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番外 〝弘〟視点
1/4 託された雑誌 エロ本音読?
しおりを挟む晋矢さんと恋人になって二ヶ月目。
めっきりと冬らしさを増してきた、日曜日の夜。
わたしは晋矢さんのアパートから、自分の部屋に戻ってきていた。
晋矢さんの言葉通り、数日もせずに就労条件が大変魅力的であり、さらなる譲歩を匂わす上に執拗な勧誘を受けた。
自分だけでは結論を出せず、能力者管理の団体に通じていると考えられる、現在の職場の上司に相談した結果、わたしは転職することになった。
馴染めなかった時は元の職場に戻れる、と保証してもらえたことが大きい。
考えていた通り、上司は能力者管理団体の正規職員であり、資格取得できない能力者の保護が本来の職務だった。
新しい職場で思うように働くことができずに出戻った場合、居心地は最悪でも、この歳からアルバイトや派遣社員に変わって、新しい仕事を覚えるよりは良い。
いつでもわたしの周りには優しい人々がいてくれる。
これまでは、手助けが必要ですか?と伸ばされる手を、怖がっていた。
手放す事ができなくなったらどうしようと、恐れて。
今のわたしには晋矢さんがいる。
見捨てられたら、立ち直れないだろうけれど。
他に助けの手なんて欲しくない。
晋矢さんだけで良い。
精神的にも肉体的にも、人生で一番満たされて落ち着いている。
夢見ていた状況とは違うけれど、今のわたしなら能力者として能力を活用できるのではないか、と期待している。
きっと晋矢さんと離れたら、現状は維持できない。
晋矢さんがわたしにそれを言うことはなくても、理解している。
明日から新しい職場だ。
不安な気持ちがあるので、本当は晋矢さんの家に泊まらせて欲しかった。
けれど、初出社の準備を万端にしておきたかった。
書類関係は全部提出した。
必要なものはリストアップして揃えたけれど、最終確認をしておかないと、新しい職場でいきなりパニックを起こしてしまう。
面接で話した直接の上司になる人は、穏やかそうな男性だったけれど。
いきなり自分とそう歳の変わらない新人が入るとなっては、穏やかでいられないだろう。
申し訳ないけれど、前職の同僚たちには転職理由を話せていない。
あの職場にいるのは、みんな以前のわたしと同じように、自分の能力に振り回されている人々だから。
未だに自分の能力に振り回されていて、晋矢さんと出会ったという一点のみが幸運だったわたしが、彼らにそれを説明したところで、栄転としか受け取られないだろう。
職場のことは置いておいて、今日は晋矢さんが雑誌を貸してくれた。
……パラパラとめくって写真だけを拾った限りでは、男同士が絡まりあう、とても大人向けのもの。
わたしがあまりにも何も知らないので、もっと勉強しろということだろう。
二ヶ月が経って、会うときは必ずセックスになだれ込んでしまっているけれど、いつも晋矢さんに全てを任せっぱなし。
わたし自身も、いつも晋矢さん任せだな、と思っていた。
なんとか自分からできるのは、口づけくらい。
おじさんなのに下手くそすぎる、と思われているのだろう。
そうでなければ、晋矢さんの家へ行った時のお泊まり荷物の側に、この本が置かれてなかったはずだ。
優しい晋矢さんだから、面と向かって言えなかったのかと思うと、申し訳なさで苦しくなる。
新調したスーツを吊り下げ、初出勤荷物の最終確認をして、お泊まり荷物をバラして片付け、雑誌を手に取る。
後回しにすると忘れてしまうことがある。
「……文字が多い」
マエ・タツ……次の漢字は画数が多く、ぐちゃぐちゃに崩れて読めない。
チュウ、それともナカ?……イ・キ?
一文字一文字を追いかけるだけで精一杯とか、本当に情けない。
ううん、それにしてもすごい写真だ。
何が目的なんだろうか。
ひもみたい細い下着一枚で、かろうじて隠されている股間がもっこりと盛り上がった男性が、セクシー?なポージングをしている。
雑誌だから、下着の広告かな。
貼り付けたみたいに、綺麗に股間だけを隠しているから、最近店で見かけることの多い、縫い目がない下着ってやつだろうか。
ああいうものは、ピタッと肌にくっつく感じが苦手なんだよな。
締め付けられてなくても、なんだかこう、落ち着かなくなるというか。
……うーん、このモデルさんよりも、晋矢さんの方が素敵な気がする。
晋矢さんはどこもかしこも綺麗に筋肉がついていて、手足もしっかりと大きい。
ボディビルダーよりも、プロレスラー寄りで、実用的筋肉と言うべき肉体をしている。
全体のバランスが良い、っていうのかな。
あの美しい晋矢さんが、わたしの上で恥ずかしそうに喘ぐ姿は圧巻だ。
艶めいて花開くような若者の姿に、わたしは振り回されっぱなしで、いつでも気がつけば吐精している。
んー、晋矢さんの腹筋の方がしなやかに見えるな。
あんまりボコボコしてると、焼く前のパン生地を入れたパン型みたいに見える。
脂肪を減らして絞りすぎた肉体って、いまいちだな。
それに、こんな風にテカってると、ぬめぬめしたカエルみたいで、なんだか気持ち悪い。
昔、兄に服の中にカエルを入れられて以来、ぬめぬめ系は苦手なんだ。
晋矢さんなら手足や腹筋だけでなく、鍛えにくそうな脇腹まで筋肉がうっすらと隆起して見えて、こうばしい香りもあわせて美味しそうって感じがする。
とっても頼りになる上に世界一優しい、素敵な上に美味しそう。
若いのにすごいよな。
……あれ、この人、股間までムラなく日焼けしているけれど、どうやって焼いたのだろう。
晴れた日に、屋外で全裸で転がるのか?
竿と玉だけ隠して?
他を全部丸出し?
警察が呼ばれたりしないのか。
それにこの人、体毛がない。
こんなに面積の少ない下着からはみ出ていないってことは、無いとしか思えない。
脇毛もない。
制汗スプレーのCMに出てくる女性のようにツルツルだ。
まさか、生えてない?
そんな人はいないよな、いいや、前に無毛症って病気の話を聞いた。
あれは全身が生えてこなくなる病気だったかな?
髪の毛……カツラ?
……剃ったのか。
あゝ、そうだ前に見た映画で、ワックスを塗ってバリッ!とひっぺがす、イメチェンシーンがあった。
女性を口説く時に体毛が多いと不衛生に見られる、って。
あれ、そうなるとこの雑誌の読者層は、女性?
……返すときに晋矢さんに聞いてみよう。
いけない、文字が読みたくなくて、逃避してた。
次のページも男性で……ええと、テ・ク・ニ・ク、テクニックか。
文字のページを読もうとすると頭が痛くなってくるので、諦める。
すらりとした男の人と、筋肉質な男の人が絡みあっている写真のページの、見出しだけを少しずつ拾っていく。
全ては読み取れなかったけれど、男同士で、口づけをする時のアドバイスが書いてあるようだ。
この雑誌の読者層が分からない。
まさか男同士の口づけには、特別な作法が必要だったりするのか。
映画のシーンのようにベロベロ、チュッチュではダメなのか。
だから、〝テクニック〟が必要か、なるほど。
確かに男同士で挿入しての行為を目指すなら、準備が必要で、そのままでは濡れないからローションもいる。
ええと、他にはほぐすための道具、名前は知らない、それらとか。
きっと、口づけにも特別に必要なものがあるんだろう。
憲司くんがどこからか持ち込んだのは、晋矢さんが捨ててしまったので、今現在のわたしのアパートにはコンドームとローションのボトルしかない。
どちらも晋矢さんと一緒に買ったものだ。
私は何が必要かも知らなくて、全てを晋矢さんに任せてしまったけれど、他にも必要なものがあったのだろう。
憲司くんには浣腸を使えって言われたけれど、他にやりようがあるんだろうか。
その先も読もうと頑張るけれど、だんだん、頭が痛くなってくる。
文字ではなく、ぐしゃぐしゃに落書きしたようにしか見えない紙面から目を離す。
「……生き方とか恋愛アドバイスの本なのか?」
私には、この本はハードルが高すぎるようだ。
そういえばわたしが識字障害持ちであることを、晋矢さんに伝えてなかった。
子供向けの絵本のような色使いと文字量の、色事の指南書なんてないだろうな。
目頭を揉みほぐし、側頭を拳でトントンと叩くと、少し頭痛が治まってくるので、再び、違うページを開いてみる。
文字が多いけれど……指輪とかストロー?かな。
何に使うのか分からないものの写真が多い。
金属でできた武器のくないのような形のもの。
ストロー?
芋虫?
マッサージ器は分かる。
コ・ク、コック、さんが、リ・ン・グ、をなんとか?
なんとかブ・ジ……無事?
もしかしてブシ?
かつおぶし、武士?
カタカナで書くのか?
職業別の便利道具も乗ってるとか?
せっかく晋矢さんが貸してくれたのに。
そう思いながら、なんとか見出しだけでも最後まで目を通そう、と苦戦していると、晋矢さんからの通話着信音がした。
「はい」
「すいません弘さん俺の部屋にあった雑誌持ってってませんか!?」
「はい、今、読んで勉強しようかと思いまして」
「ひぃ、ちょ、ま、うそだろ!」
「はい?」
「それ違います読まないでください今すぐ行きます!!」
端末の向こうからガシャガシャと音がして、通話が切れた。
一体なんだったのだろう?と首をひねり、読まないでください、と言われたので、一旦、ダイニングテーブルの上に置いておくことにした。
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