【R18】付き合って二百年、初めての中イき

Cleyera

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閑話 失われしベルストーナ 1/2

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 大陸中央部で栄華を誇っていた人種族の国、ポルトネゲネラン王国は、二百十四年前に国の上層部が一新され、それからゆっくりと衰退の一途を辿っている。

 当時、周辺国へ知られぬよう、それは静かに行われた。

 反乱でも簒奪でも無く、必要と判断された譲位であった。
 されども、栄枯衰勢が目に見える結果として現れてしまった現在では、譲位は好手には二手ほど足りなかった、と考えられている。


 原因となった街は滅び、今では名すら残されていない。

 同じ事を繰り返さないための教訓として、王族に生まれた者は過去を学ぶ事を義務付けられる。
 王族を支えるべく、城内へ勤める事となった者も同様に。

 特権とは、なんのためにあるのか。
 王族とはなにか、なにをするのか、なにをしてはいけないのか。
 支えるべき者たちは、王族になにをしてもよいと助言するか、なにをしてはいけないと諫言するか、なにをした時に忠言を口にするべきか。

 それが国のための行動規範として学び。
 正しく教育を受けた者たちは、全ての発端が一人の妖精族、エルフである事を知る。

 発端はエルフであっても、現況が身から出た錆である事も知る。

 ポルトネゲネラン王国の地図から消された街の名は〝ベルストーナ〟。
 自国の王都より、隣国のシンネラン王国との国境に近い、最辺境だった。

 当時のベルストーナは中庸の街。

 国境に近いため人の流出入は多く、国の目が行き届かない。
 防衛に重きがおかれ、発展は二の次。

 他国からの間諜が入り込まぬよう、街に入る前の質疑応答や荷物検査が厳しい。
 隣街と距離があり、街道は維持管理されているが食料品以外の流通は弱い。
 大きな商店が無く、商人組合でも出店は推奨されない。
 衛兵による職質の機会が多いため、後ろ盾や伝手のない行商人にとっても旨味がない街だった。

 発展させてはいけない街、という認識をされていた。
 ベルストーナに生まれ育った民は知らずとも、国の運営に関わる者らにとっては、大事起こさぬ事が重要な地であった。



 記録によると、二百二十八年前。
 ベルストーナの街にどこからともなく、ふらりと一人のエルフが現れたという。

 エルフを生まれて初めて見た、門を守っていた衛兵が、性別年齢がはっきりしない中性的な容姿に困惑し、聞き取りをしたとされるが、現在も城に残されている当時の入街記録帳面に該当文書はない。

 公式記録には残されていないが、当時の衛兵長が残した手記にエルフの詳細な容姿が書かれているため、実在した事は間違いないとされる。

 その姿は伝説同様に、宝玉の如き風貌であったという。

 優美かつ麗麗とした立ち姿は、美の化身のごとく。
 そこに立っているだけで光り輝いて見える様に目が潰れる者もいた、と手記には残されており、数多人々の目を釘付けにしたという。

 エルフは一度の来訪ではなく、その後も時折、街へやって来たそうだ。

 元より街の側で、エルフの目撃記録はなかった。
 ベルストーナの街から徒歩半刻ほどの距離を歩くと、北側に広く続く森が始まるため、その奥の更に北から来たのではないか、と人々の噂に上がったという。

 エルフは見た目の美しさだけでなく、伝説と同様に薬草への見識が深く、薬師でなくては作れない薬を数多納品した、と続く。

 エルフの来訪の話は十年近くかけて王都へと届き、最後に王族の耳へも入った。

 それまでポルトネゲネラン王国は、エルフの外交役を名乗る者たちと直接の接触はなく、王族であってもエルフと出会う機会はなかった。
 当時の、王太子執務室付き文官の残した日報に、詳しい噂が残されている。

 ベルストーナの街に現れたのは、個人で放浪していたエルフだという。
 外交目的ではない。
 エルフにも放浪する者がいる。
 妖精族に目をつけられたくないので、王太子殿下は噂だけで良いと判断された。
 外交として訪れたエルフでないのなら、関わらずにおきたい。

 犯罪集団が誘拐しようと目論んだようだが、魔術で吹き飛ばされたらしい。
 すりは手を触れる事もできず、色街にも興味がなさそう。
 持ち込んだ薬を金に変えて野菜を買うくらいで、街への滞在時間は短い。
 街に住むつもりは無さそうだ。

 さまざまな場所から集めた情報を精査して総括した結果、こちらからの接触は避けよう。
 我が国が妖精族と関わっていないのは、求められていないからだ。
 こちらから踏み込むには、相手の目的が分からない。
 情報は集め続けるが、近づかない事を主とする。

 当時の国王は、そう決定した。
 国の方針として、打ち出した。

 一般庶民にまで完全に浸透させる事は難しくても、国として積極的にエルフと関わる事はしない、と。
 全ての王族と高級官僚に通達がされ、問題なく受け入れられた、のだ。

 たった一人を除いて。
 王子三人の末に生まれた第一王女、その人の内心を除いて。

 国王は、普段は控えめなわがままを願うだけの、王女を溺愛していた。
 甘え上手で可愛い王女が、寓話や伝説の類が大好きな上、恋に恋する夢見る乙女であると報告も受けていた。

 しかし、それが狂気を孕んでいる、とは認識していなかった。
 末っ子でも王族としての教育は受けているから、立ち位置を誤ることはないだろう、と思い込んでいた。

 誰よりも、可愛く美しく振る舞う事が、自分の価値だと信じ。
 少しくらいのわがままを願っても、誰もが自分に従ってくれる。
 いつかは、自分一人だけに心を向けてくださる、美しく立派な殿方がやってきて、膝をつき愛を乞い願ってくるに違いない。

 王女の思い込みの強さを。
 家族だけでなく周囲からも甘やかされて育った王女が、なにもかも全て思い通りになると信じきっている事を、国王は理解していなかった。



 国内の視察がしたい。
 エルフの話が出てから一年以上が経ってからの王女の訴えに、政治的な思惑の気配は無く、王は許可を出した。

 王女も今年で成人だから、国と国民を知ろうとしているのだろう。
 国を守るべく王族の自覚が出て来たのだろう。
 そう考えて。

 王女付きの侍女と護衛が残した手記と手紙から、この先の流れは詳細に至るまで残されている。
 それを補完するように、ベルストーナの街長の手記も残されている。


 王女の国内巡行視察は順調だった。

 王族として、領主から地の話を聞き。
 民の代表からも話を聞き。
 土地の物を食べ、水を飲み、民の健やかさに頬を緩め。

 王女としてふさわしい振る舞いを、付き従う護衛の騎士たちも侍女たちも誇らしく思った。
 さすが我らの王女様だ、と民たちも手を振って声を大に喜びを表した。

 暗雲が垂れ込めたのは、突然だった。

 数ヶ月をかけて国内を何箇所か、転々と東進しながら視察旅行を進めた王女は、(初めから最後に向かうと決めていた)ベルストーナに赴く。

 そして、街の出入門から出てきた、白金の長髪をなびかせる者に出会った。

「……まぁ」

 待望の出会いだった。
 運命的な遭遇だった。
 あまりにも待ち望みすぎていたため、その時から王女の目に映る世界は、薔薇色に染まった。

 これが、王女一行の視察であると知らされている街の者たちは膝をつき腰を折り、石畳や土の地面に額づいていた。

 それを立ったままで見下ろし、己は膝をつく気はないと言わんばかりの態度でいたのは。
 美貌と叡智を司ると伝承に謳われる妖精、エルフ、だった。


 なんて麗しい。
 なんと美しい。
 本物は、これほどに素晴らしい美貌を持っているのね。


 王女は、ぽおっと全身が熱くなるのを感じた。

 どこかで声がしている。
 近くで、面を下げよと誰かが吠えている。

 ああ、目が離せない、声が出ない。
 胸の中で、なにかが弾け飛びそうなほどに暴れだしていた。

 
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