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 エコバックの中には、真鯛のカルパッチョの材料が入っている。
 オレはエコバックに手を突っ込み、あるものを取り出した。

「逃げる、つもり?」

 すぐ背後まで迫っていた少女の霊が、辛うじて人間の言葉とわかる音で言った。
 振り返ると、少女の霊は口も耳も鼻も無く、ギリギリのところで人の形を保った闇になっていた。
 ただ、赤い瞳だけがかつて人間だったことを証明するように、輝きを放っていた。

「誰が逃げるもんか!」

 オレはエコバックから取り出したものを、霊に向かってふりかけた。

「う! ……なんだこれは? 何をふりかけた!?」

 霊のオーラは弱まることなく、むしろ激しさを増している。

 オレの手に握られているのは、オリーブオイルのボトルだ。

「くそ、気になっていた、高いオリーブオイルを買ったんだが、ダメだったか」

 目の高さまで上げたボトルを見ながらオレは呟いた。

「オリーブオイル……ハハ、アハハ! これで料理でもしようって言うの?」

 霊は腹が捩れんばかりに笑った。笑うたび、オーラが風に吹かれているように大きく動いた。

 オレはと言うと、霊の言葉にピンときて、ポケットからマッチを取り出した。
 マッチをすって、着火させようとするが、焦りからか、うまくいかない。

「お前、何を……」

 霊がオレの動きに気づいた時、マッチに火がついた。
 それを霊にふりかけたオリーブオイルに向かって投げる。

 ボウッと音を立てて、霊の周りに炎が上がった。
 追い討ちをかけるように、手に持っていたボトルを投げ入れる。

 ボトルが割れ、炎はさらに勢いを増して燃え上がる。

「く、こんな、こんなもの……」

 霊は悔しさに形を歪めながら、炎に巻かれた。
 囲いは通り抜けることができたのに、炎は無理らしい。

 激しく燃える炎とは別に、キラキラと光るものがあった。
 それは怨霊には似つかわしくない清浄な輝きを放って天に昇っていく。

 光が天に昇るたびに、霊は小さくなり、やがて、声をあげることもできなくなり、炎にのまれて最後の光が天に昇った。

「助かったのか……?」

 オレは燻るように燃える小さな炎が消えるのを見届けて呟いた。

 辺りは静寂に包まれている。
 オレは息を吐き、その場に座り込んだ。

 「ハハ……アハハハ!」

 殺してやった!
 1度殺した女を、また殺してやった!!

 オレは新たな楽しみを見つけて、込み上げる笑いを抑えることができなかった。

【除霊END】
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