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番外 〝弘〟視点
3/4 恐れを乗り越えて ※ 手淫
しおりを挟む晋矢さんがお風呂に入ったのを確認して服を脱ぎはじめて、シャワーの音が止まったと同時に扉をノックした。
「晋矢さん」
「はいっ」
「バスタオル、洗濯機の上に置いておきますね」
「あーはい、ありがとうございます」
「あと」
「はい?」
「わたしも入って良いですか?」
「はいっ?!」
返事をもらった、と勝手に決めて、全裸で扉を開ける。
築十数年の単身者向けの部屋なので、風呂の中は狭い。
それでも浴槽と洗い場が別になっているので、男二人でも入ることはできる。
「晋矢さん?」
「……っ」
洗い場の床に膝をついている晋矢さんが、ポカンとわたしを見上げている。
その表情を見て可愛いな、なんて思いつつ、扉を後ろ手で締めた。
「失礼しますね」
隙間で体を流して湯船に入り、晋矢さんの硬直が解けるのを待つ。
湯船の中に浸かると、目の前に盛り上がった肩と筋の浮いた首があるので、撫でて匂いを嗅ぎたくなるのを我慢するのが辛い。
そっと、湯船の中に隠し持っていたボトルを放す。
「弘さ、っ」
しばらくして、ようやく晋矢さんが動き出す。
両膝を床の上についた体勢のままで、ぎこちなく首を回してわたしを見てくるので、少し前のめりになって、触れるだけの口づけをした。
これまで、何もしなかったのは、ハマりたくなかったから。
依存したくなかったから。
晋矢さんが望むなら、男同士のセックスにずぶずぶにハマっても良いのだろう。
吹っ切れてしまえば恐れることはない。
突然のことに、再び固まる晋矢さん。
少しだけ顔を離してジッと見つめてみると、普段の余裕綽々の態度が嘘のように、顔を赤くして言葉が出てこないように口を開いて閉じてと繰り返している。
「好きです、晋矢さん」
もっとうまい言葉があるだろう、と自分に思いながら、恋人らしい雰囲気になれば良いなと願う。
再び顔を寄せて、舌先で晋矢さんの唇を舐めてみる。
びくりと震える以外に反応がないので、もう一度。
唇を開いて欲しい、と願いながら舐めること三度目で、晋矢さんが口を開いた。
「ひ」
何かを言う前に、かじりつくように唇を塞いだ。
これまでに晋矢さんと交わした口づけを思い出しながら、舌を動かす。
歯並びの良い前歯を一本ずつ優しくなぞるように、舌同士を絡めるように。
チュ、チュクと始めは可愛らしい音を立てていたのに、すぐに、ピチャ、ジュル、と水を含んだ音に変わっていく。
浴室内の湯気に紛れるように、晋矢さんの香りが立ち込めていく。
自然に呼吸が荒くなる。
換気扇が回っていても、狭い室内に二人もおさまっているのだから、匂いも相応だ。
晋矢さんの濃厚な発情の香りで、目を閉じていてもクラクラする。
湯船の中に隠れているけれど、わたしの前はすでに反応していた。
自分の匂いが分かるなら、今ここは、ひどく淫らな匂いで満たされているだろう。
「晋矢さん、今すぐ触れたいです」
「ふぇ、ふぁっ」
言葉になっていない返事だったけれど、ぶわりと広がった匂いが、了承を教えてくれる。
喜び、喜び、喜び、そして興奮。
ピリリとスパイスのように、わずかな逡巡。
湯船に浸かったまま片腕を伸ばして、晋矢さんの竿を撫でると、そこはすでに硬く張り詰めていた。
「弘さん、ま、待って」
「まだ、準備の前でしたか?」
晋矢さんがお風呂に入ってから、少し待ったのだけれど。
タイミングを間違えただろうか。
もしも望んでいないなら、挿入はなくても構わない。
手や口で満たせるならそれで十分だけれど、これまで晋矢さんが準備をした時は、流れで最後までするのが普通だった。
「洗ったけど、じゃなくて、ゴムとかローションが」
「ローションならあります」
「ええ?」
プカプカと半分お湯に沈んでいたボトルを取り出すと、晋矢さんの顔が、なんとも言えない表情になった。
凛々しい若者が、こんなかわいらしい表情をするのを見られて、わたしはとても幸運だ。
お風呂の中で本番に挑むのは、湯あたりしてしまうのでは無いかと思い、コンドームは持ってこなかったけれど。
次の機会があるなら、用意しておこう。
「だめですか?」
「……ダメじゃないです」
いつも晋矢さんがわたしに聞いてくるセリフだ。
やり返しているつもりはないけれど、つい言ってしまった。
湯船から立ち上がり、晋矢さんにも立ってもらう。
手のひらにたっぷりとぬるくなったローションを垂らして、晋矢さんの腰から尻臀に塗りたくる。
男らしい形で、しっかりとした質感の肉が心地よい。
指を押し返してくる。
爪を立てないように気をつけながら、撫でて、揉んで、好きなように触れる。
「っ」
たくましい逆三角形の背中が、ひくん、と震えた。
ここ?と腰と尻の境目あたりを指で押すと、再び、今度はびくん、と晋矢さんが震える。
「晋矢さん、わたしに経験が少ないのはご存知ですよね、どこが気持ち良いのか教えてください」
「っ!?」
ぐりん、と首を痛めないか心配になる勢いで振り返られて、真っ赤な顔の晋矢さんが、視線をさ迷わせた。
何かおかしなことを言っただろうか?
「そ、そこ、気持ち良いです」
「ええ、ここですね」
滑りを広げるように撫でて、指先で揉むように押すと、びく、びく、と晋矢さんの腰が踊る。
片手で引き締まったお尻にとろみを塗り込みながら、反対の手を前に伸ばす。
わたし自身は陰嚢を揉まれても少しくすぐったいだけで、気持ちよくないけれど、晋矢さんは毎回触れてくるので、気持ち良いと感じるはずだ。
自分が気持ちよくない部分に、触れてきたりしないだろう。
「ぅぁあっ」
すでに硬くなっている晋矢さんの竿をなで上げると、すぐに反応があって、晋矢さんが手を持ち上げた。
額を壁に押し付けて、口を手で塞いでしまう。
「晋矢さん、口を塞いだら、気持ち良い場所が分からないですよ、教えてください」
「意地悪言わないでくださいっ」
指の間から悲鳴に近い声を上げる晋矢さん。
意地悪?と首を傾げつつ、目の前に盛り上がっているので、汗が滲んだ肩甲骨を舐める。
「ひっ」
「しょっぱいです」
「な、それなら舐めないでくださいよ」
「なんだか美味しそうだったので」
「……弘さんが天然すぎるぅ」
天然という言葉の意味は知っているけれど、背中を舐めることが天然なのだろうか?と考える。
これまでに天然だなんて言われた事はない。
とりあえず目の前の綺麗な背中が、筋肉が滑らかに動くので、考えるのを後にした。
「綺麗な背中ですね」
背中に線を引いたように、背骨の走る中央部分が深くくぼみ、蝶が美しく羽を広げるように、緩やかに滑らかな皮膚が続く。
綺麗な逆三角形の背中は、晋矢さんが腕を動かすと連動して、浴室内の照明でつやつやと光っていた。
日焼けした肌が健康的で、若々しい。
わたし自身が、こんなにしなやかな肉体を持っていたことはない。
晋矢さんは、どこもかしこも美しい。
するすると肌を撫でて垂れていく汗が、ひどく色を感じさせる。
腰をさするだけで、びくり、と震える体が淫らで、その度に手の中で竿が揺れて擦り付けられるように錯覚してしまう。
「晋矢さん、もっと触れたいです」
身長差があるということは、腕も足も長さが違うということだ。
晋矢さんの前を愛撫しようと思ったら、ぴったりと背中に張り付くしかない。
ぴったりということは、当然。
「あ、っあ」
たっぷりとローションを垂らした自分の竿を、晋矢さんの太ももの間にねじ込む。
俗にいう素股というものだ。
両手は左右から晋矢さんの竿と陰嚢を包み込むようにして、優しく撫でて揉み込むと、小さく悲鳴が上がった。
「嫌ですか?」
「~~っ」
何か言いたげに、手で押さえた口の中で呻いてから、晋矢さんが首を振る。
「男らしくて立派な晋矢さんに、わたしがこんな風に触れて良いのか……でも、離せる気がしないんです」
「っ……んっ……んんっ」
自分が自慰するときを思い出し、竿を下から上にリズミカルにしごき、同時に張り詰めている袋をゆるゆるともみこんでいくと、晋矢さんの腰がへこへこと前後に揺れる。
わたしは他人に触れることは経験がなくても、自慰ばかりしてきているから、こちらに関してはそれなりだ。
男の気持ち良い場所なんて、人によって違いはあっても、大きくは変わらないだろう。
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