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アミンダ

少年は出会う 1

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 ゴールデンウィークですが、非日常が続いております
 早く元の日々に戻って欲しいと願っています

:スカベンジャー:Scavenger
 ごみやくずを拾い集めて生活する人
 体内の不要物質や毒性物質を処理する器官・細胞・物質など
 英語で「腐肉食動物」の意味

オカンナギ
 巫〝カンナギ〟=女
 覡〝オカンナギ〟=男




  *

 雨ふらないかな、と座ったまま四角い空を見上げたけれど、雲一つない空からは雨つぶ一つ落ちてきそうにない。
 お水が飲みたい。
 お腹すいた。
 最後にパンを食べたのは、何日前だったかな。
 最後に温かいスープを飲んだのは、いつだったかな。

 父さんと母さんが、ぼくもいっしょに連れてってくれたら良かったのに。
 少しおそくなったけど、きっと「おそかったな」って、むかえてくれるよね?
 ぼくも神様の〝永遠の原〟に、入れてもらえるよね?

 はりついてぺったりくっついたのどからは、ひゅうひゅうと音がするだけで、神様への祈りが声にならない。
 声に出なくても、届くかな。

 お願いです、神様、じ愛の神のマナ様。
 どうか、ぼくを父さんと母さんの側にむかえてください。

 力の入らないうでで体をだきしめて、目を閉じた。
 次に目が覚めたら、父さんと母さんがいてくれるはずだって、信じて。





 すごく良いにおいで目が覚めた。
 スープだ。

 目を開けたのに前が見えない。
 真っ暗の中で、そっと口に固いものが当てられて、口の中に温かさが広がる。

 かわいた口の中がじんじんってしびれて、するりとのどを下りていったスープは、神様の食事なのかもしれない。
 何度もスープを飲みこんだら、体が温かくなって、ねむってしまった。

 目を覚ますたびに、温かいスープをだれかが飲ませてくれる。
 それから二回スープを飲んで、やっと、ここが神様のみもとじゃないと気がついた。

 どこかでニグティンガーレが鳴いている。
 チーチキ、チーチク、夜だよ、と。

 神様のみもとには夜がなくて、いつも春風がそよいでいて、そこにしかいない天の鳥が夢見るような歌を奏でてくれる、って学校に来た助祭様が教えてくれた。
 だから、ここは……神様のみもとじゃない。
 神様のいる場所に、夜を告げるニグティンガーレはいない。

 ぼくは、父さんと母さんの所に行けなかったの?
 そんなのひどいよ神様、ぼくはどんな悪いことをしたの?
 父さんと母さんに会いたい。

 お腹がふるえて、鼻のおくがツンと痛くなる。
 すると、カリリと固いもので木をこすったような音がした。

「だれかいるの?」
「だれか、いる、ベスト、いる」

 のどの奥でうなるような、男の人の低い声が、すごく近くで聞こえた。

 ここがどこか分からないけれど、ずっと近くにいたってこと?
 じゃあ、この人がぼくにスープを飲ませてくれた人?

 不思議と、こわくなかった。
 声は低くてうなるようで聞こえにくいし、片言の話し方だったのに。

「ベスト?」
「そう、ベスト、なまえ、ふょる、ふぉゆ……べスト」
「ベストさん?」
「さん、なに?」

 低い声の主が、大人の男性のようだと思ったから、さんをつけてみたら、聞き返された。
 始めは聞かれたことの意味が分からなかったけれど、男性はもう一度同じことをくりかえした。

「さん、なに?」
「ベストさん?」
「そう、なまえ、ベスト、さん、なに?」

 名前に〝さん〟付けするのは、ふつうじゃないの?
 近所の人だっておじさん、おばさんって呼ぶのに。

「……ええとね、さんは、名前につける呼び方で、大人の人に使うよ」
「ベスト、うん、ベストさん、なみだ、こまる、どこ、いたい?」

 ベストと名乗った男の人の話し方は、すごくぎこちなくて、でも本当に心配してくれていると伝わってくる。
 手のひらでこすったほっぺがぬれていて、ぼくは人前で泣いたことがはずかしくなった。
 もう八才なのに、小さな子供みたいに泣いているところを見られた。

「どこ、いたい?」
「心」
「こころ、どこ?」
「ここ」

 ぼくは指先で自分の胸を指さした。
 
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