔を輝かせた。
「我が望むのは人間どもが作り上げる料理!!! それを是非とも我が国でも食せるようにしたい!!!!!!」
「料理……? それは、オムライスやシチューということか?」
「そうだ!! 魔族は料理という文化を持ち合わせていない……故に、我々は日々、生肉を貪っている。我に関しては、美味くもない果物が主食だ!!!」
「なんと、痛ましい……」
マクマティア王は驚愕に顔を歪めた。生肉を食するとは、いかにも魔族らしいが、魔王が人間と和解してでも料理を取り入れようとしているからには、余程ひどいのだろう。マクマティア王は生肉を食べたことはない。食中毒の恐れから、大体のものは火が通って出てくるからだ。
「料理の件、承知した。マクマティアから選りすぐりの料理人を派遣することを約束しよう」
和平のためとは言え、果たして、魔族の国に行きたがる料理人がいるかは疑問だが、せっかくのチャンスだ。マクマティア王は確約した。
魔王の顔がパッと明るくなった。上がった口角から、ちらちらと八重歯が覗く。
「なんと! それならば、我が国からは魔石の供給を約束しよう」
2つの種族の利害が一致し、ここに初めて、人間と魔族の代表が手を取り合った。今はまだ極秘だが、そのうちに民衆にも知れ渡るだろう。2人は互いの条件を書き出した契約書にサインする。1枚の紙に、人間と魔族の文字が並ぶなど、初めての出来事だった。
長く続いた人間と魔族の争いは極秘裏のうちに、休戦となった。
この面会は極秘裏に行われ、互いに配下2人だけを連れていた。
「魔王よ……そなた、人間と和解したいそうじゃな」
口火を切ったのは、マクマティア王だった。民を守る王として、清廉を胸に国を治めてきた。真っ白な衣装にその覚悟が表れている。豪奢になりすぎない程度の金の刺繍。流麗な線で花が咲いていた。慎ましさの中に芯の強い一面が垣間見える。
「そちらは、和解を受け入れる気があると聞いたが?」
魔王は自信たっぷりに言った。確信を持っている訳ではない。彼はいつも自信過剰なのだ。その性格で一魔族から、魔王にまで上り詰めた。魔族を統べるものらしく漆黒の衣装に身を包んでいる。上衣には同じ黒の糸で、細やかに獣の刺繍が施されていた。遠目には分かりづらいが、近くで見ると、その見事さに圧倒される。
「我々が望むのは平和……そして、魔石じゃ」
「魔石……?」
ピクリと魔王の整った眉が動く。その機微に、マクマティア王は身構えた。
「魔石とはなんだ?」
「ふぁ?!」
事前にキャロットから魔石は魔族にとっては石ころと同じと聞いていたものの、思わず、マクマティア王の口から間抜けな声が漏れた。後ろに控える側近の1人が堪えきれずに「ふへっ」と笑った。
マクマティア王は背後を睨んでゴホンと大きく咳払いをした。服の内側から魔石を取り出す。
魔王は細い目を開き、マクマティア王の手の中にある黒い石を見た。手のひらに収まる石は、魔力を放っている。魔族の国では、よくその辺に転がっている石だ。子供が蹴飛ばして遊んだり、地面に文字や絵を描くのに使われたりする。
「こんなものでいいのか?」
魔王の顔が驚愕に歪んだ。マクマティア王は心外そうな口ぶりで説明する。
「魔族にとってはこんなものだろうが、魔力を持たない者が多い人間にとっては貴重な石だ。これがあるだけで、民は豊かに暮らすことができる」
「なるほど」
マクマティア王の説明に、魔王は神妙に頷いた。同じ王として、民を思う気持ちは理解できる。
「して、そちらはなぜ和解を?」
魔王は待ってましたと言わんばかりに、顔を輝かせた。
「我が望むのは人間どもが作り上げる料理!!! それを是非とも我が国でも食せるようにしたい!!!!!!」
「料理……? それは、オムライスやシチューということか?」
「そうだ!! 魔族は料理という文化を持ち合わせていない……故に、我々は日々、生肉を貪っている。我に関しては、美味くもない果物が主食だ!!!」
「なんと、痛ましい……」
マクマティア王は驚愕に顔を歪めた。生肉を食するとは、いかにも魔族らしいが、魔王が人間と和解してでも料理を取り入れようとしているからには、余程ひどいのだろう。マクマティア王は生肉を食べたことはない。食中毒の恐れから、大体のものは火が通って出てくるからだ。
「料理の件、承知した。マクマティアから選りすぐりの料理人を派遣することを約束しよう」
和平のためとは言え、果たして、魔族の国に行きたがる料理人がいるかは疑問だが、せっかくのチャンスだ。マクマティア王は確約した。
魔王の顔がパッと明るくなった。上がった口角から、ちらちらと八重歯が覗く。
「なんと! それならば、我が国からは魔石の供給を約束しよう」
2つの種族の利害が一致し、ここに初めて、人間と魔族の代表が手を取り合った。今はまだ極秘だが、そのうちに民衆にも知れ渡るだろう。2人は互いの条件を書き出した契約書にサインする。1枚の紙に、人間と魔族の文字が並ぶなど、初めての出来事だった。
長く続いた人間と魔族の争いは極秘裏のうちに、休戦となった。
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