恋と魔法

とらとら

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「みなさんも知っての通り、この世界には魔法があります。
 炎や水をあやつり、時にはからゆうを生み出す、万能ばんのうの力。それが、魔法です。
 しかし、その魔法も無限むげんに使えるわけではありません。
 魔法の力のみなもとは、みなさんの中にある自信だとされています。
 おのれを強く信じることで、強い魔力をたもち、そうして初めて高度こうどな魔法を使うことができるのです。

 自己肯定感じここうていかんの低い者や、精神が安定しない者には、まともに魔法を使うことはできません。
 そこで先代せんだいの魔法使いたちはその問題を解決するために1つの方法をみ出しました。
 それが、この学園でも実施じっししているパートナー制度せいどです。

 これは積極的せっきょくてきに魔法使いの恋愛を支援しえんする制度です。
 恋愛をし、自分ではない他人にかれていることによって自信を高め、安定的に高い魔力の持続じぞく実現じつげんできます。

 みなさんがこのオゴリティア学園に入学して、もう1年がとうとしています。
 この冬は珍しく、大雪が降り、寒さのきびしいものになりましたね。その冬ももう終わろうとしています。
 我が学園では春のおとずれに先駆さきがけて、交流会こうりゅうかいおこなうことが決定しました。
 まだ、パートナーを見つけていない生徒や、パートナーとお別れしたという生徒は、この交流会でパートナーを見つけるようにしてください。

 交流会は南校舎の庭園ていえんで行われます。
 まだ花の季節には早いですが、学園の教師陣きょうしじんの魔法で一足早ひとあしはやい春をお届けします」

 教師がつえを|振|ふ》るうと、教卓きょうたくのプリントがい上がり、教室内をばたくように飛んだ。プリントのれは、教室をぐるりと旋回せんかいし、1枚1枚、生徒の机に着地していく。
 パートナーのいる生徒はうわの空で欠伸あくびをし、パートナーのいない生徒は熱心ねっしんにプリントの開催日かいさいびを確認した。

「先生」

 教室の後ろ、廊下側の席からスッと手が上げられた。制服の白いシャツのそでが下がり、白い手首があらわになった。
 華奢きゃしゃな見た目とは裏腹うらはらに力強くピンと上げられた腕。持ち主はクラスでも目立たない女子生徒だった。

「なんですか、ドライシー」

 教師はにこやかな顔でドライシーを見た。
 ドライシーはカールした濃茶こいちゃの髪をらして、椅子から立ち上がった。
 赤みの強い瞳は、恐れもなく、真っ直ぐに教師を見据みすえている。

「パートナーのいない生徒は、今回の交流会でパートナーを見つけるようにとのことですが、それは強制きょうせいですか?」

「なんですって?」

 ドライシーの発言に、教師の表情が固まる。
 クラスメイトたちもプリントから顔を上げてドライシーと教師に注目した。

ねてから、魔法使いが高い魔力を維持いじするためには、恋人を作ることが最適さいてきとされてきましたが、本当に恋をしてパートナーを作ることが1番の方法なのでしょうか?
 恋をしなくても、他の方法で自信をたもち、魔力を高めていくことができるのでは……」

「そこまでです! 口をつつしみなさい、ドライシー!」

 ヒステリックな声を上げ、教師は杖を振るった。
 瞬間しゅんかん、ドライシーの背後にあった椅子が動き、彼女のひざの裏に座面ざめん直撃ちょくげきし、強制的きょうせいてきに座らされた。
 ドライシーの発言でどよめいていたクラスメイトたちは瞬時に静かになった。
 その様子を見て、教師はうなずく。

「この魔法の世界において、恋をし、パートナーを作ることが、魔力を維持する最善さいぜんの方法なのです!
 パートナーを作る作らないは、あなたたち次第しだいですが、学校側ではパートナーを持たない生徒に交流会への参加を強制することができます。
 ドライシー、あなたは次の交流会に必ず参加するように!」

 そこまで言うと、教師はツカツカとドライシーの席まで歩いていく。
 ドライシーの前に立つと、教師は彼女の耳元に口を近づけた。

「気をつけなさい。パートナー制度にとなえることは、モテない者のひがみだと思われますよ」

 声をおさえることもなく、放たれた教師の言葉に、注目していたクラスメイトたちから失笑しっしょうれる。
 教師が満足げな顔をしてきびすを返すと、終業しゅうぎょうを知らせるチャイムが鳴った。
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